内容紹介 定年間近の刑事・香西の心残りは3ヶ月前に時効を迎えた未解決の幼女誘拐殺害事件。「奴の部屋には殺人の匂いが残っていたのに」…香西には、生物が死んだ場所で「死の匂い」を感知するという特殊な能力があったのだ。定年まであと1ヶ月。すでに主軸から外されている香西は、失踪者・橋爪の足取りを単独で捜査中、訪れた最新鋭のゴミ処理施設で思いがけず「あの匂い」を嗅いでしまう。部屋の主は、すべてを溶かす水——亜臨界水の若き研究者・真崎亮。植物のようなたたずまいのこの青年が、「骨も溶かせる」というあの装置を使って橋爪を溶かしたのだろうか。真崎を追い始めた香西に、ある日「幼女誘拐殺害事件の犯人を知っている」という女から電話がかかってくる……。
福田和代プロフィール 1967年神戸市生まれ。神戸大学工学部卒業後、システムエンジニアとなる。2007年、航空謀略サスペンス『ヴィズ・ゼロ』でデビュー。
『TOKYO BLACKOUT』『オーディンの鴉』『ハイ・アラート』『迎撃せよ』『タワーリング』など、緻密な取材と専門知識に裏づけされた骨太な作品を次々に上梓し続けている。

福田和代ON LINE http://www.fukudakazuyo.com/
twitter:kazuyo_fuku
応援コメント 興奮の声、続々!

「死の匂いをかぎわける異能の主人公の
造形の妙と描かれる異常な事件のもつ
リアルな日常性
に、私は自分の存在の
希薄さを思い知らされ、不安から恐怖へ
と陥れられた。
福田和代は新たに恐怖のカードを手に入れた。
映像化を希望します。
佐藤英明(映画監督「これでいいのだ!! 映画★赤塚不二夫」)

怖い、怖すぎる!
「正義感」の脆弱さを浮き彫りにした、
福田和代の筆力こそが、まさに怪物!
吉田伸子(書評家)

鼻息を荒くして読み始めましたが、まさに期待を裏切らない
第一級エンタテインメントでした。
福田さんの地道な取材が見事に花開いた作品!
力を入れて売っていきたい!
<有隣堂書店・アトレ恵比寿店 加藤泉さん>

今までの福田小説の「外からくる恐怖」とは違う、
「内側にある恐怖」におののきました。これを読むとき、
あなたはヒトが怪物という名の闇にとらわれる瞬間の目撃者となるでしょう。
ニュータイプの福田和代の魅力があふれ出している小説!
<精文館書店・中島新町店 久田かおりさん>

最後の一行に、背筋に走る冷感と戦慄を覚えずにはいられない。
徹底したリアリズム、硬派なたたずまい、そんな福田テイストに加え、
今回は割り切れなさという人の営みにおける命題を描ききっている、
いや本当にすごい大傑作だ!!
<紀伊国屋書店・豊洲店 金沢勝さん>

人一倍正義感の強い人間が堕ちるのは、やはり人を守るためなのだな。
真崎亮の静かな禍々しさに自分の「正義」の感覚が狂わされる気がした。
それにしても福田さんの着眼点はいつも流石!と唸ってしまう。
これだから福田ファンは止められない。
<旭屋書店・名古屋ラシック店 山崎蓮代さん>
書評エッセイ
吉田伸子(書評家・「青春と読書」6月号より再録) まさに"怪物級"のボディーブロー
 本書を読み終えた時の怖さを、何と表現すればいいのだろう。ぞくぞくでも、ぞわぞわでもなく、何かこう、邪悪なものが、しゅるしゅると足下から這い上がって来るような、足掻いても足掻いても、絡めとられてしまうような。できれば、目を逸らしていたい、生理的な怖さなのだ。
 物語の中にあるのは、二つの事件である。一つは被疑者不詳のまま幕切れとなってしまった、小学生の少女の誘拐殺人事件。もう一つは、中年サラリーマンの失踪事件。二つの事件の間にいるのが、定年間近の一人の刑事・香西だ。この香西が、ある特殊な能力——「死」の匂いを嗅ぐことができる——を持っていたことから、接点のなかった二つの事件が絡まりあい、思いもよらぬ方向へと物語は転がっていく。
 根底にあるのは、かつて、少女誘拐殺人事件で、ある大学生の部屋で少女の死の匂いを嗅ぎとっていながら、物的証拠がないために容疑者リストから外してしまった香西の無念だ。犯人が分かっているのに、という香西の歯がみする想いが、十五年後、サラリーマンの失踪事件とかかわることで、香西の中にある何かを、ゆっくりと蝕んでいく。
 二つの事件の絡まりあいと、物語の結末は本書で味わっていただきたい。いやもう、本当に怖い。怖くて、だけど、読み始めたら頁を繰る手が止まらない。それは、薄気味悪い場所を、全力で走り抜けたくなる時の感じに似ている。けれど、本書はそう簡単に走り受けさせてはくれない。灯りが見えたと思った方向に走ると、そこは既に灯りが消えていて、別の方向に灯りが、というように、最後の最後の出口まで、どきどきしてしまう。
 読後、タイトルである「怪物」の意味が、ボディブローのように、じわじわと効いてくる。そして、読者は気付くのだ。「正義感」というものの脆弱さに。
 本書は、まさに「怪物級」の一冊だ!
著者インタビュー
Special interview 大解剖!! ミステリー作家・福田和代ができるまで!
<死>の匂いを嗅ぐ刑事の絶対的な孤独を書きたかった

