たまたまライブで見た「地下アイドル」に、人生を賭けるほどのめりこんでしまった40代独身女子の夏美。なんと無謀にも、地下アイドルのプロデュースに挑戦することに。そんな夏美のもとに4人の若者たちが集まった。
所属するアイドルグループが解散して行き場をなくしたカエデ、女装してライブに通う高校生の翼、みずからを「天使」と自称するいじめられっ子の瑞穂、自分に自信を持てないままステージに立ち続ける愛梨——。
ユニットの運命は、そして5人の夢の行方とは。青春長編小説。
たまたまライブで見た「地下アイドル」に、人生を賭けるほどのめりこんでしまった40代独身女子の夏美。なんと無謀にも、地下アイドルのプロデュースに挑戦することに。そんな夏美のもとに4人の若者たちが集まった。
所属するアイドルグループが解散して行き場をなくしたカエデ、女装してライブに通う高校生の翼、みずからを「天使」と自称するいじめられっ子の瑞穂、自分に自信を持てないままステージに立ち続ける愛梨——。
ユニットの運命は、そして5人の夢の行方とは。青春長編小説。
楓=宝塚歌劇団に憧れるが年齢制限で挑戦できず、地下アイドルに。所属するアイドルグループ「インソムニア」が解散して行き場をなくした23歳。
翼=女装が趣味の男子高校生。アイドル好き。かわいさに自信があり、中途半端な地下アイドルに厳しい。
天使ちゃん(瑞穂)=家庭の不和と、学校でのいじめを抱えた女子高生。自分を「天使」と称する設定で、心を守っている。
愛梨=東京の地下アイドルグループ「ガールズフレア」に所属していたが、クビを宣告される。自分の顔にコンプレックスを抱いている。
「地下にうごめく星」 刊行記念
鹿目凛さん(でんぱ組.inc/ベボガ!)×渡辺優さん対談
アイドルはみんなのために、
みんなはアイドルのために!
「ラメルノエリキサ」で第28回小説すばる新人賞を受賞した渡辺優さんの新刊『地下にうごめく星』が発売されます。本作は、小さなライブハウスなどでの公演を中心に活動する「地下アイドル」をテーマにした長編小説です。
ゲストにお迎えするのは、アイドルグループ「でんぱ組.inc/ベボガ!」の「ぺろりん」こと鹿目凛さんです。鹿目さんは「ベボガ!」で活躍する一方、昨年末、国内のみならず海外からも注目を集めている「でんぱ組.inc」に加入し、活躍の場を広げています。アイドル活動だけでなく、「ぺろりん先生」名義で四コマ漫画やイラストを発表し、アイドルとオタクの研究書も刊行するなど、マルチな活動を展開する多彩な才能の持ち主。
渡辺さん自身、ぺろりん先生の大ファンで、憧れのアイドルを至近距離にして、いささか緊張気味の雰囲気で対談が始まります。
構成=増子信一/撮影=露木聡子
ナマで会いに行ける
アイドルの魅力
今度の話を書くときには、鹿目さんの本(『アイドルとヲタク大研究読本』)をすごく参考にさせていただきました。
ありがとうございます。
あの、「鹿目さん」とお呼びしたほうがいいのか、「ぺろりん先生」とお呼びしたほうがいいのか。
全然、呼びやすい感じでお願いします。
それでは、ぺろりん先生と呼ばせていただきます(笑)。
ぺろりん先生はツイッターで「オタク」のイラストを上げてますけど、最初、アイドルの人が描いてるっていうのを知らずに見てたんです。そしたらアイドルとオタクの研究本も出されているというのを知って、小説を書くときに頼りにさせていただいたんです。
よかったです。ありがとうございます。
イラストに描かれている出来事は、実体験の中からのものなんですか。
そうですね。アイドル活動の最初のうちは、なかなか人気も出ず、フォロワーも増えず、どうしたらいいかなって思って、何かちょっと日記みたいな感覚で、こういうオタクの人いるよね、とか描いたらちょっと反響があって、それで描き続けた結果がこうなったって感じです。
