あらすじ 著者プロフィール 応援コメント 偏愛カルチャーガイド 特別対談 大槻ケンヂさん×辻村深月さん
2011年5月26日刊行 定価:1,600円(本体)+税

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「オーダーメイド殺人クラブ」発刊記念特別対談
大槻ケンヂさん×辻村深月さん
中二で筋少を聴いて、すべてがはじまりました
それは、魂に刻印を押されるかのような出会い――。
最も多感な時期に筋肉少女帯を知り、以降ずっと
大槻ケンヂさんの活動を追いかけてきた辻村さん。
辻村作品の世界観にも大きく影響を与えた大槻さんと
ついに念願かなっての対談です。
撮影/chihiro.
辻村 今回、編集部から対談相手の希望はありますかって聞かれて、とにかく真っ先に大槻さんの名前を挙げたんです。昔から大ファンなので。
大槻 それは嬉しいなあ。
辻村 私、中学生の頃から大槻さんのことが大好きで、だからまさか自分の人生でお会いできる日が来るなんて……。本当に作家になってよかった(笑)。
大槻 いやいや、とんでもない。これからもっとすごい人にいっぱい会えますよ。
辻村 筋少(筋肉少女帯)を初めて聴いたのが、ちょうど中学一年と二年の間頃なんです。
大槻 中二病の頃に(笑)。その頃に筋少聴いた人は、やばいですよ。
辻村 私が十四歳のころに出た新譜が「レティクル座妄想」で。
大槻 ああ、筋少の中でも最もダークな。
辻村 その中の「蜘蛛の糸」と「ノゾミ・カナエ・タマエ」を聴いたことが決定的でした。その時に受けた影響は、たぶんこれから先小説を書く上でも揺らがないだろうと思います。
大槻 あの二曲は、そういえば『オーダーメイド殺人クラブ』的な歌だよね。
辻村 そうなんです。中学の時に聴いてた頃も、『オーダーメイド』を書いていても思ったんですけど、たぶん私が理想としていたことを端的に表している歌詞なんですよ。自分が死んでしまった後じゃなければ自己実現を図れる場所なんてないだろうっていう、諦めみたいなものを常に抱えていたことに、改めて気付きました。
大槻 今回の対談にあたって、辻村さんの本を何冊か読ませてもらったけど、いやあ、面白かったです。もうすっかりやめちゃったんだけど、俺も一時期、何か小説らしきものを書いていたことがあって。
辻村 やめないでください(笑)。
大槻 次回作どうしましょうっていう打ち合わせをもう十回以上してる(笑)。それで担当編集者をすごい困らせている状態なんだけど。
辻村 私が高校生のときに、綾辻行人さんと大槻さんが対談されていて、その後、綾辻さんが『くるぐる使い』をすごくいいとあちこちで書かれていたんです。それを見てすぐに『くるぐる使い』を読んで、以来、他の小説も全部追いかけています。「のの子の復讐ジグジグ」が大好き。
大槻 読まれちゃったか。恥ずかしいなあ。筋少が復活したのと同時に小説を書くのやめちゃったんだけど、これまでいろんな仕事をしてきたのよ。映画出たり、テレビ出たりしてみたけど、小説書くより辛い仕事はなかったな。
辻村 そうなんですか。
大槻 作家を前にして言うのは何だけど、あれはきつかったです。よく、書くことは業だ、みたいなこと言いますね。本当、その通りだと思った。やっぱりライブハウスとか、多少きらびやかな喝采を浴びる舞台を知ってしまっていると、机に向かって書くというあの作業がね……。
辻村 ものすっごく地味に思えますよね。
大槻 地味っていうと申し訳ないんだけど、まあ辛いです(笑)。
辻村 でも、『縫製人間ヌイグルマー』とか、ものすごい長編も書かれてますよね。
大槻 『ヌイグルマー』でこと切れたんです。
辻村 あそこで(笑)。
大槻 書き終わって、あれ?なんか横溝正史くらい厚みあるし、よく書いたな俺って思って。ずーっと戦ってる話だしね。あれね、格闘技マニアとか古武術マニアにしかわからないネタがいろいろ振ってあるんだけど、誰もわかっちゃくれなかった。そういうのって、書き手として悔しくないですか? 俺はもう、ちくしょーって。
辻村 たとえば、マニア向けってどういう描写なんですか。
大槻 ぬいぐるみとあみぐるみが、片やグレイシーの構えで、片や、低く構えている。打撃系と組み技系の戦いなんだけど、腕ひしぎ逆十字は決まらないの。ぬいぐるみだから。
辻村 すごい細かい(笑)。
大槻 あと、縮地法と言って、倒れるようにして瞬間移動する技とか、本当に一部の人しかやらない八卦掌(はつけしよう)と言う中国武術の技を入れてみたりしたんだけどね。誰も気づかないもんだね。当たり前なんだけど。
辻村 たぶん、そこをピンポイントに取り上げて声をあげる読者がいないだけで、そこで笑ってる人は絶対いると思いますよ。
大槻 いるかなあ。いるといいなあ。
「小説をやめたら全部治ったんです」(大槻)
辻村 事後承諾になってしまうんですけど、私も実は大槻さんの曲を、自分の小説に入れたことあります。
大槻 あ、本当に?
