──お二人は以前からの知り合いだそうですね。 畑野 私が一方的に追っかける形で何度かお会いしてます。 西野 初めて会ったのはいつかな。 畑野 一番最初は西野さん作・演出の『グッド・コマーシャル!!』という舞台を見に行ったときにロビーにいらっしゃるのを見て、次の一人芝居『ダイヤル38』の後にロビーでサインをもらったんです。 西野 小説家になる前やね。 畑野 まだ全然。 西野 あっ、でもそのときから小説家になるって言ってた。 畑野 「自分もものを作ってるんで」みたいなことは言いましたね。その後にキングコングライブを大宮まで見に行ってまたサインをもらって。で、次が西野さんの2冊目の絵本の『ジップ& キャンディ』が発売されたときのサイン会で、「私、小説家になりました」って言ったんです。 |
にしの・あきひろ タレント、絵本作家。1980年兵庫県生まれ。漫才コンビ・キングコングの活動のほか、舞台脚本、絵本の制作など、幅広く活躍している。絵本に『Dr.インクの星空キネマ』『オルゴールワールド』等。 |
西野 そうそう、そうや。あっという間に作家になって、びっくりしたんですよ。 畑野 西野さん、ファンの顔をよく覚えてますよね。 西野 覚えてる、覚えてる。そこからトントン拍子というか、すごいペースで本を出してるよね。これで何冊目? 畑野 この本が7冊目ですね。 西野 小説書いてて楽しい? 畑野 楽しいですね。 西野 どの瞬間が楽しいの? もうずっと「うーん……」みたいな時間でしょう。 畑野 私、あんまり考えないから(笑)。だいたい常に楽しいですよ。現実のことを考えるのが嫌なんで、小説のことを考えてるほうが楽しいですね。 西野 そっか。絵本だと、思いついてから本になるまで、平気で3年とか4年とかかかったりする。僕のパソコンの中には、生きている間には絶対に消化できないぐらいアイデアのストックがあるんだけど、小説の場合ってどうなの? |
畑野 今まではバーッと出してたんですけど、ちょっと出し過ぎちゃって。そんなに書いても本になりませんという状態なので、今ちょっとセーブしています。 西野 抑えてるんだ。へえ、すごいね。今、年いくつだっけ? 畑野 私、西野さんより年上なんですよ。 西野 うそ! 畑野 1歳年上ですよ。そうそう、私、ずっと気になってたんです。西野さんは絶対に私のことを年下だと思ってるなって(笑)。 西野 マジで? 「お嬢ちゃん、頑張ってんな」とか言ってたもんね。でも、もうこれは戻せないから。ここから敬語にとかできないし。 畑野 全然大丈夫です(笑)。 西野 作家になるまでは何してたの? 畑野 バイトですね。私、31歳のときに新人賞をもらっているんで、10年以上フリーターでバイトしてました。 西野 本書きになってやれ、みたいなんはずっと心にあって? 畑野 最初は演劇をやりたかったんです。映像を撮ったりもして、バイトしつつ遊んでるみたいな期間があったんですけど、後半の5年くらいは小説家になろうと思って書いてました。 西野 そうかあ。24とかそれぐらいやろなと思ってた。 畑野 じゃあ、24ってことで(笑)。 |
──畑野さんが『ふたつの星とタイムマシン』の装画を西野さんに描いてほしいと思われたのはなぜですか。 畑野 西野さんに絵を描いてほしいという希望はずっとあったんですけど、描くのが大変ですし……。 西野 そう、面倒くさいねん、これ。 畑野 お仕事も忙しいだろうし。だから難しいだろうなと思っていたんです。でも、編集者さんのほうから、今回の本にすごく合うんじゃないかって言われて、「いやいや、そんな。無理無理」って最初は思ったんですが、描いていただけるなら今回だっていう気持ちもあって。私、デビューしたときから「会いたい人はいる?」みたいなことを聞かれると、必ず西野さんの名前を出していたんです。 西野 そこまで言われたら断れませんよ(笑)。それで、お台場の日本科学未来館に行ったんですよ。ロケットの超かっこいいエンジンがあって、うわ、このエンジンかっこいいと思って、エンジン描きたいと思ったんですよ。 畑野 西野さんのツイッターでそのことを知ってびっくりしました。私も取材で種子島に行って宇宙センターでロケットのエンジンを見たので、ああ、つながってると思って。 