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——『怪物』は老刑事と犯罪者の物語ですね。事件の規模は小さめですが、福田作品の魅力の一つである"個人の生き様"が強調されていると感じました。
「人間の相互理解について描きたかったんです。他人には解らない能力として、香西刑事には死の匂いを嗅ぐという属性を与えました。人間が孤独なのは理解されないからで、これはもう究極の孤独だろうと。でも香西は自分が理解されないと悟っているのに、他人を理解したつもりでいる。そこを裏切られる怖さがストーリーの中心になっています」 |
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——ごく普通のサスペンスだと、定年間近の刑事は犯罪者を捕らえようと奮闘するわけですが、孤独の中にいる香西は思いがけない選択をする。多くの読者がそこで意表を突かれると思います。
「他人のことは解らない、でも人間は他人を突き放したくないと感じる。そんな哲学が基盤にあるんですね。物語はその線に沿って進んでいきます」 |
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——重要なアイテムとして死体を溶かす装置が登場しますが、このアイデアはどこから得られたのでしょうか。
「科学的な興味が先にあったんです。高温と高圧をかけた"亜臨界水"は有機物を何でも溶かす、という雑誌記事を数年前に見て、いつか使いたいと思っていました。それが今回のテーマと相性が良さそうに見えたんです。下水処理にも活用されているそうで、たぶん実行は可能でしょう。あまり言わないほうが良いのかもしれませんが」 |
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——タイトルの「怪物」にはどんな含意があるんでしょうか。
「理解できない存在というイメージです。人間は理解できないものを怖く感じる。でも結局のところ、人間の中にはある程度の"怪物"が居る。そんな人間の"怪物性"を描いた話なんですね」 |
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——最後に抱負をお願いします。
「デビューから約四年。『怪物』は九冊目の本になりますが、これからも一作ごとに読者を驚かせていきたい。『次はどうなるんだよ!』と読み手を引っ張る漫画が大好きなので、私も『少年ジャンプ』形式で頑張りたいですね(笑)」 |
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旺盛な好奇心を取材に活かし、詳細な情報とテーマを組み合わせることで、福田和代は独自の物語世界を生み出していく。初期作品の大掛かりな設定は本質ではなく、著者が持つ意匠の一つに過ぎない。正統派のハードボイルドやアクションロマン、病院を舞台にした青春小説や宇宙エレベーターSFなど、これから上梓される作品群(いずれも連載中)のバリエーションからもポテンシャルは明らかだろう。旧来のイメージを脱した心理サスペンス『怪物』は、その変幻自在ぶりを本格的に開花させた"初弾"。著者の本領が発揮されるのはここからだ。 |