アイドルから見たオタクだけじゃなく、オタクサイドのコメントというか、イラストも描かれるじゃないですか。私のようなわりとオタク側の人間としては共感できる部分があって、ああいう気持ちがわかるというのは、もしかして、ぺろりん先生も、もともとオタクだったんですか(笑)。
そうですね。でも、アイドルになりたてのころって、あんまりアイドルに詳しくなくて、唯一好きだったのがでんぱ組.inc(以下、でんぱ組)さんで。
あっ、ご加入、おめでとうございます。ほんとにびっくりしました。
ありがとうございます。優さんはアイドル、お好きだったりするんですか。
私の世代って、中学生のころにモーニング娘。さんがすごい人気で、大学生ぐらいのときにAKBさんがすごい人気で、そういうテレビで見るアイドルさんは好きでした。でも、四、五年前に初めて仙台で地下アイドルを見て、ナマで見るアイドルのかわいさもですし、熱気というか、空気感がすごくて、それに衝撃を受けて、それをもとに小説を書き始めたんです。
今日もこうしてナマで拝見して、すいません、ずっとデレデレしています(笑)。画面越しで見るだけでも魅力的だとは思うんですけど、やっぱりナマで会いに行けるとか見に行けるっていう世界は独特ですね。
小説の最初のほうで、初めてライブハウスへ行った夏美が、「ほんもののアイドルのライブみたい」っていうと、「いやいやいや、一応ほんもののアイドルですから」ってアイドルオタクの後輩に返されるところがありますけど、何かすごいわかるなって。
たとえば、テレビで見るメジャーアイドルしか知らない一般の方が、インディーズアイドルを初めて見たら、やっぱり別に見えるのかなって思うし、でも、実際同じアイドルっていうカテゴリーだし、ファンの人たちもほんもののアイドルとして見ている。そういうそれぞれの目線の人の気持ちがわかりました。
あの夏美がライブに行く場面は、ほとんど私の実体験なんです。私も職場のオタクの人に連れられて初めて地下アイドルを見に行ったんですけど、そのときの気持ちがまさに、「アイドルって実在してるんだ」みたいな感じでした。
わかります。現実世界とアイドルのいる世界は別世界だけど、その二つの世界が融合したみたいな……。
ぺろりん先生は、でんぱ組に憧れていたと本の中でも描かれていましたけど、まさにその憧れの世界に実際に入ったわけじゃないですか。それって、どんな気分なんですか。
ミュージックビデオとかバラエティー番組とか動画で見ていた憧れの遠い存在から、突然同じメンバーになりましょうっていわれて、そこに自分がいていいのかなっていう、ちょっとした戸惑いもありました。
目標にしていた遠いゴールにいきなり着いちゃったみたいな感じですものね。
あと、仕事の量が単純に倍になった分、一つ一つのお仕事を丁寧にやらないといけないというプレッシャーがあります。それに、失敗しちゃったときにすごい反省したり、同じ大変さでも、大変さの質が変わってきて、だからでんぱ組加入当初はすごい怖かったですね。
ぺろりん先生がでんぱ組に入ったというのは、作家でいえば、デビューしたてでいきなりものすごいベストセラーを出したみたいな感じなんでしょうか。めちゃめちゃうれしいだろうけど、すごい怖いだろうと。そして、大変さの種類が変わるっていうのもわかる気がします。
写真集のサインを大量に書くとか、そういうことが増えたので、ちょっとレベルアップできたかなという。
そう、ファースト写真集『ぺろりん』、刊行おめでとうございます。めちゃくちゃかわいかったです。
ありがとうございます。
入口が広くて出口が狭い世界
新たにでんぱ組に加入されて、その後写真集が出て、おまけにライブに向けてダンスのレッスンを毎日されてるってツイッターに書かれていますよね。アイドルオタクの知人から、アイドルのダンスレッスンはすごい厳しい、みたいな話を聞いたことがあるのですが、実際いかがですか。