取材・文/福井健太 写真/久保陽子

 航空謀略小説『ヴィズ・ゼロ』で衝撃的なデビューを飾り、大規模なパニックノベルやサイバーサスペンスで人気を博している福田和代。高い取材力に定評のある彼女は、多彩なテーマを扱う柔軟なエンタテイナーでもある。その略歴を簡単に辿りながら、福田作品の魅力の源泉に迫ってみたい。
ミステリー作家・福田和代ができるまで!
 ——創作を始めたのはいつ頃でしたか。
「小学生の頃から漫画と小説を描いていました。自由帳に漫画を描いて、回し読みをしてもらうのが楽しかったんです。SFっぽいファンタジーが多かったですね」
 ——学生時代はどんな本を読んでいましたか。
「アイザック・アシモフやラリィ・ニーヴンのSFとか、C・J・チェリィの〈色褪せた太陽〉シリーズとか。国内だと小松左京さんや堀晃さん。それでハードSFを書きたくて、大学の工学部に進みました。周りには『おまえは文学部に行け!』と止められましたけど(笑)。ミステリーはもともと翻訳物を読んでいて、エラリー・クイーン派でしたが、アリステア・マクリーン、ジャック・ヒギンズ、ディック・フランシスなどの冒険小説も好きでした。その後、高校の図書館で江戸川乱歩賞の受賞作をまとめて読んだ頃から国内物に移行して、北方謙三さんの〈ブラディ・ドール〉シリーズに没頭したんです。酒場を中心にしたハードボイルドで、要するに『酒場小説』なんですけど、その影響でシェーカーを買ってきて研究したり、ちょっと場末のバーが好きになったり(笑)。私が文章を短く切るのも北方さんの影響かもしれません」
 ——デビューまでの経緯を教えてください。
「十年間ぐらい推理小説の新人賞に応募していたものの、最終候補の手前で落ちることが多くて、自分の小説に足りないものを補うために大阪シナリオ学校(現・創作サポートセンター)という所に入りました。大勢の現役作家さんが講師をされていて、そこで青心社の社長に長篇をお見せしたのがデビューのきっかけでした。『ヴィズ・ゼロ』一冊出しただけではプロとは呼べないし、次はどの賞に出そうかと迷っていたら他社さんに御依頼をいただいて、そのまま現在に至っております」
これまでの作品を振り返って
 ——『ヴィズ・ゼロ』が新聞や雑誌の書評で話題になり、翌年には東京の大停電を描く『TOKYO BLACKOUT』が刊行されました。
「あの設定は打ち合わせの時に浮かんで、それから取材を始めたんです。現実にあんな事態になるとは想像もしませんでした。『黒と赤の潮流』は阪神大震災の直後に作った話です。私自身は被災者ではありませんが、生まれ育った神戸への応援歌を書こうと思って、好きな小道具である船や拳銃を盛り込んで、以前から温めていたタイ人青年のドラマを加えました」
 ——『プロメテウス・トラップ』はハッカーが活躍する連作、『オーディンの鴉』はインターネットを扱ったサスペンスですが、ここには御自身のSE体験が反映されているんでしょうか。
「当時の知識は役に立ちました。『プロメテウス・トラップ』はキャラクター小説として楽しく書けたシリーズです。『オーディンの鴉』を書くにあたっては、検事さんのお仕事を取材させていただいて。この取材は面白かったですね」
 ——『ハイ・アラート』は爆弾テロ、『迎撃せよ』は軍事色の強いクライシスものですね。
「『ハイ・アラート』は私が二番目に書いた長篇で、デビュー前からあった原型を直したものです。『迎撃せよ』は2009年に北の国がミサイルを撃ってきた頃、駐屯地で警護している自衛官を携帯で撮っている人たちを見て、両者に温度差を感じたのが発端でした。自衛隊で働いているのは普通の人々で、彼らが行っている国防というのは、私達の安全を守るインフラの一つなんだよという視点を示したかったんです」
 ——『タワーリング』では高層ビルが占拠されますが、一般的なパニックノベルのような暴力性や暗さはほとんど見られません。
「パニックノベルという意識は無くて、自己流の昭和の総括をやりたかったんです。高度成長期を支えてきた人々と、若い人々の両方を理解できるのが自分の世代。だから両面から書けるはずだと考えました」
社会派作家としての視点
 ——綿密な取材に基づくディテールは福田作品の持ち味ですが、やはり取材がお好きなのでしょうか。
「人と話すのは楽しいし、特にお仕事の話を伺うのが好きです。たとえば電力会社はどんな仕事をしているのか、電気はどんな経路を辿るのか。そんな話を聞いて『電力マンはこんなに凄いことをしていたのか!』と驚くわけです。私の書きたい物語というのは、取材して勉強したいものでもある。私がワクワクして調べに行くので、そのワクワク感が小説に出れば良いなと思います」