辻村 『凍りのくじら』という小説で、ダメな男の子に振り回されている女の子の話なんです。彼女が彼のことを、子供だ子供だって周りの子に言って、あんな子供の男とは別れたほうがいいって話になっているときに、町で「子供じゃないんだ赤ちゃんなんだ」という曲を聴いて。
大槻 おおっ。
辻村 それであきらめがつくっていう話なんですけど。すいません。もう六年くらい前です。
大槻 いやいや、そういうのむちゃくちゃ嬉しいですよ。
辻村 ありがとうございます。長年、無断で使ってしまった! と気にしていたので、今日、許可がいただけてほっとしました(笑)。大槻さんの曲や小説って、乱歩のモチーフにしろSF的要素にしろ、わかる人だけにわかることをふんだんに織り込んでくれている。私たちファンをくすぐるのがすごく上手な気がします。
大槻 でもそれが、古武術までいくとわからなくて(笑)。書くのを楽しくする方法って何かないのかな。俺もいろいろ模索はしたんだけど。
辻村 私が一番楽しかったのは、やっぱり好きな音楽をかけて、その世界に浸りながら書くことですね。中学生くらいからそういうやり方だったので、その頃の感じに戻るのが一番、楽しむ気持ちになれます。
大槻 ああそうか、書くこと自体が楽しいのね。僕の場合は、『月刊カドカワ』という雑誌で、バンドマンに本を書かせようというブームがあったのね。今の芸人さんに本を書かせよう的な。それに引っかかって書き始めたんだけど、最初の一文字、「僕の」の僕という漢字からして間違ってたからね(笑)。だから楽しいって言うより、なんかよくわからないままに……。
辻村 『新興宗教オモイデ教』ですね。
大槻 そうそう、あれ最初は短編だったんだよ。でも結構反響があったらしくて、編集者が「続き書いてよ」って言ってきて、俺もよくわからんから「いいですよ」って受けて、短編が長編になった。
辻村 『新興宗教オモイデ教』はかなりガツンとやられましたよ。
大槻 書き方すらわかってなかった頃のものがいまだに版を重ねていて、複雑な思いですよ。その後のいろいろ、『ヌイグルマー』みたいなのは考えに考えて書いたのに、結局一番最初の、ゲラの意味すらわかってない段階のときに書いた本の方が売れるという。
辻村 もう書きたい話は大体書いてしまったという感じなんですか?
大槻 いや、アイデアはいろいろあるのよ。原案だけ出して、誰かに書いてもらうシステム、小説梶原一騎システムみたいなのはないんですかね。
辻村 たぶん、大槻さん原案ならやりたいっていう人たくさんいると思いますよ(笑)。
大槻 そういうプレゼンの会をやったらどうだろう。小説家や編集者を集めて、原案者がこんな話ですってプレゼンをして、書きたい、出したいって人が札を上げるような。
辻村 オークションみたいに。
大槻 それ、だめかなあ。俺ね、馬鹿な案はいっぱい持ってるよ。まだ猪木が現役の頃に、「戦国アントニオ猪木」というのを前に書こうと思っていて。新日本プロレス丸ごと戦国時代に行くの。それで、火縄銃というのは、こう、一、二の三でダーッと撃つ、とかね、長篠の合戦の戦法を猪木が教えたり、獣神サンダー・ライガーは忍者と交流するとかね。
辻村 『ヌイグルマー』以上の超大作になりそう。
大槻 でも編集者に却下されました。一笑に付されて、だめだって。
辻村 だめだって言われた(笑)。じゃあもう書きたくないわけではないんですね。
大槻 でもね、小説をやめたら、神経性胃炎と腰痛と偏頭痛と不眠症が全部治ったんです。
辻村 全部小説のせい(笑)。
大槻 ああ、全部小説のせいだったんだ、と思って。僕の場合は、書いている間中、デジャヴが起こるの。あれ、この状況前に書いた、これもあった、あれもあった、みたいにどんどん怖くなってきちゃって、それで今日はもうやめ、って日がよくあった。
辻村 それは、詞を書いているときにはないんですか?
