『おれのおばさん』
(集英社文庫/本体450円+税)
単身赴任中の父が横領で逮捕。都内有数の進学校に通う中学2年生の陽介は、札幌で児童養護施設を切り盛りする「おばさん」に預けられることに。初めての集団生活に放り込まれた「おれ」は戸惑いながら、自分の生きる道を見出していく。
(解説・中江有里)


中学生ばかりが暮らす札幌の小さな児童養護施設・魴鮄舎(ほうぼうしゃ)。率いる恵子おばさんはいつだって真っ向勝負、エネルギッシュな変わり者で、彼女の情熱にたくさんの子どもたちが生きる道を見つけてきた。その魴鮄舎が閉鎖の危機にさらされているという。東北地方を襲った未曾有の震災から一年、耐震性が問題視されたのだ。今は魴鮄舎を離れ仙台の高校に進んだ陽介、青森の高校でバレーボール選手として活躍する卓也はすぐにおばさんのもとに駆けつける。が、当の恵子おばさんはなぜか「無理する気はない」と宣言。必死の思いで存続活動を始める陽介だったが、ある日、春高バレー進出を決める大事な試合を前に卓也が寮を飛び出したとの連絡が。卓也はどこへ向かっているのか? そしておばさんの真意は?
児玉清さん、北上次郎さん、中江有里さん、斎藤美奈子さん、尾木直樹さん…たくさんの熱い支持を得てきた青春小説ベストセラー・第26回坪田譲治文学賞受賞『おれのおばさん』シリーズ待望の最新刊、感動の第一部完結編!


■もう一度十代の人生を味わう
――一緒に出会っていく感じですね。
映画でも一人称の視点でカメラが動いていくのがありますけど、自分もその場面に初めて出会っていく感じなんです。さっきいったように、陽介が波子さんの前で泣くわけですが、それまでの陽介は懸命に自分を保とうと気を張っていた。それが波子さんと話しているうちに、思わず感情があふれる。ぼくも書きながら、まさかああいうふうに涙があふれるとは思っていなくて、陽介と一緒に我慢して、我慢して……。
――ところが、あふれてしまった。
あふれた(笑)。でも、涙があふれてよかったなって。
――最後に、このシリーズを書き続けることで、佐川さんご自身、もう一回十代を生きているような感覚ってありませんか?
もう一回十代の人生をやれているという感覚はたしかにあります。子どもが育って、大人になりかけていくときに、この後どうなっていくのかと思ってすごく冷や冷やするじゃないですか。自分の息子がいままさにそうだし、ぼく自身、北大へ行ってがらっと世界が変わった。そういう感覚を、「おれのおばさん」シリーズを書きながら味わってきました。でも、人生はさらに続いていくわけです。自分では高校までにかなりなことを経験したつもりでいても、大学生になったり社会人になったりすると、これまで培ってきた力だけじゃあ、とても太刀打ちできないのがわかる。ですから、今回の『おれたちの故郷』でひと区切りがついたわけですけど、これから先で陽介や卓也が社会に出ていったときには、手加減をせずに、うんと大変な目にも、うんといい目にも遭わせてやろうと思います。いや、ぼくが企むんじゃなくて、彼らが勝手にいろいろな目に遭っていくんでしょう。
――そうしたドキュメント感というか、ライブ感が読み手にも伝わってきます。書き手がすべての答えをわかっていて、予定調和でそれを小出しにするのではなく、読者も書き手と一緒に歩いていける。
三島由紀夫や織田作之助は、ラストの一行が決まってから小説を書き始めたそうですが、頭のほうでいったように、ぼくは綿密なプロットは作らずに、主人公の年齢や家庭環境といった大まかな設定を思いついたところで書き始めて、後は書きながら見つけていく。「おれのおばさん」シリーズでは、ぼくは小説家というよりもノンフィクションライターです。陽介や卓也や恵子おばさんがそれぞれの流儀で行動してゆく様子を間近で見て、文章で書き写している感じです。
