町山智浩×大槻ケンヂ トラウマ映画館 刊行記念トークショー (於・青山ブックセンター本店/2011年4月5日)

映画は笑って観るものだった?

大槻 3.11のあと、『映画秘宝』編集部から「励ましの映画」を推薦してくれって言われて、長谷川和彦監督の『太陽を盗んだ男』(1979年)を推薦したんですね。そしたら「ちょっとウ~ン……」って感じになった。みなさん、『太陽を盗んだ男』ご存じですか? 東海村の原発からプルトニウムを盗むんです。ジュリーがね、ガイガーカウンターをマイク代わりに歌うんですよ。TBSアナウンサーだった林美雄さんは、それと『狂い咲きサンダーロード』(1980年)の2本を推していて、ぼくはその2本を観に行ったんです。ただ、『太陽を盗んだ男』はすごくおもしろかったんだけど、ジュリーが原爆持ったまま、あーっと落ちて、そのまま電線に引っかかったところで爆笑が起こったのよ。で、それが悩みの笑いで、林美雄さんが応援しているゴジさん(長谷川和彦)の映画を笑っちゃいけないっていう感じがあったのよ。

町山 でもジュリーと文太の対決は笑うでしょ。

大槻 文太とジュリーの戦いまではまだ、うーんとか真面目な顔して観てられるんだけど、「行くぞ、九番」ってあたりから、みんなこらえてたんだけど、その後、ジュリーが「ああああーー」ってなるところで、もう、これはダメだ、ウワーッて笑い出したんですよ。

町山 緊張の糸が切れちゃう。

大槻 そうそう。で、そのぐらいから、高い評価の映画でもバカなシーンは笑っていいんだ、というのが個人的には出てきたような気もします。

町山 これは、みうらじゅんさんがすごく困ったって言ったけど、ゴジラ映画を観に行くと、みんなすごいゴジラのことを尊敬しているから、笑っちゃいけない雰囲気なんだけど、やっぱりゴジラ映画って笑っちゃうんだよって。たとえば、『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964年)という映画では、敵のギャングが、落石に直撃されて死ぬシーンで、落ちてきた岩をなぜか自分でこうしてつかんで、しかも岩がつかみやすいような形になってて。これは笑うだろうって。でも、昔の怪獣映画ファンは笑わなかった。

大槻 特に円谷特撮ファンは笑っちゃいけないって。

町山 そう。「笑うな」って怒られる。

大槻 原理主義者みたいな人がいるから、もう。

町山 でも、映画秘宝以降、あんまりおかしくないシーンでも無理して笑う客が増えてきて、それも嫌なんだけどね。

大槻 まえに千葉真一の『激突! 殺人拳』(1974年)を中野に見に行ったんですよ。そのときに、同じ千葉真一の『けんか空手 極真拳』も同時上映で、確か『地獄拳』とかも……。

町山 『地獄拳』は笑わせようとして作った映画ですよ。

大槻 うん。あれは笑っていいんだけど、『空手バカ一代』はわりとマジな作品で。

町山 『空手バカ一代』は、微妙だなぁ。

大槻 微妙でしょ。それで、有明省吾が「せいや! せいや!」とかやってるところで、場内がちょっと過剰に笑うんですよ。

町山 あれは、笑うところじゃないよ。

大槻 いかがなものかと思ってたら、前のほうのお客さんが「笑うな!」って怒ったんですよ。多分、真面目な……。

町山 真面目な極真の道場の人でしょう、きっと。

大槻 映画館、水を打ったようにシーンとなっちゃって。すごくいたたまれなくなったことがある。中野武蔵野ホールでした。

ページトップへ

イヤな気分になる映画

大槻 今、テレビをつけると、つらいニュースばっかりじゃないですか。で、この対談のために『トラウマ映画館』に出てくる映画をずっと観てるの。

町山 ああ、ほんとうに。それはうれしい。

大槻 みんなほんとうに嫌な気持ちになりますから(笑)。でもおもしろい。

町山 そこがいいんだよ。

大槻 手に入らない映画も多かったんだけど、観たのは『バニー・レークは行方不明』、『尼僧ヨアンナ』、『不意打ち』、『悪い種子』、『恐怖の足跡』、『早春』、『戦慄!昆虫パニック』、『不思議な世界』、『ある戦慄』です。どうしても受けつけなかったのは、意外におれ、びびりなんで、『ある戦慄』と『不意打ち』は、ドン引いたというか、ちょっと嫌だなという気持ちにはなったんだけれども。