西野 あと、タイムマシンだよね。打ち合わせで、この小説に出てくるタイムマシンをそのまま描いてもタイムマシンとはわからないだろうと。それでどうしましょうかということになって描いたのがこれ。この絵みたいなシーンは作中にないんですけどね。 畑野 カバーを見て買った人が読んで、カバー関係ねえじゃん、と思われたら、すいませんっていう感じですね。 西野 それ、たまにやっちゃうんですよ。でも「引き」があるほうがいいなと思って。女子高生が乗ってる自転車がタイムマシンなんですけど、車輪が時計の文字盤で、逆回転すると過去へ行けたらいいなと。こんな乗り物欲しかったんですよね。子どものころ、乗り物をいっぱい考えてたんですよ。それにこの女の子の顔がすごいタイプなんですよ、僕の。 畑野 ああ(笑)。 西野 化粧っ気がないっていうんですか。腰の曲がり方とかも好きなんです。 畑野 スカートの広がり方をツイッターで募集しているのを見て、どうしようと思いました(笑)。 西野 いや、だから最初、本当は誰かにモデルを頼もうと思ったの……。 畑野 私、吉本まで行って自転車にスカートで乗ろうかなとか思ったけど(笑)。 西野 近くに高校があって、その高校の子にちょっとお願いって言おうかなと思ったけど、さすがにやばいかと思って。で、ツイッターで募集したの、スカートがふわぁっとなっているところを。 畑野 ちょっと問題ある画像みたいなのが来てましたね。 西野 エッチなのがいっぱいあったよ。でも本当はみんなスカートが広がらないように乗ってるんですよね。だから、この絵は、言ったら、後ろからパンツ丸見えの状態なんです。でもやっぱりここではね、ふわぁっとしておいてほしいなとか思っちゃう。 畑野 すごい絵ですよね。ペンだけで描いたんですか? 西野 0.03ミリのペンだけです。 畑野 塗り潰すのは? 西野 同じペンで。塗り潰しながらペン先を潰しつつ描くんです。もともと絵を描くのはそんなに好きじゃなくて、絵本のためなんですよ。 畑野 そうツイッターに書いてらっしゃったんで、頼んでいいのかな、と。 西野 CDジャケットを描いたときもそうだけど、畑野さんみたいにつながりがある人とか、こっちが一方的に好きな人から話があったらやるんですけど、人生の中で絵を描く時間をなるべく短くしたいんですよね。1冊目の絵本のときはもう忍耐力がなくてね。7時間とか8時間描いていると、我慢できなくなって「うわー!」って暴れてたんです。今は寝るか飯食うかでストップがかからん限りはずっと描けるようになったから、スピードは上がりましたけど。畑野さんはどれくらい続けて書きます? 畑野 私、午前中2時間半ぐらいしたらもう書かない。 西野 何その生活。むっちゃ、いいやん。 畑野 2時間半で10から15枚書いて、午後は書く以外のことをやってますね。 西野 映画見に行ったり、舞台見に行ったりとかいう時間もあるのかな。 畑野 夕方、舞台を見に行きたいっていうときは、ぜんぶの用事をそれまでに終わらせようって頑張りますね。そのためにも、朝起きた時点で今日書くところはこうって考えてから机に向かいます。 西野 舞台とか見てて、うわ、全然面白くないなとか思ったら、「私だったらこうするけどな」みたいなことって考えたりする? 畑野 ああ、それはあります。映画とか見て、私だったらもうちょっと上手に書けると思うんだけどなって。 西野 俺もものすごい思うわ。 畑野 あそこ、ああしたらもっと面白いんじゃないか……(笑)。 西野 すごくよくわかる。映画とか見れなくなってきたもんな。 畑野 だから、映画もなるべく愉快なもののほうがいいなというか(笑)。 西野 本当、愉快なものがいい。だから『トランスフォーマー』とか、ドッチャンガッチャンなってるほうがね。 畑野 そう、バカじゃないの? っていうぐらいのほうが楽しめますね。 |