――ということは、今後の展開を佐川さん自身もドキドキしながら楽しみにしている。
そのとおりです。読者のみなさんも作者の存在は忘れていて、恵子おばさんが怒りを爆発させる姿に喝采をおくっている。どんどん背が伸びてゆく卓也の活躍に胸を踊らせて、陽介と波子さんの恋の行方を本気で心配してくれています。まさに作者冥利に尽きるのですが、それだけに、この後書けなかったらどうしよう、ここで打ちどめになったらどうしようというのが一番怖いんですけど。
――でも、だからこそ、物語もスリリングに躍動して、それが読み手にも伝わるのだと思います。
そうですね。自分の人生もまさにそういうふうに進んできたというか、出版社を辞めた後、と畜場で働くとは思っていなかったし、その後に小説家になる道があるとも思っていなかった。陽介も卓也も恵子おばさんもまだまだ道に迷い、あいつはもうダメだと周囲に見放されながらも、決して諦めずに努力を積み重ねていくんでしょう。
――陽介たちは、どんな道に行ってもやっていける感じがしますね。
陽介は、ちょっと体力がなさそうだけど、まあ、大丈夫でしょう。卓也も大怪我をしない限り大丈夫。二人とも、今後も骨のある人たちの中で揉まれて、偉い人になりそうな気がする。
――私が気になるのは大竹君ですね。
大穴張りですね(笑)。
――大竹君は何とかしてやってほしいと思ってドキドキしてるんですけど。
はい、ぼくもドキドキしています。次に出てきたときに、大竹はどんな人間になっているのか。陽介や卓也に対して、どんなことをいうのか、すごく楽しみです。★了
――一緒に出会っていく感じですね。
映画でも一人称の視点でカメラが動いていくのがありますけど、自分もその場面に初めて出会っていく感じなんです。さっきいったように、陽介が波子さんの前で泣くわけですが、それまでの陽介は懸命に自分を保とうと気を張っていた。それが波子さんと話しているうちに、思わず感情があふれる。ぼくも書きながら、まさかああいうふうに涙があふれるとは思っていなくて、陽介と一緒に我慢して、我慢して……。
――ところが、あふれてしまった。
あふれた(笑)。でも、涙があふれてよかったなって。
――最後に、このシリーズを書き続けることで、佐川さんご自身、もう一回十代を生きているような感覚ってありませんか?
もう一回十代の人生をやれているという感覚はたしかにあります。子どもが育って、大人になりかけていくときに、この後どうなっていくのかと思ってすごく冷や冷やするじゃないですか。自分の息子がいままさにそうだし、ぼく自身、北大へ行ってがらっと世界が変わった。そういう感覚を、「おれのおばさん」シリーズを書きながら味わってきました。でも、人生はさらに続いていくわけです。自分では高校までにかなりなことを経験したつもりでいても、大学生になったり社会人になったりすると、これまで培ってきた力だけじゃあ、とても太刀打ちできないのがわかる。ですから、今回の『おれたちの故郷』でひと区切りがついたわけですけど、これから先で陽介や卓也が社会に出ていったときには、手加減をせずに、うんと大変な目にも、うんといい目にも遭わせてやろうと思います。いや、ぼくが企むんじゃなくて、彼らが勝手にいろいろな目に遭っていくんでしょう。
――そうしたドキュメント感というか、ライブ感が読み手にも伝わってきます。書き手がすべての答えをわかっていて、予定調和でそれを小出しにするのではなく、読者も書き手と一緒に歩いていける。