町山 『不意打ち』(1964年)は嫌な映画だよねー。ぼくはテレビの『ゴールデン洋画劇場』で見たんですよ。平山夢明さんとか、ぼくぐらいの年の人はみんなその放送で見てるの。

大槻 あれをテレビでやったんですか!

町山 テレビでやったんですよ。

大槻 それはすごい。

町山 お金持ちのおばさんが息子と暮らしていてね。金持ちだから、家の中に、檻みたいなエレベーターがあるんです。息子が外出しているときに、停電になっちゃって、エレベータに閉じ込められちゃうと。そこに、「基地の外」に住む人たちが入ってくるわけですね。

大槻 そこで悪さの限りを。

町山 彼らが怖いのは、金目当てじゃないんですよね。「殺しちゃおうか、だれか」「そんなことしたら死刑になっちゃうよ」とか言うんですよ、おっぱいの大きな女の子が。そうすると、ちょっと頭の足りない男が「え、死刑? それもいいなあ……」って笑うシーンがあって、やべえ、これ、みたいな。

大槻 『ある戦慄』もわりとソッチ系の映画ですよね。

町山 あれは地下鉄が舞台でね。二人の不良が乗客を言葉で痛めつける。チャーリー・シーンの親父のマーティン・シーンのデビュー作。

大槻 地下鉄という密室での圧迫感がすごくきつかった。

ページトップへ

『尼僧ヨアンナ』が大好き

大槻 『尼僧ヨアンナ』っていうのは昔からぼくの大好きな映画で、実はこれを曲にしてるんですよ。

町山 ええ! 『尼僧ヨアンナ』を?

大槻 うん。ちょっとだけ聞いてもらえます? 筋肉少女帯の最新アルバムの『蔦からまるQの惑星』に入ってる「レセプター(受容体)」という曲なんですけれど。
『尼僧ヨアンナ』という映画は、あまりに戒律が厳しくて、性的に抑圧された修道院の尼さんたちが集団でヒステリーを起こしちゃうという話なんですけど。集団アイドルグループって今はたくさんいるじゃないですか。AKBを筆頭に。

町山 修道院とAKB(笑)。男とつき合ったらダメみたいな世界?

大槻 いまでもあるそういうアイドルの世界で、『尼僧ヨアンナ』みたいな事件が起こったらおもしろいなと思って歌にしました。

町山 性的ヒステリーになっちゃうんだ。

大槻 じゃあ、ちょっと聞いてみて下さい。

(会場で1番を再生)

大槻 で、これを、対談してるAKBの子にあげちゃって。おれ、気まずいっていう。

町山 アイドルグループって言うより、これは、歌詞を聴くかぎり映画のストーリーを読んでるだけなんですけど。

大槻 そうそう。1番はね(笑)。だから、まずは「ヨアンナ」を紹介して、2番はおれが集団アイドルグループに変えたんですよ。

町山 あ、そういうことか。

大槻 前に『ルーダンの悪魔』とか17世紀の集団ヒステリー事件のことがおもしろいって、オカルト方面の話で知って、『尼僧ヨアンナ』っていう映画に行き着いたんですね。詳しくは『トラウマ映画館』にも書いてありますが、ポーランドの作家がそれを小説にもしていて、ぼくは映画を観て、小説を読んで、けっこうはまったんです。ホント、ヨアンナ演じる女優さんの狂いっぷりとかすばらしいですよね。

町山 振り向きざまににやっと笑うところとかね。

大槻 いや、もうゾクゾクします。たまらないですよね。

町山 やっぱりたまらないの?