 ——現在、特に気になっているテーマはありますか。
「アジアの国々に興味を持っています。日本版『アラビアのロレンス』を書きたいという構想があるんです。日本は侵略戦争をしたけれど、アジアの欧州からの独立を真剣に考えていた軍人も多いはず。個人の集合体であるはずの組織が、なぜ個人の嫌がることをするのか。個人の倫理観と組織の論理はなぜ食い違うのか。これは以前から不思議に思っている疑問の一つです」
 ——発想の根幹には社会派の視点があるんですね。
「新聞が好きなんです。自然に頭に残るものが"強い言葉"になると思うので、ネタ帳を作るのは辞めたんですけど。小説の題材を考える時には、今一番怒っている人は誰だろうかと考えます。怒っても良いはずなのに、あまり怒っていない人達がやらかしたらどうなるか。そこから造型したのが『ハイ・アラート』の若者達でした。綿密に計算しているわけではなくて、書き終えてから『自分はこういうことを書きたかったんだな』と気付くほうが多いんですが(笑)。当初のプロット通りに完成したのは『オーディンの鴉』ぐらいです」
 ——福田作品には"本当の悪人"が少ない印象があります。犯罪に手を染めた人物でも、何らかの共感を得られるように描かれている。
「悪人が犯罪を犯すわけではないと考えています。二人の首を斬り落とした殺人犯が、裁判員に『やり直せるとしたらいつに戻りたいか』と聞かれて『中学生ぐらいまで戻らないと駄目だ』と答えたニュースがありましたが……本人も解っているんですよ。やったことは酷いけれど、彼を『絶対的な悪』とは言い切れない気がする。これは『怪物』のテーマにも繋がる話かもしれません」
最新作の暗示する「怪物」とは
 ——『怪物』は老刑事と犯罪者の物語ですね。事件の規模は小さめですが、福田作品の魅力の一つである"個人の生き様"が強調されていると感じました。
「人間の相互理解について描きたかったんです。他人には解らない能力として、香西刑事には死の匂いを嗅ぐという属性を与えました。人間が孤独なのは理解されないからで、これはもう究極の孤独だろうと。でも香西は自分が理解されないと悟っているのに、他人を理解したつもりでいる。そこを裏切られる怖さがストーリーの中心になっています」
 ——ごく普通のサスペンスだと、定年間近の刑事は犯罪者を捕らえようと奮闘するわけですが、孤独の中にいる香西は思いがけない選択をする。多くの読者がそこで意表を突かれると思います。
「他人のことは解らない、でも人間は他人を突き放したくないと感じる。そんな哲学が基盤にあるんですね。物語はその線に沿って進んでいきます」
 ——重要なアイテムとして死体を溶かす装置が登場しますが、このアイデアはどこから得られたのでしょうか。
「科学的な興味が先にあったんです。高温と高圧をかけた"亜臨界水"は有機物を何でも溶かす、という雑誌記事を数年前に見て、いつか使いたいと思っていました。それが今回のテーマと相性が良さそうに見えたんです。下水処理にも活用されているそうで、たぶん実行は可能でしょう。あまり言わないほうが良いのかもしれませんが」
 ——タイトルの「怪物」にはどんな含意があるんでしょうか。
「理解できない存在というイメージです。人間は理解できないものを怖く感じる。でも結局のところ、人間の中にはある程度の"怪物"が居る。そんな人間の"怪物性"を描いた話なんですね」
 ——最後に抱負をお願いします。
「デビューから約四年。『怪物』は九冊目の本になりますが、これからも一作ごとに読者を驚かせていきたい。『次はどうなるんだよ!』と読み手を引っ張る漫画が大好きなので、私も『少年ジャンプ』形式で頑張りたいですね(笑)」
 旺盛な好奇心を取材に活かし、詳細な情報とテーマを組み合わせることで、福田和代は独自の物語世界を生み出していく。初期作品の大掛かりな設定は本質ではなく、著者が持つ意匠の一つに過ぎない。正統派のハードボイルドやアクションロマン、病院を舞台にした青春小説や宇宙エレベーターSFなど、これから上梓される作品群(いずれも連載中)のバリエーションからもポテンシャルは明らかだろう。旧来のイメージを脱した心理サスペンス『怪物』は、その変幻自在ぶりを本格的に開花させた"初弾"。著者の本領が発揮されるのはここからだ。
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