大槻 詞のときはないの、小説特有で。それでしばらく書かないでいたら、小説ってどうやって書くんだったっけ、書き方忘れちゃったよ。
辻村 私は小学生の頃から小説を書いていたんですけど、どうして小説だったんだろう、と考えたときに、多分、一番気軽かつ地味にできそうだったからなんです。絵も描かなくていいし、歌もうたわなくていいし、楽器も弾けなくてもどうにかなるっていう……。そこから小説に入った部分もある気がします。

 バンドブームの頃って、私が子供だったせいもあるのか、バンドってものすごく華やかなものっていうイメージがあって。なんとなく、「リア充」の人たちがバンドをやるんだろうなって思っていたんですよ。
大槻 実際はそうなんですよ。だから僕は逆に、リア充じゃない奴もバンドやろうぜっていう気持ちで筋少を始めたので。
辻村 そこなんです! 初めて筋少を聴いたときに、自分が感じていた壁を取り払ってくれるものに初めて出会えた、と思ったんです。だからすごく新鮮に感じたし、自分のための歌をうたってくれる人だ、って感じました。
大槻 そうやって、改めて自分のやったことをそう言ってもらえると、嬉しいもんですね。
辻村 それくらいすごいことです。私にとっては絶対的な、別格な存在だったので。
「中学生だけは書きたくなかった」(辻村)
大槻 『オーダーメイド殺人クラブ』、むちゃくちゃ面白いなと思った。最初”これは悲劇の記憶である”とあって、何かが確実に起こりそうな気配があるのね。でも中盤まで、これから本当に事件が起こるのか起こらないのか、微妙な均衡があって、展開がわからないんだよ。俺もしかして、これはコメディーなんじゃないか、と思ったりもして。ほら、主人公のアンと徳川君ってクラスメイトが、秋葉原に写真を撮りに行くところとかあるじゃない。あそこなんて、結構笑えて。傍から見てると、なにデートしてんだよっていう(笑)。
辻村 連載だったので毎月書いていたんですけど、細かいところは決めずに、書きながら考えていこうって思っていたんです。主人公たちにどういう結末を迎えさせるか、私自身もすごく迷いながら書いていったので、書きながらどんどん変わっていきましたね。だから、予期せぬ展開、それこそ、結果的にデートみたいなことになっているエピソードがあったりして。
大槻 これってある意味、まあ言うたらツンデレ物語じゃないですか。
辻村 はい、そういう風にも読めますね。
大槻 究極ですよ。もう小説は書かなくなって久しいんだけど、僕の中に、こういうのをやりたいっていうテーマがいくつかあって、その中の一つに、ツンデレ物というのがあるんです。意図せずして、二人の行動がデートになっていくというのを考えていて。で、いざ書き始めると全然浮かばなかったんだけど、『オーダーメイド』を読んでから、そうか、こう書けばよかったんだって。僕が書きたかったのは、こういう風なことだったのかって。
辻村 嬉しい! ありがとうございます。これからどうなるのか決めない状態で書き進めたことが、中学二年生の頃の、未来のことが何も見えない感じと期せずしてシンクロしていったような気がしています。
大槻 何が悲劇かって、この中二という年代にとっての一番の悲劇、それはイタいということだよね。
辻村 そう、イタさ、恥の記憶というのは、悲劇ですよね。