大槻 うん。

町山 そういう癖、昔からあるよね、大槻君ね。ちょっとキテる子に弱い。

大槻 キテる子とは若いうちにつき合うのがいいですね。大人になると……。

町山 むかし、酒飲んだときにさ……。こういう話、していいのかな。

大槻 え、ちょっと、何すか。何すか。何すか。

町山 15年前なんて時効でしょう、これは。

大槻 もう時効ですね。はい。

町山 飲んでる間さ、20分置きぐらいに公衆電話で電話してたのよ。あのころは、まだ携帯電話がなかったから。

大槻 あ、そうでした?

町山 そう。四ツ谷か新宿の飲み屋で、「どうしてそんな電話してるの?」って聞いたら、「まめに電話入れないと手首切っちゃうから」って。

大槻 ああ、そうそう。そういえばあったよ、ありましたよ(笑)。

町山 えーって。「一体どういう子?」って聞いたら、また大変だったんだけどさ。

大槻 最終的には一緒に行った旅行先で、女の子とがもうわけわかんない状態になっちゃって、これはやばいなと思って、結局、別れたんですよ。その後何年かあとにたまたま『ベティ・ブルー』(1986年)って映画をビデオで観たんですね。

町山 ジャン=ジャック・ベネックス監督の。

大槻 そうしたら、行動から何から『ベティ・ブルー』のマネしてやがった(笑)。
 だから、ぼくを売れない小説家に見立てて、『ベティ・ブルー』気取りだったのではないか。だって、バリの踊りみたいなのやったりするのとかもやってたもん。

町山 なんじゃ、そりゃ。

大槻 うん。

町山 じゃ、本物の危ない女の子じゃなかったの?

大槻 けっこう演じてくれてたのね。何年も後に『ベティ・ブルー』を観て、あっ、ええー! って。

町山 そういう女の子関係は歌にしたりもするんでしょう?

大槻 けっこう使ってますね。歌のネタにはさせていただいてます。

町山 ちゃんと元はとってると。

ページトップへ

アリも演技する!

大槻 今回の資料で最初に観たのが『戦慄! 昆虫パニック』(1974年)だったんですよ。これ、すごい。タイトルだけで笑えちゃうでしょ。アリと人間の頭脳戦ですよね。

町山 そうそう。

大槻 で、人間が負けちゃうという。

町山 この映画はアリが格好いい。人間の攻撃でアリがつぶれちゃうシーンがスローモーションで撮影されている。ペキンパーの映画みたいにね。その後、死んだアリの死体をアリたちが回収して、きれいに碁盤の目のように並べるんです。

大槻 あの並べてるシーンってどうやって撮ったんですかね。

町山 どうやって撮ったのかまるでわからない。全然わからない。アリの遺体を並べたとこで、前のほうに偉いアリが出てきて、演説みたいのをするわけ。そうすると、その周りにいるアリたちが、「行くぞ!」と。彼らの弔いのために、今度は負けないぞ! って決起集会みたいなのを行う。すごい感動的な演技なの。

大槻 すごいのが、人間側の秘密兵器みたいな装置をアリが壊しちゃうんですよ。

町山 ドームみたいな研究所の内部に入って。

大槻 アリがカマキリを捕まえて、それを配電盤の上に落としてショートさせるんですけど、それが本物のアリとカマキリなんですよ。

町山 あれもアリの名演技だよね。

大槻 あれはすごい。

町山 だから、どこかに頭脳アリは実在するんだよ。

大槻 しますよ、ゼッタイ! ヒロインもかわいいですね。

町山 リン・フレデリック演じるケンドラですね。
 すごいかわいいんだけどね、あの人、20代前半に50代半ばのピーター・セラーズの奥さんになったのね。

大槻 えっ、そうなの!

町山 ピーター・セラーズってロリコンだったんですよ。

大槻 『トラウマ映画館』に出てくる『早春』(1970年)のヒロインはポール・マッカートニーの元フィアンセなんですよね。

町山 ジェーン・アッシャーね。

大槻 リンダさんの前ってことだよね?