西野 子どものときに影響を受けたものってある? 畑野 同世代ということがバレたので言うんですけど、私たちの子どものころって藤子不二雄のアニメをすごくたくさんやってたじゃないですか。『ドラえもん』はもちろん、『21エモン』とか。 西野 『21エモン』! あったね。 畑野 大人になってあらためて藤子・F・不二雄先生の短篇集を読むと、この想像力すごいなって。10何ページくらいの短い中に物語が詰まっている。今回の『ふたつの星とタイムマシン』はああいうことをやりたいなと思ったんです。私、子どものころってあんまり本は読まなくて、バラエティー番組が大好き。子どものころに影響を受けたものを考えたときに、書きたいのはSFとコメディーなんじゃないかと思ったんですよね。 西野 へえ、そうか、SFとコメディーなんだ。 畑野 超能力特番とか見ませんでした? UFOは本当にあるのかみたいな番組。わりと本気で見てた(笑)。 西野 あった、あった。あれ好きやった。矢追純一さんのUFOの番組とか。 畑野 隣のマンションに超能力番組に出ている子が住んでいたんですよ。その子は女の子だったんですけど、男の子たちに囲まれて「おまえ、ここでやってみろよ」みたいに言われていて、残酷だなあって。強烈な記憶として残っていますね。それがこの短篇集の「自由ジカン」のヒントになってるんです。 |
西野 そっか。むっちゃドキドキしたなあ、あの時代。日常の近くに超能力があったよね、今よりもっともっと。 畑野 いまだに超能力でスプーンを曲げられるって私は信じてるから。あれはトリックじゃない(笑)。 西野 ははは。「友達バッジ」って短篇が入ってるじゃない? あれよかったなあ。僕は子どものとき、田舎だったので山しかなくて、ツリーハウスを勝手に作ってたんですよ。「友達バッジ」の秘密基地と同じような景色があったの。読んでいて、あっ! と思った。そういえば、秘密基地ばっかり作ってたな。すげえ楽しいんですよ、たぶん、そこで宇宙人がどうのとか、超能力とか、そんな話をしているうちにずるずると今になっちゃってるんですけど。 畑野 そんなふうに読んでもらえると嬉しいです。 西野 ここに入ってる短篇って、「恋人みたいになってくれるロボット」とか、先にアイテムを作ってから話を作ったの? |
はたの・ともみ 作家。1979年東京都生まれ。2010年、「国道沿いのファミレス」で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。著書に『夏のバスプール』『海の見える街』『南部芸能事務所』『運転、見合わせ中』等。 |
畑野 そうですね、「過去ミライ」以外はアイテムが先です。「過去ミライ」だけは先に書いた「恋人ロボット」の主人公の彼女がタイムマシンの研究をしてるっていうんで、じゃあ、彼女の話も書きましょう、と書いたんです。 西野 へえ、楽しいよね、そういうアイテムから話を考えるみたいな制約が。とにかくこの中でやらな、起承転結つけなあかんとかって、なぞなぞみたいで考えるのすげえ楽しいですよね。畑野さんは一番お気に入りの話ってあるの? 畑野 一番最後の「惚れグスリ」ですね。古典的な題材ですけど、書いていて楽しかった。SF的なこともあんまり考えずに好きなように書けて。でもほかの話もぜんぶ今まで書いた小説に比べて楽しかったですね。何をしていても、タイムマシンをどうしようかみたいなことばっかり考えてたんですよ。タイムマシンに関する本とか読んで、一番可能性があるのは円筒形だから円筒形にしよう、とか、資料を読むのも、書くのもぜんぶ楽しかった。今も続編の「タイムマシンでは、行けない明日」を『小説すばる』に連載していて、タイムマシンのことで頭がいっぱいです。 西野 むっちゃいい人生やん、タイムマシンのことをずっと考えてるなんて。 畑野 そうですね。こんな愉快な人生はない。 西野 それが一番いいよ、本当に。 |
畑野智美の最新作は、なんとびっくり、パラレルワールドの近未来(って、2016年ですが)を背景にしたSF連作短編集。しかも、タイムマシン、ロボット、超能力などなど、おなじみのSFネタがてんこ盛り。そういえば、昔(1970年代ごろ)日本SFはこんな感じだったなあ……と懐かしい気分に浸るわけですが、そういうノスタルジックなSF状況に投げ込まれる登場人物たちは、(いかにも畑野智美らしいタッチで描かれる)現代の中学生や大学生や会社員たち。 |
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