大槻 それがすごくよく描かれているし、彼らが事件を起こすかどうかというところに、そのことが深く関わっているでしょ。ああ、こういう風に物語を引っ張っていくのかと、ものすごく勉強になりました。
辻村 うう、本当に嬉しい。どうしよう(笑)。今まで、小学生とか、高校生、大学生の物語は書いてきたんですけど、中学生というのは頑なに書きたくなかったんですよ。
大槻 一番恥ずかしい時代だもんね。もう、恥と悲劇の積み重ねの。
辻村 そうなんです。一回蓋を開けてしまうと、どうしようもなくなってしまう気がして。
大槻 もう許してーという。
辻村 書いていて、自分の中学の頃を思い出して、「ああッ」って大声を上げそうになる。
大槻 俺もそういうことの積み重ねですよ。今でも蓋をしてますよ。俺、中高と明らかに、この小説で言うところの「昆虫系男子」だったから、この徳川という男の子の感じも非常にわかるし。澁澤龍彦、読みましたよ。そういうの読んじゃうんだよね、読んでわかっちゃうんだよ。
辻村 読みましたか。
大槻 そう。寺山修司とかもね。当時はすごくわかってたつもりだったんだけど、大人になって読むと、なんであの頃あんなに共感できたのかというのがさっぱりわからない(笑)。
辻村 そういうものを読んで共感して、完全に自分のものにできるというのも、何かあの時期だけに特別に許された感覚だという気がします。
大槻 『オーダーメイド』で、何か参考にしたり、ヒントにしたものとかってあるんですか。
辻村 ヒントというわけじゃないんですけど、書いているときには、筋少のアルバムかけっぱなしでしたね。
大槻 ええっ、書いてるときにも聴いてくれてたんだ。
辻村 自分が十代の頃に感じていたことが、この小説を書くときに本当にたくさんよみがえってきて、そうなってくると、やっぱり筋少の曲がなにより合うんですよね。大槻さんの歌詞の雰囲気を継承できたらいいな、なんて勝手に思っていました。
大槻 なんか恐れ多いなあ。
辻村 そうやって書いていると、それまでずっと曲として聴いていた一フレーズが、言葉として突然、すうっと自分の中に入ってきたりして。私は今年で三十一になるんですけど、十代の頃に聴いていたものが、いまだに、新たに「わかる」気持ちになれることが、すごい発見だったし、嬉しかったです。
大槻 登場人物を、たとえば芸能人なら誰、とか想像しながら書いたりしないんですか。
辻村 今回は中学生なので、あんまりこの人、というのはないですね。
大槻 俺、この間「神聖かまってちゃん」というバンドのボーカルのの子君に会ったんだけど、彼がね、なんだか徳川みたいな感じがして。一回の子君みたいな男の子だと思ったら、結局、最後までの子君イメージで読んでしまった。いやいや、ここはもっとジャニーズの誰かで……とかいろいろ考え直してみたり。
辻村 の子さんで読んでもらえるなら光栄ですよー。徳川は、どこまでかっこよく書くべきなのか、すごく難しかったですね。たぶん女の子が読むと、かっこよく想像したいだろうと思うんです。だけど、徳川がかっこよかったら、そもそもこの物語でアンと徳川はこんな出会い方をしてないだろうと思って。だから、いつもにやにやしているとか、舌打ちをするとか、そういう描写を入れて、かっこよくならないように頑張りました。
大槻 徳川君が、どんな芸能人が好きかという話があって、そこで「緒川さつき」という名前が出てくるじゃないですか。あれはやっぱり緒川たまきさんのことなんですか?