町山 そうそう。

大槻 じゃあ、『早春』の人と結婚してたらポールのバンド、ウイングスはなかったかもしれない。

町山 ウイングスはなかったね。
 ただ、ジェーン・アッシャーって、ポール・マッカートニーと付き合う前にB級映画の帝王ロジャー・コーマンと付き合ってたんだよ。

大槻 へえー。

町山 ロジャー・コーマンとポール・マッカートニーと両方付き合ってる人ってすごい変だよ。

大槻 しかし、この『早春』もすごかったですね。モテない男の子といっても美形の童貞の男の子がプールで作業員のバイトをしてて、そこのお姉ちゃんを好きになって、ストーカーになって……という映画なんですけれども。これはみなさんにぜひぜひ観てほしいですね。この映画、観られる機会はあるんですか。

町山 去年、一度WOWOWが放映してるんですね。またやってほしいですね。

大槻 いや、もう、ラストを期待しててください。よもやの「ええ~っ!」ていう。

ページトップへ

テレビではこんな映画も放映していた!

大槻 『悪い種子』(1956年)は、かわいらしいエプロンドレスの女の子が実は殺人鬼で、という映画なんですが、おれ、小学校のころに、ほんとうによく似た話を漫画で読んでたんですよ。

町山 女の子が連続殺人鬼?

大槻 そうなんです。で、それが、小学校の女子の間で最初に火がついて、ついで男子にまで回ってきて。『聖ロザリンド』って漫画だったんだけれども。

町山 だれだっけ、漫画家。

大槻 わたなべまさこ。

町山 ああー。絵が怖いんだよね。

大槻 そうそう。でね、ネットなんかでも指摘があるんだけど、多分、元ネタなんじゃないかと、『悪い種子』が。

町山 『バニー・レークは行方不明』も『MASTERキートン』にパクられてたしね。

大槻 『悪い種子』は、ダブル落ちみたいになって……あれ、トリプル落ちですかね。

町山 あれは、トリプル落ちですね。

大槻 『トラウマ映画館』に書いてありましたが、日本でテレビ公開されたときは最初の落ちで終わっていたんですか。

町山 昔、日本のテレビでやったときというのは時間枠が90分で、しかもコマーシャルが入っているから、実際は1時間しかないんです。でも、この映画は2時間なんだ。ほとんど1時間近くもカットして放送しやがった。

大槻 すごいね。だって、テレ東とか『惑星ソラリス』とかカットして放送してたんでしょう。

町山 3時間ぐらいの映画なのに。

大槻 ついで、『マドモアゼル』(1966年)。これもすごい!

町山 観ましたか。

大槻 観ちゃいましたよ。もう何だろう。

町山 イタリア人の男の子がお父さんと一緒にフランスに来るんだけど、地元の少年たちに「外国人だ」といっていじめられるんですね。で、マドモアゼルと呼ばれるこの女の先生だけがすごく優しくて、「学校に行ったことないの? じゃあ、私の学校に来なさい」って、お母さんみたいにその先生が優しくしてくれる。お父さんがきこりなんだけど、先生はどうやらぼくのお父さんが好きらしい、と。密かにお父さんとこの先生が結婚してくれたらいいな、優しいお母さんができるなと思って慕っている。

大槻 マドモアゼル役のジャンヌ・モローももちろんすごいんだけど、男の子がね、またかわいい。

町山 きこりのお父さんは、すごい筋肉質でセクシーなんだけど、その女教師マドモアゼルには全然見向きもしなくて、村の人妻とかとエッチしているので、「私には何で手を出さないの!」と、その女教師がだんだん悶々として、おかしくなってくるんですよね。

大槻 これも性的ヒステリーですよね。で、火をつけちゃう。

町山 そう、夜な夜な街を放火して回って。

大槻 あと、村の家畜の水飲み場に毒を入れたり。

町山 だれもあの上品なマドモアゼルが犯人とは思わないから、村の人はお父さんが犯人だと思うわけですよ。それで、女教師のほうは、きこりに対する嫉妬心を主人公の男の子にぶつけ始める。「おまえなんか外国人だ」とか「貧乏人だ」とか言って急にいじめて。

