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『神様ゲーム』からおよそ五年ぶりの新作『貴族探偵』が刊行になります。今作ではあらたな探偵キャラクター「貴族探偵」が登場するわけですが、探偵が「貴族」とは実に奇抜な設定ですね。しかも、彼にとって推理、謎解きは雑事であることに衝撃を受けました。 |
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麻耶 |
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推理しない探偵っていうのを考えたときに、その設定が一番うまくはまるのが、貴族のような存在ではないかなと思ったんです。単なるお金持ちだと、ちょっと別の嫌みが出てくるかなと。 |
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これまで、メルカトル鮎と美袋、木更津悠也と香月というふた組のコンビを書かれています。読者が深読みすることが可能な批評性を備えた探偵とワトソンの関係ともいえるわけですが、今回はそれも超越してしまった印象を受けました。 |
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麻耶 |
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それでも、探偵のあり方についての延長だとは思うんです。 |
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具体的にはどういうことでしょう? |
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麻耶 |
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すべてをワトソンが面倒見てくれるっていう(笑)。 |
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推理も含めてというところがすごいですよね。麻耶さんはこれまでのインタビューで、探偵は推理をするというよりは、事態を完結させる人間だと語っています。その究極の形が、貴族探偵なのでしょうか? |
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麻耶 |
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同時期に神様探偵(『神様ゲーム』に登場する鈴木君)も考えていたので、必ずしも究極とかではありませんね。あくまで一つの方向性で。 |
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『貴族探偵』はキャラクターの側面から読んでもたいへん愉快な小説です。メルカトルと美袋、木更津と香月は、関係性に屈託やひねりがあります。それに比べて今作はきわめて明朗な印象を受けました。神様探偵をつくったことで、その反動で貴族探偵が生まれたのでしょうか? |
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麻耶 |
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同時期なので、特に反動というのではないんです。タイプが異なるアイディアが二種類生まれたということでしょうか。貴族探偵の場合は、まず最初に、性格はともかく探偵そのものには何の色も属性もつけないようにしようという考えがありました。探偵が少しでもいいところを見せると、ほんとうはできる人間なのにふだんは召使いにやらせているととられかねないですから。 |
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実は何もできないということを強調しようと? |
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麻耶 |
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いや、逆にできないっていうのも見せない。できるかどうかは不明ということです。何の属性もつけずに、あくまで抽象化された、探偵という名目だけで存在しているつくりにしようというのがあったんです。 |
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純化された探偵像という感じでしょうか。 |
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麻耶 |
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ある意味、純化されていますね。本編の探偵役は、あくまでも貴族探偵なんですよ、召使いじゃなくて。一応、物語は貴族探偵が完結させているわけです。(推理は別の者にゆだねて)最後の締めを貴族探偵がもっていくことによって、貴族探偵が名探偵であるということをやりたかったんです。偉そうな物言いになってしまうのですが、名探偵ってこういうものだよ、という自分にとっての一つの答えが貴族探偵なんです。ただ、あくまで答えの一つでしかないので、まだまだいろいろやってみたいですね。 |
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何か新たな探偵のアイディアがあるのですか? |
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麻耶 |
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アイディアというよりも、もっと突き進めたらどういうことになるんだろうっていう好奇心ですね。答えは今のところ全く見えていないのですが、もっと掘り下げていきたいと考えています。 |
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神様と貴族の続きがあるなんて、ワクワクしてきますね。 |
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麻耶 |
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ただ、オーソドックスな探偵を創ってこなかったせいで、普通にミステリーを書こうとした時に大変なんですよ(笑)。 |
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