辻村 直接、緒川たまきさんを指しているわけじゃないんですけど、文系男子のあこがれ最上級というのを考えたときに、名前のイメージとして一番わかりやすいだろうなと。
大槻 その方がねえ、僕の先輩と結婚しましたからね。
辻村 ケラさんと。
大槻 ビックリですよ。だから、さすがナゴム(ナゴムレコード)の大将やるねッと言うべきなのか、サブカル界は対処に困っているという(笑)。ケラさんのイベントに行くとね、楽屋に緒川たまき様がいらっしゃるんですよ。新宿ロフトプラスワンの楽屋にですよ! これはどうすればいいんだと、みんなちょっと、こう、一メートルくらい空けて、しーんと座っちゃって。
辻村 大槻さんでもそうなる(笑)。
大槻 なっちゃうなっちゃう。本当に美しくて、あのね、お公家様みたいな、気品があって、なんか雰囲気がもはや皇室なんですよ。
辻村 すごい。皇室の人みたいなんだ。
大槻 そんな方が気を遣ってくださって、プラスワンのメニュー出してきて、「なにか、いかがですか」とか仰るんです。もう水でいい、水で。俺なんか(笑)。下水だって飲むですよ。店員さんなんて、話しかけられても「うっす、うっす」って固まって、ゲシュタルト崩壊しちゃってる(笑)。
辻村 ああ、わかる。目に浮かぶ(笑)。でも、最近はAKB48にもすごくアニメ好きなかわいい子がいたりするし。
大槻 だから、本当は『オーダーメイド』みたいな子なのに、何かわからないうちにアイドルになっちゃったりする子がいてもおかしくないよね。そういう子の屈折、それを屈折と呼んでいいのかどうかわからないけれど、すごく複雑。
辻村 ヨーロッパにも、日本から入ってきたゴスロリを愛している女の子の層があるから、アンみたいな子はフランスにもいそう。
大槻 フランスにもドイツにも、確実に中二病はあるだろうし。
辻村 コロンバイン高校の事件を知ったときに、アメリカには日本より深刻なスクールカーストみたいなものがあるんだなと思いました。
大槻 あれは中二病が振りきれちゃった形というか。ああいうクラス内カーストというのは、八〇年代くらいまでは、見て見ぬふりをされてきましたからね。
辻村 そうですね。だから大槻さんが『グミ・チョコレート・パイン』で、第一グループはこういう派閥で……という風に書いてくれたとき、渦中にいると絶対に言葉では認められないんだけど、それを読んですごくすっきりしたんです。当事者たちは、やっぱり何かごまかした言い方をしてるけど、小説の形でああやって突きつけられてしまうと自覚せざるをえない。でも、スクールカーストというのもすごい言葉ですよね。本来市民権を得ちゃいけない言葉のはずなのに、堂々と共通認識として通ってしまうという。
大槻 アンの周りは、先生も強烈だよね(笑)。教師のトラウマを抱えている人、いっぱいいるはずなんですよ。被害者意識を抱えたまま大人になって、先生という職業全体に強烈な反感を持ってる人。俺は、いつかこいつら全員、ネタにしてやるからなって思ってた。
辻村 私も、中学時代のそういう反感と今に見てろよ的な感情が渾然一体となって、今でもたまに思い出すんです。大槻さんの「林檎もぎれビーム!」の中に、”変わったアナタを誰にみせたい” ”あいつらにだ!”という歌詞があるじゃないですか。あれ、日比谷野音の絶望葬会で一番シャウトしていたのは私だと思う(笑)。
大槻 でも実はみんな同じように思ってるんだよね。
辻村 でも、その「あいつら」はそれぞれに、その後の人生を歩んでいるから、もう私のことなんて覚えてもいないと思うんですけど、十代の多感な時期に見てきた先生やクラスメイトたちに対して、書くことで復讐してやる、みたいな暗い欲望がやっぱりあるんですよね。
大槻 あれね、先生の方は本当に覚えていないみたいですよ。この我々が受けた憤りを。
辻村 憤りを(笑)。
大槻 いつかは見返してやる!と思っても、え、そんなことあったっけって言われる。
辻村 張り合いがない……。確かに、戦える状態になってみたら、もう敵がいなくなってる状態というのが、作家になってからわかるようになりました。
大槻 そうそう、まさかそんな風にその後風化していくなんて、当時はわからないよね。今ふと思ったんだけど、我々は、非リア充という立場から表現という手段に出会ったわけじゃないですか。当時リア充してた奴らって、表現という方向に向かわないよね。だからこそ、若い頃リア充していた人の物語、歌とかいうのを見てみたいって思う。
辻村 そうかあ。そういえばないかもしれない。
大槻 ただ楽しかったと書いてあったら、本当に許せないですよね(笑)。ちくしょう、やっぱり楽しんでたのかよって。リア充はリア充で大変だったと言ってほしい。
辻村 リア充の人には、自分がリア充っていう自覚がなさそうだから、全然自分に関係ない不思議な話とか書くのかもしれないですね。