今までの私って、ダンスが苦手で、ごまかしちゃう部分とかあったんですけど、ごまかしがもう通用しないというか。
ダンスが苦手なところもかわいいね、みたいな世界じゃなくなっちゃったということなんですか。
自分のせいでライブのクオリティーが下がるのは嫌だなって。
今のお話を聞いていると、今回私が書いたのは、だいぶ地下の地下のアイドルの話なので、同じアイドルの話ですというのが申しわけなくなりました。
いやいやいや。けっこう共感する部分もありました。たとえば、アイドルグループのそれぞれのメンバーの人生やアイドルになりたい人たちの人生が、個人個人に書き分けられていたので、やっぱり人によっていろんなストーリーがあるなと思ったし、アイドルになりたいきっかけとかもそれぞれだなと。
ちなみに、ぺろりん先生のアイドルになりたいきっかけって何でしたか。
私は、もともと家に引きこもって学校とかまともに行ってないときに、このままじゃだめだなと思いながらネットサーフィンしていたら、でんぱ組の『W・W・D』のミュージックビデオを見つけて。
まさに、でんぱ組。
そうなんです。
このままじゃだめだなっていうときにアイドルになろうと思えるっていう、そのアイドルの「身近さ」というのがすごいと思います。私の世代からすると、アイドルというのは、やっぱりモー娘さんとか、すごいオーディションを勝ち抜いて、何万人から選ばれるものだと思っていたので。
すごい遠いものですよね。
でも今は、ほんとになりたいと思えば、その人の努力次第でなれる。セーフティーネットじゃないですけど、アイドルという存在が人々の希望になっている部分があるように思います。
今って、なりたいと思えばアイドルになれたり、夏美のようにプロデュースとかの運営にもなれる時代じゃないですか。この小説には、そういう今の時代がよく映し出されていますよね。夏美のような運営の人となると、お金もかかるし大変だけど、アイドル側なら、レッスンとかそういうのはちょっと大変だけど、ただステージに立つだけならけっこうハードルが低い。
入口が広い感じがする。
そうです。入口が広いけど、でも、出口は狭い。
確かに、ゴールにたどり着かない人のほうが多いですよね、きっと。
入るのは簡単かもしれないけど、ずっとアイドルをやり続けたり、テレビに出れるような成功した人って、ただやりたいだけじゃなくて、長期的にやっていくんだっていう強い気持ちとか根性がないとだめなんですよね。
なりたいと思って実際にステージに上がれるっていうのは、夢のある世界だと思いますね。もちろん、ぺろりん先生みたいにすごい人気が出るというのが一番すばらしいストーリーなんでしょうけど、ちょっとだけかじってやめた人も、それがいい思い出というか、それをきっかけに今後の人生をポジティブなほうにもっていけるような気がします。
一瞬アイドルにかかわれるかなっていう可能性があるだけでも希望になるし、きらきらした世界に憧れるというだけでも何か得るものがあるにちがいないと思って今度の小説を書いたんですけど、そう思えるのは、その先にちゃんと輝いて、ほんとうに成功してる人がいてこそなんですよね。
〝天使ちゃん〟みたいに、アイドル活動を通して自分の居場所を見つけたり、そういうきっかけになるのがすばらしいですよね。私自身もそうですけど、この小説には、アイドル活動イコールきっかけ、人生のターニングポイントというのが出ていて、すごくよかったです。
アイドル活動を、女優さんになるとかモデルになるとかの第一歩の入口として考えている人もいると思うんですけど、ぺろりん先生は、女優さんになるとか歌手になるとか、アイドルのその先みたいなのがあるんですか。
今はとにかくアイドルがめちゃくちゃ楽しくて。でも、アイドルってナマものだから一生ものじゃないんですよね。
ナマもの!
