自分の部下が 刑事とチームを組んで謎の事件を解決してくれる。
報道番組の責任者を8年近く続けてきた私にとって夢のようなストーリーが展開されるのが小説「ヘッドライン」だ。
私が5年間プロデューサーという立場で関わってきた「報道ステーション」をはじめてとして、ありとあらゆる報道番組は、2種類の大事なお客様と毎日向きあって仕事している。
ひとつは姿が直接見えないお客様。
テレビの前の視聴者である。
どれだけの人たちに見てもらえたのかは 視聴率という数字でのみわかる。多くの人に見てもらわなくては番組は生き残れない。そこで私たちはなんとか視聴者の信頼を獲得しようと競争を始める。当然、他の番組が放送をしていないスクープを求めることになる。
もうひとつの「向き合い」は そのスクープをもたらしてくれる「取材源」の人たちだ。
スクープがまいこんでくるルートはさまざまだが 政治部や社会部の記者の地道な取材が実を結ぶものもあれば、番組に所属するディレクターの長年の取材活動や人間関係が思わぬ結果をもたらすこともある。
東都放送ネットワーク――TBNの「ニュースイレブン」で責任者のデスクをつとめる鳩村は、なかなかコントロールが難しいが時折、とんでもない情報をつかんでくる部下、布施京一を抱えている。
布施は、日常スクープを追い求める記者にとっては大事な「取材源」である刑事の信頼を勝ちとり、最後はタッグを組むという離れ業で事件の真髄に迫っていく。
布施の活躍にスクープを期待してしまう上司・鳩村。一方で同じジャーナリストとして感じる布施への強烈な嫉妬心。鳩村の心の動きが克明に描かれ、なんとも面白い。というか作者は、 毎日放送されるニュース番組の裏側で展開される「製作者のドラマ」をどのように取材されたのだろうか。以前、報道現場で台本などを制作する放送作家をやっておられたのか?
これまで数々の報道番組を舞台にしたドラマや小説があったが、ここまでリアルな人間関係が描かれている作品に出会うのは珍しい。 |