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佐藤友紀 (ジャーナリスト)
『青春と読書』2月号より
アンソニーの件がなければ接点など何もなかったはずのフィロミナとマーティンの、一見珍道中にも映るアメリカ行きが面白い。必死で息子の消息を尋ねながらも、マーティンのプライベートを少しずつさぐっていく辺りが普通のおばちゃん然としていたり。緊迫感の中にも、ファニーとしか言いようのないおかしさがあって、こちらをホッとさせる。この点については、監督のフリアーズも、マーティンを演じながら共同脚本も手掛けたスティーヴ・クーガンもそしてジュディ・デンチ本人も、「悲しい話は、″悲しいだろう〟と押しつけるだけではダメだ。シックススミスの原作がそうであるように、おかしさも加えることで、より人間らしさが描けるのだから」と語っているように、本作の一番の成功の秘訣だろう。
実は、原作ではかなりのページを割いて、アメリカに連れていかれたアンソニーの成長ストーリーが記されている。それこそ「事実は小説より奇なり」を地で行くような、彼の数奇な運命には息を飲むしかないが、トニー・クシュナー著の『エンジェルス・イン・アメリカ』にも描かれた、あの時代のアメリカの政治、個人の性癖、性生活、そして・・・・・と1人のアイルランド女性の人生が、よりスケールの大きなエピソードに広がっていくのが興味深い。
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