RENZABURO
内容紹介 著者プロフィール 各担当のテマエミソ 書評

発売日 2015年9月4日(金)
集英社刊 定価(本体1,200 円+税)
四六判ハード  232P
装丁:大久保伸子
装画:吉實恵
内容紹介
オーストラリアに住むことになった少年・真人と
その家族の、故郷の物語。

真人は、父親の転勤にともない、家族全員で日本からオーストラリアに住むことになった。現地の公立小学校の5年生に転入した真人だったが、英語が理解できず、クラスメイトが何を話しているのか、ほとんどわからない。いじめっ子のエイダンと何度もケンカをしては校長室に呼ばれ、英語で説明できず鬱々とした日々が続く。そんなある日、人気者のジェイクにサッカークラブに誘われた真人は、自分の居場所を見つける。一方、真人の母親は、異文化圏でのコミュニケーションの難しさに悩み苦しんでいた――。

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著者プロフィール 岩城けい(いわき・けい) 大阪府生まれ。大学卒業後、単身オーストラリアに渡り就職。以来、在豪22年になる。2013年に「さようなら、オレンジ」で太宰治賞を受賞しデビュー。14年、同作で大江健三郎賞を受賞した。『Masato』は、両賞受賞後初の作品となる。
各担当のテマエミソ
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書評

居場所を選ぶ 瀧井朝世(ライター)

 2013年に太宰治賞を受賞したデビュー作『さようなら、オレンジ』が芥川賞候補になり、大江健三郎賞を受賞するなど話題となった岩城けい。待望の第二作は前作同様、彼女が現在住んでいるオーストラリアが舞台だが、今回の主人公は少年である。
 父親が4年間の赴任を命じられたことから、家族でオーストラリアにやってきた真人(まさと)。現地の公立小学校の5年生のクラスに転入するが英語が理解できず、クラスメイトにいじめられてしまう。一方、母親も日本人の婦人会のつきあいに追われて英語の勉強もままならず、さらには子供たちの将来に悩み、不安と不満を募らせていく。
 冒頭、母親が学校からの「料理を持ってきてください」という連絡事項を「皿を持ってきてください」だと思い(作品内では触れてないが、“dish”の意味を間違えたのだろう)、真人がクラスでからかわれる場面がなんとも辛い。しかし見る間に彼の英語力は磨かれて現地の仲間に溶け込んでいき、むしろ日本の友達とは疎遠になっていく。ここで伝わってくるのは、子供の柔軟さ。
 対照的なのは母親の苦労だ。現地の人々とのコミュニケーションに悩むだけでなく、真人の日本語能力の低下を心配した彼女は、無理矢理サッカーチームを辞めさせ補習校に通わせようとして、結果的に息子に大きなストレスを与え、夫とも意見が対立してしまう。
 異文化に放り込まれた家族の姿を少年の眼を通して描き、環境によって人の信頼関係がいかに簡単に揺らぐかを浮かび上がらせる。この物語には誰と生きるかではなく、どこで生きるかの選択という、大きなテーマが含まれている。そこには、人は居場所を選ぶことができる、という希望もこめられている。少年だけではなく、大人たちも苦しみ成長していく。そうして一人ひとりが自分で決断を下し、居場所を選択する結末は、ほろ苦くも、たくましい。
(「青春と読書」2015年9月号再掲)

たきい・あさよ ●ライター





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