大槻 水嶋ヒロみたいな、実はエンタメを書きたいとか。
辻村 ああ、実はエンタメ(笑)。
「今も中二感覚で楽曲を書いている」(大槻)
 
大槻 最終的に、徳川がアンを殺すところまで行っちゃうのかどうか……ネタバレになってしまうからあまり詳しくは言えないけど、あんな終わり方になるとは思わなかった。
辻村 物語がハッピーエンドであったとしても、主人公たちの五年後、十年後を見てみると、もしかしたらそのハッピーエンドのさらに先に、幸せでも不幸せでもない日常を生きてるかもしれない。それがわかってから『オーダーメイド』を書けたことは、自分の中ではすごく大きかったんです。十代とか二十代初めの頃だったら、絶対こんなラストは書かなかったし、書けなかったと思います。一応終わりだけど、そこで終わらない雰囲気を出せるようになったのは、今の年でこのテーマを書いたからこそだという気がしています。
大槻 『オーダーメイド』を読んで、ああ、イタいなあ、中二の頃、こうだったよなあと思ったけど、じゃあ今はどうかと言うと、いまだにそういう感覚から抜け出せない部分もある。今も僕は、例の中二感覚を継承して、中二病を患いながら楽曲を書いているので。そういう人は結構多いと思う。歳を重ねても、中二の頃と変わっていないという人たち。だから年齢関係なく読んでもらえるといいですよね。
辻村 時代が変わって、子供もどれだけ変わったとか言われているけれど、一方で変わらない部分、綿々と続いてきた精神性みたいなものはあると思うし、そこに普遍性を持たせて描くことはできると思うんです。だから筋少の曲も、全然古くならないですよね。青春と呼ばれる時期を過ぎても、自分の中にあるその感性は消えていかないから。
大槻 筋少は、バンドブームの頃流行っていた青春を歌うタイプではなかったんです。青春という言葉から洩れてしまう、今でこそ中二病という言葉で表現されるようなものをすくい取ってきたような部分があったので。青春を歌うバンドが、ある意味損をしてしまうなと感じるのは、彼らの客層というのは青春を過ぎると卒業してしまうんですよ。そして次の青春の人たちは、新しい別の青春バンドに行ってしまう。筋少は、あんまり卒業しないし、新しい人たちも入ってきてくれる。それは僕らが、青春を歌っているわけじゃないからだと思うんですよ。
辻村 筋少のライブに行って、すごくいいなと思うのが、新曲に対して観客がものすごくノっているんですよね。昔の曲が聴きたくて来てるわけじゃない。

 いろんなジャンルに言えることだと思うんですけど、小説にしても、昔書いてるものは良かった けど、今書いてるものには興味ないって読者もいるじゃないですか。
大槻 うん。そういうのあるね。
辻村 でも筋少のライブで、懐メロ聴きに来てるわけじゃないんだ、今やってるものを、こうして楽しみに来てるんだ、というのを見てて、すごく励まされたんです。一昨年、自分が書いているもので迷ったときに、ちょうどフジロックで大槻さんのMCを聞いて、アウェーをホームに変える言葉と精神にすっかり痺れて参ってしまった。その後筋少のライブで新曲として「アウェー イン ザ ライフ」を聴いたら、涙が出てきたんですよ。私も、一番多感だった時期のことも記憶しながら、今書きたいものをどんどん書いていこうって元気がもらえた。大槻さんのお仕事には今も助けてもらってます。
大槻 そうか。じゃあ、ちゃんとやんなきゃなあ(笑)。ちゃんとやってるんですけども。もっともっと頑張りますよ。
大槻ケンヂ(おおつき・けんぢ)
‘66年東京都生まれ。‘82年結成の「筋肉少女帯」を経てロックバンド「特撮」で活動。
‘06年「筋肉少女帯」再結成。‘92年『新興宗教オモイデ教』を刊行し、小説家としての活動も開始。
‘94年「ぐるぐる使い」、‘95年「ののこの復讐ジグジグ」で星雲賞日本短編部門を受賞。
『グミ・チョコレート・パイン』シリーズ、『ロッキン・ホース・バレリーナ』『裁縫人間ヌイグルマー』など著書多数。
大槻ケンヂさん公式WEB
http://www.okenkikaku.jp/okenkikaku/o-ken/
初出/『小説すばる』6月号
http://syousetsu-subaru.shueisha.co.jp/
『小説すばる』6月号では、辻村深月さんの大特集を組んでいます。
こちらの対談のほか、辻村深月さんの最新短編「サイリウム」、
道尾秀介さんによる『オーダーメイド殺人クラブ』の書評、
デビュー作から震災までを語ったロングインタビューなど
大充実の内容です。ぜひお手にとってください!

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