ナマものだからこそアイドルなんですけど、私はいつかアイドル活動で鍛えたトーク力や声量とかを活かして、バラエティー番組や声優さんのお仕事もやってみたいし、漫画とかイラストも描けるマルチな人になれたら、とは思います。
一人はみんなのために、
みんなは一人のために
この話を書いていて心配だったのが、「こんなことありえない」ってプロの方から思われたりしないかなっていうことだったんですけど、おや?みたいなところはなかったですか。
ありえないというか、あくまでも個人的な意見ですけど、「アイドル」という章で、あるアイドルグループの子がファンの人のことを「うわ、気持ち悪い」と思うシーンがあるじゃないですか。私、自分を応援してくれるファンの方に気持ち悪いという感情を持ったことがまったくなくて。
もちろん、ほんとうは苦手だけど仕方なくやっているっていう子もいるだろうし、ほんとに人それぞれなんですけど、でも、私は違うなと思いました。
安心しました。「みんなこう思ってるよ」って言われちゃったら逆に……(笑)。
そういうのって、ファンの側もわかっちゃうものかもしれないですしね。
以前、あるアイドルがツイッターで、「私はほんとうにファンの人好き」って書いているのを見て、いや、これは当たり前のことだし、わざわざ言うのもなって思いましたけど、でも、ファンの人はそう言ってもらえるのがうれしいというのも、よくわかります。
この前、虹のコンキスタドールさんのライブに行かせていただいたんですけど、やっぱりメジャーデビューされたグループの現場は迫力がありました。私が見てきたところだと、まだクラスメートのかわいい子が文化祭の舞台で踊ってる、みたいな雰囲気のグループも多かったんですけど、それとは全然雰囲気が違っていて。
でもベボガ!のライブも、昔は「お遊戯会」っていわれてたんですよ。それは、やっぱりすごい悔しかったですね。
そういう、自分たちで納得できなかった初期のステージのときから引き続き応援してくれている人って、顔とか覚えたりもしますか。
たまにメンバー同士で「昔この人がリプくれたんだけど、懐かしくない?」っていって、「懐かしい」「この時代、何とかさんもいたよね」「いたね。今何してるんだろうね」みたいな、そういう話をしたりしますね。
ファン冥利に尽きますね。
最後に、小説の中でも「地下アイドル」って言葉を使っていますけど、ぺろりん先生は、この言葉に対してどう思われているのか、聞かせていただけますか。
正直いえば、「地下アイドル」っていわれることに対してちょっと悔しいという気持ちがありました。実際にライブに来た人が「地下」と言う分には、ああ、そうなんだなって思うけど、一般的には、売れてないとか、ファンが少ないとか、キャパが小さいとかのイメージが強いですよね。お話の中でも〝天使ちゃん〟のお母さんが、アイドル業界に危ないようなイメージをもっていますけど、今こうして私がいるのも、地下でやってきたおかげというのもあるし。
だから、「地下アイドル」という言葉から偏見がなくなって、さっき話したようないいきっかけの場所として、ハッピーなものになればいいなって思います。
「一人はみんなのために、みんなは一人のために」という言葉、学生のころはわからなかったけど、でも、アイドルになってやっとほんとうの意味がわかったんですよ。目標に向かって頑張るアイドルを周りのファンの方が応援する。そういう一人の人間をみんなが応援するっていう仕組みは、何か、平和だなと(笑)。世の中には応援したくても応援できない人もいるし、応援できる人がいっぱいになることによって、他人のことを思いやれるんじゃないかなって。そういう文化がすばらしいですよね。
ファンからすると、応援したいと思えるアイドルがいてくれるのがもう、「世界ありがとう」みたいな。
そうですよね。ファンの人からも、アイドル、いてくれてありがとうと思うし、アイドル側からしても、ファンの人がいてくれてありがとうって思うし、相思相愛の関係ですね。
これからも応援させていただきます!
「青春と読書」2018年4月号より転載
作家。1987年宮城県生まれ。大学卒業後、仕事のかたわら小説を執筆。2015年に「ラメルノエリキサ」で第28回小説すばる新人賞を受賞。著書に『自由なサメと人間たちの夢』がある。
1996年埼玉県生まれ。アイドルグループ・ベボガ!、でんぱ組.incのメンバーとして活動。SNSを中心に「ぺろりん先生」の名でアイドルとファンの関係性を風刺した漫画・イラストを発表している。
社内の後輩のアイドルオタクに誘われ、四十代にして初めて地下アイドルの合同ライブを観に行った仙台在住の会社員、松浦夏美は、ステージ上の一人のアイドルを見た瞬間、「私、アイドルプロデューサーになる」と思い立つ。そのアイドルのカエデは幼い頃からタカラジェンヌに憧れ、いくつかの道を模索しながら「地下アイドル」という選択肢にたどり着いたのだった。夏美のもとに、そんな若者たちがひとりまたひとりと集まってくる。「ただ、可愛くなりたい」という“翼くん”は、女装のドルオタ。自らを「訳あって人の世界に舞い降りた天使」と称する美少女“天使ちゃん”の誘いを受けて、地下アイドルのオーディションを受けることに……。はかない輝きを追いかけ、自らの居場所を探す人々の姿を描く、青春長編小説。