大槻 「半ズボンをはいてくるな」って。

町山 そうそう。「長ズボン買えないの?」とか言うんだけど、貧乏だから買えないんですよ。それでも、主人公は先生をお母さんみたいに慕ってるから、小さいウサギを拾ってきて、これを先生にあげたら、ぼくのことをまた好きになってくれるかもって持っていくんだけれども、またいじめられて。しょうがないから、ウサギの耳をつかんで、たたきつけて殺しちゃうんですよね。もう、あれ見てられなかったね。

大槻 うわ~、うわ~って。ほんとですよ!

町山 すごい映画です。『トラウマ映画館』の表紙が『マドモアゼル』なんです。

大槻 最終的には、このツンデレ女教師が粗野なきこりといいムードになるんだけれども、普通にエロいことをするわけじゃないんですよね。

町山 もう変態だからね。

大槻 上品でかつエロいというのが、おれ、ちょっと見たことないな。

町山 これ、すごいですよね。

大槻 ええ。

町山 きこりは女教師が屈伏するまでやってやらないよって仁王立ちすると、女教師が足の間にひざまづいて、きこりの靴をなめるんですよ。

大槻 笑いながらね。

町山 そうそう。うれしそうになめるんですね。そうすると、きこりが「ワハハハハハハハハ」ってやるんだけど。そのきこりが今度は犬を可愛がるみたいに、「チョチョチョチョチョ」とか言いながらノドを撫でるんです。そうすると、犬と同じで女教師がコロコロ転がる。

大槻 こんな映画、テレビに流しちゃダメだよね。

町山 さっきしゃべった『不意打ち』も最初はテレビで観たんだけど、もういっちゃてるチンピラたちが「殺したらおもしれえな」なんて言ってると、パッとCMに切りかわって、いきなり桜井センリが「キンチョール!」とか叫ぶ。子供の脳みそグチャグチャだよね。

大槻 でも、つい先日までの日本のテレビの状況は、コマーシャル自体、いっさい放送しなくなっちゃいましたからね。すごいことですよ、これ。

町山 ACばかりですね。

大槻 震災直後は、ACばっかりになった数日間があったんですよ。それから、そろそろ解禁しましょうといって、どこかの民法で最初にやったバラエティーというのが「男は酒を飲むとバカなことを言い出す」という内容の番組で、出演してたのがレッド・ウォーリアーズのダイヤモンド☆ユカイさんだったんです。「ユカイさんはどうしてそんなに若いんですか?」と問われて、酔っぱらいながら「それはさ、ゲラッチョだからよ。おまえらもさ、もっとゲラッチョしていこうぜ!」って(笑)。いや、あのね、おれはそこまで解禁しなくてもいいと思った。

町山 落差が大き過ぎる。

大槻 もうちょっと段階踏んでもよかったんじゃないか、と。

ページトップへ

3.11以後のトラウマ映画?

町山 大槻君の子供のころの映画に関しての一番最初のトラウマ体験って何ですか。

大槻 映画はやっぱり『ノストラダムスの大予言』(1974年)ですね。

町山 舛田利雄監督と坂野義光監督ですね。実はぼくも坂野義光監督が撮った『ゴジラ対ヘドラ』が子供の頃のトラウマ体験なの。

大槻 『ゴジヘド』だ。

町山 『ゴジヘド』は、ご覧になるとわかりますが、最初にゴーゴークラブから始まるんです。そこでサイケデリックショーみたいなことをやって、女の人が裸にボディーペインティングをして踊っているんですね。ぐにゃぐにゃとサイケな感じの。そこで柴俊夫がサイケな服を着てラリッてるんですよね。

大槻 はいはい。ハイミナールとか飲んでね。

町山 それでラリってサイケな夢を見る。ぼくがそれを観たのは小学校4年生だったのね。早く大人になりてえと思った。まだ「セックス・ドラッグ・ロックンロール」なんて言葉は当然知らなかったけど。

