作家、写真家。鹿児島県姶良市出身。台湾国立高雄第一科技大学修士課程修了。
塾講師、衣料品店店長、着物着付け講師、ブライダルコーディネーター、フリー編集者など数多くの職業経験を生かし、主に働く女性に向けたエッセイの執筆や講演などを精力的にこなす一方、世界40カ国以上を旅し、旅行作家としてエッセイも執筆している。
著書に、『感情の整理ができる女は、うまくいく』『10年先を考える女は、うまくいく』『仕事ができて、なぜか運もいい人の習慣』『30歳から伸びる女、30歳で止まる女』『今いる場所で幸せになれる女の心のもち方』(以上、PHP研究所)、『遠回りがいちばん遠くまで行ける』(幻冬舎)、『あたりまえだけどなかなかわからない働く女のルール』『働く女!38才までにしておくべきこと』(以上、明日香出版社)などがある。
──怒りっぽい女はかわいそうに見える──など、働く女性の琴線にじわりと触れるフレーズ満載のベストセラー『感情の整理ができる女(ひと)は、うまくいく』の著者、有川真由美さんの新刊が発売される。 |
──作家になる以前はどんな仕事をされていたんですか?
20代の頃は、学校を出て就職をしても最終的には専業主婦になる人が多かった時代で、私もいわゆる「腰掛け」で化粧品メーカーに就職したクチでした。仕事は結婚までのつなぎぐらいにしか思っていなかったので、会社をあっさりやめて、その後は塾の講師や科学館のコンパニオン、飲食店といろいろやりました。27歳のときに、当時おつきあいをしていた方と「結婚しよう」ということになったんです。でも彼が突然、いなくなっちゃった。失踪してしまったんです。こちらとしては結婚だけを目標に生きていたので、非常に困りました(笑)。そのとき初めて「私って男の人(扶養してくれる人)がいないと生きていけない人なの? だとすると、この先の人生、かなり危ういんじゃない?」と自立を考えました。
そして、男女均等の雇用体制が整っている会社があるということで、あるメーカーに就職して店長になりました。昇格もあり、やりがいも感じられていたんですけど、キツかった。精神的にも肉体的にもキツかった。バックヤードで仮眠をとって、気がつけば今日も家に帰っていない…みたいな。そんな日々。同期もほとんどやめていき、「このままだったら、近い将来、私はきっと壊れて働けなくなる…」と思い、やめました。
そのときしみじみ感じたことですけど、「店長」というキャリアなんて、本当に清々しいほど何の役にも立たないってこと(笑)。例えば編集のお仕事ならそのスキルを持って、次のフィールドに行けますけど、「店長」といったところで「だから何?」なんです。「経験」にはなりましたが、キャリアにはならず、スキルとして脆弱。このとき、「自分の腕ひとつで稼げる仕事をしたほうがいい」と、着付け教室に通いました。ゆくゆくは着付けの仕事でもできればいいかな、と。
そのときにブライダルコーディネーターをやってみないかとお声がかかり、やってみたらブライダルのいい写真を撮ってくれる人がいなかったので、「じゃ自分で」と、一眼レフを買ってカメラマン修行(笑)。そしてカメラマンとして独立。そんな仕事をしながらマーケティング会社に入って、社長とふたりで会社を立ち上げ…って、もう転々に次ぐ転々人生。大丈夫ですか、ついてこられてます?(笑)
そうこうしているときに、「新聞社編集募集!」という広告を見て、「これは面白そう」と、採用試験を受けてみたらトントン拍子で最終選考まで残り、合格したんです。配属されたのは広告局のフリー情報誌を作る部署でした。仕事は楽しかったのですが、いわゆる5年ルール<契約社員や嘱託など有期労働契約で働く人が同じ職場で5年をこえて働き続けた場合、無期労働契約(正社員)に転換しなくてはならないことが経営者側に義務づけられている>の関係で、長くいる人からやめさせられていったんです。私はどうせやめることになるなら、5年を待たず早いほうがいいと思って3年弱でやめました。
新聞社の勤務は短い期間でしたけど、「写真を撮ること、書くことに携わる仕事がしたい」
と、仕事に対する明確な動機や希望がはっきりしたんですね。報道畑にいた編集長や報道のカメラマンに接する機会が多く、その人たちの影響もあって、「ジャーナリストになろう!」と、上京しました。
そのときすでに38歳。上京してすぐに、海外で活躍されているジャーナリストの方々にお会いして、話を聞かせていただいたんですけど、豊富で濃密な経験と知識の積み重ねの凄まじさに愕然としました。ここであきらめればよかったのに根が楽観的なので「だったら自分の目で世界を見て、経験や知識をつけよう」と、貯金が底をつくまで2年間ほど、アテネを中心にヨーロッパやアジアを放浪したんです。だけど歩けば歩くほど、見れば見るほど、「私の手には負えない」ということが、わかってしまうんですよ。まさに身の程知らずの勘違いだったって。 じゃあ、私は一体何をすればいいんだろ。と、もがく中で出した結論は本を書くこと。もうそれしかなかったんです。じゃ何を書く? 何が書きたい? 何が書ける? そのとき、「私ほど転職を繰り返し、多くの職業を経験した人ってそういないんじゃない? 職種だけでも50、職場だったら100は超えるな。上司も部下も正社員も派遣もバイトもパートも経験アリ。地方も都会も海外でも働いた。私ほど、女性の職場を見た人もいないだろう」と思ったんです。だったら、その様々な職場で共通する、働く人のルールって書けるんじゃないかなって。それがデビュー作『あたりまえだけどなかなかわからない 働く女(ひと)のルール』になりました。 |
──世界をいろいろ見てこられた有川さんですが、なぜ留学先に台湾を選ばれたんでしょうか?