三島由紀夫や織田作之助は、ラストの一行が決まってから小説を書き始めたそうですが、頭のほうでいったように、ぼくは綿密なプロットは作らずに、主人公の年齢や家庭環境といった大まかな設定を思いついたところで書き始めて、後は書きながら見つけていく。「おれのおばさん」シリーズでは、ぼくは小説家というよりもノンフィクションライターです。陽介や卓也や恵子おばさんがそれぞれの流儀で行動してゆく様子を間近で見て、文章で書き写している感じです。
――ということは、今後の展開を佐川さん自身もドキドキしながら楽しみにしている。
そのとおりです。読者のみなさんも作者の存在は忘れていて、恵子おばさんが怒りを爆発させる姿に喝采をおくっている。どんどん背が伸びてゆく卓也の活躍に胸を踊らせて、陽介と波子さんの恋の行方を本気で心配してくれています。まさに作者冥利に尽きるのですが、それだけに、この後書けなかったらどうしよう、ここで打ちどめになったらどうしようというのが一番怖いんですけど。
――でも、だからこそ、物語もスリリングに躍動して、それが読み手にも伝わるのだと思います。
そうですね。自分の人生もまさにそういうふうに進んできたというか、出版社を辞めた後、と畜場で働くとは思っていなかったし、その後に小説家になる道があるとも思っていなかった。陽介も卓也も恵子おばさんもまだまだ道に迷い、あいつはもうダメだと周囲に見放されながらも、決して諦めずに努力を積み重ねていくんでしょう。
――陽介たちは、どんな道に行ってもやっていける感じがしますね。
陽介は、ちょっと体力がなさそうだけど、まあ、大丈夫でしょう。卓也も大怪我をしない限り大丈夫。二人とも、今後も骨のある人たちの中で揉まれて、偉い人になりそうな気がする。
――私が気になるのは大竹君ですね。
大穴張りですね(笑)。
――大竹君は何とかしてやってほしいと思ってドキドキしてるんですけど。
はい、ぼくもドキドキしています。次に出てきたときに、大竹はどんな人間になっているのか。陽介や卓也に対して、どんなことをいうのか、すごく楽しみです。★了



1965年2月8日生まれ。東京都出身、茅ヶ崎育ち。北海道大学法学部卒業。出版社勤務を経て、大宮の食肉処理場で働く。2000年「生活の設計」で第32回新潮新人賞を受賞。2002年『縮んだ愛』で第24回野間文芸新人賞受賞。『ジャムの空壜』『家族芝居』『虹を追いかける男』『静かな夜』『鉄童の旅』など著書多数。ノンフィクションに『牛を屠る』。2011年『おれのおばさん』で第26回坪田譲治文学賞受賞。






『おれたちの青空』
(集英社文庫/本体500円+税)
魴鮄舎(ほうぼうしゃ)に暮らす中学生たちも受験の季節。陽介とともに施設で暮らす同級生・卓也も受験を前に自らの出自に苦しんでいた。ある大雪の日、とうとう家出を敢行する…(「小石のように」)、「あたしのいい人」、表題作の全3篇を収録。
(解説・木皿泉)
(集英社文庫/本体500円+税)
魴鮄舎(ほうぼうしゃ)に暮らす中学生たちも受験の季節。陽介とともに施設で暮らす同級生・卓也も受験を前に自らの出自に苦しんでいた。ある大雪の日、とうとう家出を敢行する…(「小石のように」)、「あたしのいい人」、表題作の全3篇を収録。
(解説・木皿泉)



『おれたちの約束』
(単行本/本体1200円+税)
札幌を離れて仙台の高校の寮へ入った陽介。中国からの留学生、政治家の息子、芸大志望の変り種、など新しい仲間もできた。しかし、秋の学園祭の日に大地震が起きる。学校の再開まで仙台に留まり復興を担う決意をした陽介は、出所した父と再会を果たすが…。
(単行本/本体1200円+税)
札幌を離れて仙台の高校の寮へ入った陽介。中国からの留学生、政治家の息子、芸大志望の変り種、など新しい仲間もできた。しかし、秋の学園祭の日に大地震が起きる。学校の再開まで仙台に留まり復興を担う決意をした陽介は、出所した父と再会を果たすが…。