大槻 しかも、『ゴジラ対ヘドラ』は、出てくる人数が少ないじゃないじゃないですか。

町山 スケールが妙に小さいんです。

大槻 寂しい映画なんですよね。でも、ぼくは『ゴジラ対ヘドラ』は『少年マガジン』で特集しているのを見て、何だこれ!? と思って、ちょっとスルーしちゃったんですよ。

町山 いま見るとすごいでしょう。

大槻 もう、こんなもん作っちゃだめだと思う。

町山 超難解でわけのわからない前衛映画みたいだし。

大槻 あの主題歌はもう今の時代には歌いにくいね。「かえせ! 太陽を」でしたっけ。

町山 水銀、コバルト、カドミウムとか、クロム、カリウム、ストロンチウムなんて言葉が歌詞に出てくるからね。海も空も汚れて、生き物はみんないなくなった、ってすごいやばいですよ。

大槻 今回の震災で、封印作品になる映画がけっこう出てきちゃうんじゃないかと思って。

町山 ゴジラはテレビではとうぶん放送できないでしょう。

大槻 あと、『戦慄! プルトニウム人間』。

町山 『戦慄! プルトニウム人間』は封印してもいいです、あれは(笑)。

大槻 ぼく、大好きなんです。

町山 え~。放射能を浴びて、人間が巨大化するでしょう。それに注射すれば治るって、巨人に合わせた巨大な注射器を作るの。

大槻 そう。すばらしいじゃない。

町山 いやいや。巨大な注射器を作るんだけど、医者が使う注射器の形のまんま100倍くらいの大きさにしてる。だから、どうやって注射していいかわからない。アホかと思いましたね。

大槻 腰巻きもどんどん大きくなって伸びるんですよね。

町山 巨大化しても腰巻きがついているんですよね。

大槻 伸びるっていうね。ぼくはあれは大好きです。
 あと、『太陽を盗んだ男』もちょっとアウトかもな。

町山 区民プールにプルトニウムの粉をばらまくシーンがある。

大槻 幻想シーンでジュリー(沢田研二)がプルトニウムをちょっとまくんですよ。そうするとみんな死んじゃう。

町山 子供たちが死骸になって、プールに浮かぶのね。

大槻 ぼくはそれを見て育った世代だから、今回の事故でプルトニウムが発見された、でも、もとよりプルトニウムはそこそこの量、日本の土壌にありますよと聞いたときに、えっ! と思いましたよね。おれが見てきた映画は何だったの! っていう。

ページトップへ

ギャク映画もトラウマになる?

大槻 それを言ったら、『トラウマ映画館』に出てくるリチャード・レスター監督の『不思議な世界』(1969年)。

町山 あれこそまずい。

大槻 まずいですね。

町山 昔は、放射能を浴びると、人間の体が変形したり巨大化する映画がいっぱいあった。そのアイデア自体がアウトじゃない?

大槻 バカなアイデアだと笑えなくなっちゃった。

町山 でもこの『不思議な世界』という映画は、核戦争の後、放射能を浴びた人が「ホテルの部屋」になるんですよ。

大槻 わけがわからないですよね。

町山 最初、ホテルの壁紙とかがポケットからどんどん出てくる。何かカラダがおかしいなと思っていると、ホテルの部屋のベッドとかが背中から少しずつ生えてきて、だんだん一人の男が「ホテルの部屋」になっていくんです。

大槻 そういうストーリーがありながら、基本的にはつまらないギャグがずっと続くんですね。ぼくはああいう系のギャグが苦手で。

町山 えっ! マジ?