台湾はご存じのとおり、第二次世界大戦が終わるまで、50年もの間、日本の統治下にありました。今もその50年の間に根付いた日本の文化がたくさん残されているんですね。日本には無くなってしまったものや手放してしまったものが、台湾にはたくさん残っているんです。美しい日本語を話すおじいちゃんがいたり、「かつての日本人にはあったであろう情緒」を台湾の人が持っていたりする。地理的にも近いし、なんせ親日家が多くて「あなたの国はいい国だ、いい国だ」と、言ってくださるので、「本当ですか?」と(笑)。「台湾で日本を知る」ということにすっかりハマってしまいました。
それに働く女性がすごく面白いんです。アジアの中では就業率もトップクラスですし、それこそ女性リーダーがとても多くて、民間企業はもちろん、市役所や県庁などの公的機関では女性リーダーのほうが多いくらい。大学教授も多いですね。
台湾の女性から見ると、日本の女性はすごくリスクの高い働き方をしているように映るらしいんです。「日本人女性は結婚をすると仕事をやめる人が多いけど、リスキー過ぎる。人生何が起こるかわからないのに。それに親に学費を出してもらって大学に行って、せっかく会社に入ったのに結婚したらやめるなんて、なんで?」と。日本の場合、女性が働きたいのなら「家事や育児と仕事を完璧に両立させるべき」と、多くの方が思っていますよね。男性はもちろん、当の女性までが「働くからには、絶対両立したい。そうじゃなきゃ失格」と、自分にすごく厳しくあたる。
台湾の大学院の同級生は20代から70代までいたんですが、30代の同級生はフルタイムで働きながら、大学院に通って講義を聴き、レポートや論文を書き、3歳と1歳の子どもを育てていました。日本だったら「子どもが小さいうちは無理しないで、家にはいって子育てしたら?」なんて言われちゃうと思いますが、彼女曰く「子どもがいるからこそ稼がなくちゃいけないの。子どもがいるからこそ仕事をやめるわけにはいかない、キャリアアップもしたい。だから大学院にも通っているの。日本とは反対でしょ?」うーん、これは面白いな、と。
子どもがいるから働けない…って意外と固定観念? と思うんですよ。政治や文化の背景、社会制度の違いなどあると思いますが、台湾の女性は働くことをあきらめないんですね。
私は働きたい! って、声に出すんです。とりあえず言う。言ってみる。
とりあえず、職場に子どもを連れてきてみる。で、問題がなければ明日も連れてきちゃう、みたいな(笑)。働く日本女性が嫌う公私混同ってやつですよね。プライベートと仕事の境界線が限りなく溶けてるというか、むしろないというか。いい意味でいい加減なんです。
いいじゃないですか。立派じゃなくても、完璧に両立できなくても、人に甘えても、なんとなくできていれば。日本もそんな女性リーダーが増えることで、もっと働きやすく、もっと楽になると思うんですよね。
──世界中で多くの働く女性に接してこられたと思いますが、どこの国の女性が印象的ですか?
アメリカの女性はセクハラに厳しくて、たとえば、知人のアメリカ人女性は、ごはんに誘われた程度でも「セクハラだ!」と感じてしまうそうです。これがヨーロッパだと、胸元が大きく開いたタイトな服でオフィスに行って「あなた、男の人に誘われもしないでどうするのよ」的なことを言ったりする。所変わればで、面白いですよね。
でも私が一番感心するのは、やっぱり日本人女性の働きっぷりですね。真面目で優秀で繊細な気配りができる。協調性もあって、謙虚で、とにかくがんばり屋。海外のどの国の女性も日本人の半分も働いてない気がします。このあっぱれな働きっぷりは海外に行ったら、すぐトップになれるはず、もったいない! といつも感じて、地団駄踏みそうになるんです。日本はもっともっと、女性リーダーが増えることが大事。政治や文化はもちろん、会社経営もそうでしょうが、何かをてっとり早く変えるには上が変わるのが一番ですから。
働き方が変わりつつある今だからこそ、女性はみんなリーダーを目指していただきたいと思っているんです。男性とは違う、女性だから発揮できるリーダーシップがあると思うんです。争わない、闘わない、支配しないリーダーシップのあり方。
本にも書かせていただきましたが、
「部下は敵ではなく味方。信頼してしまう」
「飲んで本音を言うことより、飲まなくても本音を言える関係を作る」
「仕事相手、スタッフの名前をちゃんと呼ぶ」
「7割聞いて、3割話す」…五十条すべてが、リーダーとしてはもちろんですが、どこでも通用する「仕事人としてのツボ」でもあるんです。
──『好かれる女性リーダー…』というタイトルですが、好かれる…が大事? 好かれる…が大事です(笑)。これ、おもねっているわけでもなんでもなく、人と関わる以上、「好かれない」って人生、すごく損することになる。まして嫌われるなんて、単純にしんどいし、ストレスフルですよ。プライベートなら「離れる」という選択もできますが、仕事ではそうはいきませんよね。 「好かれない」だけで、無用なバッシングを受けたり、嫉妬を受けたり、無視されたり…いいことなしです。会社が家族的役割を果たしていた昔は「あえて好かれない人」の存在価値もあったと思うんです。憎まれ役というか、耳が痛いことばかり言うけれど一目置ける先輩や上司たち。でも、人がこれだけ流動的になり、関係性が希薄になった今は、「好かれない」人はただのキツい人、怖い人、ウザい人です。自分も相手も気持ちよく働くために、「好かれる」は大事なことだと思います。 ──好かれるリーダーになるための究極の一カ条があるとすればなんでしょう? |
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