高見陽介
17歳。仙台の新興進学校・東北平成学園の特待生として寮暮し。中学2年のとき、銀行員だった父親が横領して逮捕。母の姉である恵子おばさんが切り盛りする札幌の児童養護施設・魴鮄舎に預けられた。
おばさん(後藤恵子)
魴鮄舎代表。親の反対を押切り福井から北海道大学医学部に入学するも、中退。ともに劇団を立ち上げた後藤善男との結婚・離婚を経て、児童養護施設の運営を始める。ひとり娘の花は東京で看護師として働く。陽介の母の姉。
柴田卓也
陽介の親友であり魴鮄舎での同級生。複雑な生い立ちを背負い小学6年生にあがる前に魴鮄舎に入り、陽介と出会う。現在は、青森大和高校バレー部で才能を開花させ、U-19の選抜選手としても活躍する。
17歳。仙台の新興進学校・東北平成学園の特待生として寮暮し。中学2年のとき、銀行員だった父親が横領して逮捕。母の姉である恵子おばさんが切り盛りする札幌の児童養護施設・魴鮄舎に預けられた。
おばさん(後藤恵子)
魴鮄舎代表。親の反対を押切り福井から北海道大学医学部に入学するも、中退。ともに劇団を立ち上げた後藤善男との結婚・離婚を経て、児童養護施設の運営を始める。ひとり娘の花は東京で看護師として働く。陽介の母の姉。
柴田卓也
陽介の親友であり魴鮄舎での同級生。複雑な生い立ちを背負い小学6年生にあがる前に魴鮄舎に入り、陽介と出会う。現在は、青森大和高校バレー部で才能を開花させ、U-19の選抜選手としても活躍する。
後藤善男
恵子おばさんの元夫。東京でグループホームを運営している。東京へ行った陽介が世話になったことがある。
陽介のお父さん
副支店長として単身赴任中、愛人のため横領、逮捕。離婚せず、ともに借金を負った妻に支えられ、出所後の現在は群馬の老人ホームで働く。
陽介のお母さん
夫の逮捕後、陽介を姉に預け借金返済のためがむしゃらに働く。魴鮄舎では「ほうおばさん(優しいほうのおばさん)」と親しまれている。
大竹徹
陽介、卓也の中学校時代の同級生。父親の失業で、仙台に引っ越した。卓也とは中2の冬、お互いが学校をさぼった日に偶然会い、ちょっとした旅をした。
波子さん
陽介が中二の夏休みに奄美大島で出会い、父への複雑な思いを打ち明けた相手。陽介とは、以来文通やメールで交流を続けている。東京在住の高校二年生。
中本/菅野/周
東北平成学園の陽介の同級生。中本は政治家志望、菅野は芸大志望の変わり種。周は、中国からの留学生。
ありさ/奈津
魴鮄舎での同級生。乗り鉄として恒例の夏休み合宿のときに大活躍。
野月
魴鮄舎の第一期生。
恵子おばさんの元夫。東京でグループホームを運営している。東京へ行った陽介が世話になったことがある。
陽介のお父さん
副支店長として単身赴任中、愛人のため横領、逮捕。離婚せず、ともに借金を負った妻に支えられ、出所後の現在は群馬の老人ホームで働く。
陽介のお母さん
夫の逮捕後、陽介を姉に預け借金返済のためがむしゃらに働く。魴鮄舎では「ほうおばさん(優しいほうのおばさん)」と親しまれている。
大竹徹
陽介、卓也の中学校時代の同級生。父親の失業で、仙台に引っ越した。卓也とは中2の冬、お互いが学校をさぼった日に偶然会い、ちょっとした旅をした。
波子さん
陽介が中二の夏休みに奄美大島で出会い、父への複雑な思いを打ち明けた相手。陽介とは、以来文通やメールで交流を続けている。東京在住の高校二年生。
中本/菅野/周
東北平成学園の陽介の同級生。中本は政治家志望、菅野は芸大志望の変わり種。周は、中国からの留学生。
ありさ/奈津
魴鮄舎での同級生。乗り鉄として恒例の夏休み合宿のときに大活躍。
野月
魴鮄舎の第一期生。