大槻 昔、『カジノ・ロワイヤル』という、このあいだの映画じゃなくて、ピーター・セラーズとかが出た昔の『カジノ・ロワイヤル』(1967年)ね。ああいうのも苦手。

町山 そうなんだ。どうも手塚眞さんが大好きな映画ばっかりけなしてますね。

大槻 ギャハハ! そんなことはないですよ、そんなことは。だって、おれ、手塚眞さんが監督した『MOMENT(モーメント)』(1981年)はDVDで持ってますよ。

町山 『MOMENT(モーメント)』はよかったですね。

大槻 中川翔子ちゃんに会ったとき、まず、一言目に「おれはきみのお父さん(中川勝彦)が主演した手塚眞さんの映画を見に行ったんだよ」って言いました。『SPh(エスフィ)』(1983年)ですね。でも、『星くず兄弟の伝説』(1985年)はいろんな意味でトラウマ映画でしたけどね。

町山 あの映画、製作途中から取材してたんですよ。

大槻 あの映画は『カジノ・ロワイヤル』に通じますよね。よくわからない世界観の中でおもしろくないギャグがずっと続くんです。

町山 泣ける映画なんだよ。戸川京子ちゃんが可愛くて。

大槻 つまんないとはいえ、『カジノ・ロワイヤル』は絢爛豪華な世界観の中でずっとやっているから、そこそこ楽しめるんです。

町山 『カジノ・ロワイヤル』は007ものなんだけど、ジェームス・ボンドが何人も出てくるんですよ。敵を攪乱するために、片っ端からジェームス・ボンドを大量生産しようと言い出す。おまえは007だ、おまえは007だと言うんだけど、その中に女まで混じっている。何が何だわからない。

大槻 ただ、絢爛豪華な感じはあるじゃないですか、スパイ物だし。でも、『不思議な世界』は核戦争後のゴミだらけの世界で、つまらないギャグがずっと続くだけなので地味この上ないんですよね。

町山 そこがいいんだけどね。

大槻 もし、映画館でこれを観にいったら、金返せと言っていますね。

町山 日本にもああいう映画はいっぱいありますよ。

大槻 ありますか。

町山 『トラブルマン 笑うと殺すゾ』(1979年)とかさ。

大槻 河島英五だ。

町山 河島英五さんがコメディアンとして出ているんだけど、だれも河島英五のコメディーを期待しないと思いますけどね。

大槻 「笑うと殺すゾ」というタイトルもすごいですよね。

町山 そうね、「笑うと殺すゾ」って言われると、どうしたらいいんだろうって。 あのころ、『刑事珍道中』というすごい映画があったじゃないですか。

大槻 ありましたねえ。

町山 タイトルは「刑事珍道中」と書いて「デカ・チンドウチュウ」と読むんだけど、「デカチン・ドウチュウ」と読ませたい。そんな嫌な映画タイトルないよ。

大槻 ぼくね、角川映画直撃世代なんですけど、さすがにあれは観にいかなかった。

町山 あと『下落合焼き鳥ムービー』とかね。辛い映画だったですよ。

大槻 笑えないコメディーね。ただ、今の原発をめぐる報道の無茶苦茶さ、二転、三転、四転するあの感じとか見ると、『不思議な世界』も、あながち間違ってもないよなと思わせる。

ページトップへ

トラウマ映画は世界をつなぐ!

町山 でも、トラウマ映画や変な映画は、そのとき観ておくと、ずいぶん時間が経ってから、同じ映画を観た人と「あれ観たよ!」って仲良くなれる。

大槻 それはありますね。

町山 『ボディーガード牙』の話でアメリカ人と盛り上がったりしてね。

大槻 あっちで人気があるの?

町山 あっちでは、「ボディーガード千葉』として知られている。

大槻 千葉真一だからね。

町山 英語版では吹き替えで『ボディーガード牙』の「キバ」を全部「チバ」にしているんです。記者会見で「俳優の千葉真一さん、あなたは俳優をやめて、これから世界の悪を倒すために戦うと決めたそうですが、ほんとうですか」と言われた千葉真一が答えるという冒頭なの。

大槻 メキシコのレスラー映画みたいだ。

町山 タイトルバックで大山倍達と門下生が空手のけいこをしていて、門下生たちが「ビバ、千葉、ビバ、千葉」と繰り返ながら正拳突きしてる。「ビバ、千葉、ビバ、千葉、ビバ、千葉、ビバ、千葉」

