あらすじ
アメリカの超やり手スポーツ・エージェントである著者・JBは、とある大学生アスリートの強欲さに辟易していた。いきなり契約金100万ドル、現金で用意しろと言うのだ。怒って契約を破棄し、深夜にふとテレビに目を向けると、たまたま放送していたのがインドのクリケットの試合だった。インドではクリケットが盛んであり、野球については未開の地だという。インドの青年人口は約1億5000万人。もしやその中には、素晴らしい肩を持ち、世に擦れていない、メジャーリーガーの素質をもつ逸材がいるのではないか?
突飛なアイディアから、『ミリオンダラー・アーム』計画は始まった。インドのテレビ局と提携し、各地を巡ってピッチングのオーディション番組を行い、優勝者をメジャーで活躍できる投手に育て上げるのだ。その無謀さに、周囲は彼を嘲笑した。実際、インド各地をめぐる道中では、文化の違いによる壁いくつもが立ちはだかった。口約束での契約。破裂する現地製のボール。はじめて野球ボールに触れた若者達の型破りな暴投。
だがついに、光る原石を見つけた。ふたりの学生、リンクとディネシュである。JBはどうにか彼らをアメリカに連れて戻るが、ここでも難関が待ち受けていた。ふたりは英語も野球も初心者である上、故郷の家族に対する責任感がのしかかってくる。そんな中JBはふたりと共に悩み、向き合いながら、自分の中で何かが変わりはじめていることに気づくのだった。そして、適用試験の日がやってくる……。
下手だからこそ面白い
野球というと、とかく「チームワーク」や「チームのために」などの自己犠牲的な精神論が語られがちだが、実際は個人競技である。「投げる」「打つ」「捕る」「走る」。それぞれの局面で試されるのはもっぱら個人技で、そこには上手い下手がある。上手ければ賞賛され、下手ならば「何やってるんだ!」と罵倒されるわけなのだが、私などは下手のほうが印象に残る。「下手の横好き」という言葉もあるように、下手な人に限ってこよなく野球を愛していたりする。下手だからこそ頑張っており、その頑張りが人にも伝わって、大袈裟にいえば勇気まで与えてくれるのである。
本書は、やり手のスポーツ・エージェントである著者がメジャーリーガー(ピッチャー)の新人発掘のためにインドに出かけていくという前代未聞のノンフィクション。ほとんど野球を知らないインド人たちに、球を投げさせてテストするというのだから無謀ともいえる企画だ。
フォームはそれこそ滅茶苦茶で、砲丸投げのように胴体の捻りで投げる10m単位の暴投をする、さらには球をスタッフの顔面に直撃させる等々トラブルが相次ぐ。彼らは力の加減を知らず、常に全力投球。まさに一球入魂で周囲を破壊する勢いなのである。
しかし著者はあきらめない。法的なトラブルに巻き込まれながらも、元やり投げの選手2人をアメリカに連れて帰り、メジャーリーグの現役ピッチャーやコーチの指導を受けさせ、悪戦苦闘の末、ついにインド人初のプロ野球選手(マイナーリーグ)を誕生させる。
「これほど儲けが少なく、得るものが大きいクライアントを持ったことがない」
と本人が述懐するように、ビジネスとしては大失敗だったそうだが、著者は下手な2人との交流を通じて挑戦する勇気に目覚め、恋人にプロポーズして結婚。新たな一歩を踏み出すのである。
下手だから野球は面白い。そしてエラーするから人生なのだと教えてくれる快著です。
野球というと、とかく「チームワーク」や「チームのために」などの自己犠牲的な精神論が語られがちだが、実際は個人競技である。「投げる」「打つ」「捕る」「走る」。それぞれの局面で試されるのはもっぱら個人技で、そこには上手い下手がある。上手ければ賞賛され、下手ならば「何やってるんだ!」と罵倒されるわけなのだが、私などは下手のほうが印象に残る。「下手の横好き」という言葉もあるように、下手な人に限ってこよなく野球を愛していたりする。下手だからこそ頑張っており、その頑張りが人にも伝わって、大袈裟にいえば勇気まで与えてくれるのである。
本書は、やり手のスポーツ・エージェントである著者がメジャーリーガー(ピッチャー)の新人発掘のためにインドに出かけていくという前代未聞のノンフィクション。ほとんど野球を知らないインド人たちに、球を投げさせてテストするというのだから無謀ともいえる企画だ。
フォームはそれこそ滅茶苦茶で、砲丸投げのように胴体の捻りで投げる10m単位の暴投をする、さらには球をスタッフの顔面に直撃させる等々トラブルが相次ぐ。彼らは力の加減を知らず、常に全力投球。まさに一球入魂で周囲を破壊する勢いなのである。
しかし著者はあきらめない。法的なトラブルに巻き込まれながらも、元やり投げの選手2人をアメリカに連れて帰り、メジャーリーグの現役ピッチャーやコーチの指導を受けさせ、悪戦苦闘の末、ついにインド人初のプロ野球選手(マイナーリーグ)を誕生させる。
「これほど儲けが少なく、得るものが大きいクライアントを持ったことがない」
と本人が述懐するように、ビジネスとしては大失敗だったそうだが、著者は下手な2人との交流を通じて挑戦する勇気に目覚め、恋人にプロポーズして結婚。新たな一歩を踏み出すのである。
下手だから野球は面白い。そしてエラーするから人生なのだと教えてくれる快著です。
『青春と読書』9月号より
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