大槻 ビバ千葉……。

町山 しかも、『ボディガード牙』の冒頭の言葉をタランティーノは『パルプ・フィクション』のサミュエル・L・ジャクソンに朗読させてるんだよね。

大槻 オマージュですか。そういえば『富江vs富江』(2007年)という映画を見たんです。そしたら、明らかに『ハウス』へのオマージュだと思われるシーンがありましたね。

町山 『ハウス』もムチャクチャな映画だから一度見たら忘れられない。観た人だけにはすぐわかる。

大槻 ありますね。さっきの『尼僧ヨアンナ』もそうだけど、ぼくは映画小ネタを結構自分の楽曲に振ってるんですよ。だれもわからないだろうなと思って。『トラウマ映画館』で驚いたのが、『わが青春のマリアンヌ』(1955年)で、ぼくが大好きなジャックスの『マリアンヌ』という曲はこの映画が元ネタだと。

町山 それはムーンライダースの鈴木慶一さんに教えてもらったんです。

大槻 アルフィーの「メリーアン」もそうじゃないかと。

町山 マリアンヌの英語読みがメリーアンなんだよね。

大槻 『わが青春のマリアンヌ』もそうだけど、『バニー・レークは行方不明』や『悪い種子』なども含めて、昔の映画って前半がけっこう退屈なんですよね。

町山 静かに始まるよね。

大槻 で、後半になって突然。

町山 怖いことが起きる。前半退屈だからこそ後半のショックが大きい。

大槻 ひょえーという。『恐怖の足跡』もおもしろかったな。この映画は何か不思議な気持ちになりますね。

町山 これを観たときは小学校の二、三年生だったんだけど、雨の日で外は真っ暗なの。一人でこれを観ていた時の怖さっていったら。

大槻 それは嫌だな~。これもぜひ皆さんに観てほしいですね。ぼくのお薦めは、『悪い種子』『早春』『戦慄! 昆虫パニック』『バニー・レークは行方不明』の後半あたり、あと、『尼僧ヨアンナ』ですね。

町山 『尼僧ヨアンナ』がこれでブームになったらおかしいよね。

大槻 ヨアンナブームが起こったりして。2010年にDVDになってます。

町山 みんなで嫌な気持ちになろう(笑)。

(終)

町山智浩(まちやま・ともひろ)
1962年、東京都生まれ。映画評論家。
主な著書に『〈映画の見方〉がわかる本』『ブレードランナーの未来世紀』『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』『アメリカは今日もステロイドを打つ USAスポーツ狂騒曲』、共著に『ファビュラス・バーカー・ボーイズの映画欠席裁判 1~3』(柳下毅一郎)、『オバマ・ショック』(越智道雄)、『松嶋×町山 未公開映画を観る本』(松嶋尚美)など多数。
2009年より、TOKYO MXテレビ「松嶋×町山 未公開映画を観るTV」司会解説。(現在再放送中)
ブログは「ベイエリア在住町山智浩アメリカ日記」http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/

大槻ケンヂ(おおつき・けんぢ)
1966年、東京都生まれ。「筋肉少女帯」「特撮」ボーカリストにして作家、エッセイスト。
主な著者に『リンダリンダラバーソール』『縫製人間ヌイグルマー』『グミ・チョコレート・パイン』(グミ編・チョコ編・パイン編)などの小説のほか、『オーケンの、私は変な映画を観た!! 2』などのシネマエッセイ、のエッセイをはじめ著書多数。最新刊は3/17発売のぴあ連載のエッセイ集「心の折れたエンジェル」が好評発売中!
『激突! 大槻ケンヂ対美女軍団』は、町山さんが編集を務める雑誌『映画秘宝』での連続女優対談をまとめたもの。
特撮によるニューアルバム『五年後の世界』が6月29日に発売! 今年もライブ活動も積極的に行なっている。
「大槻ケンヂ公式ウェブ」http://www.okenkikaku.jp

ページトップへ