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著者インタビュー内容紹介著者プロフィール
内容紹介

TBNの報道番組『ニュースイレブン』。これまで幾つものスクープをものにしてきた名物記者の布施は、
なぜか十年前に町田で起きた大学生刺殺の未解決事件に関心を寄せていた。
被害者の両親が、犯人逮捕の手がかりを求めて今もなお駅前でのビラ配りを続けているのが記憶に残ったという。
この件の継続捜査を、警視庁特別捜査対策室のベテラン刑事・黒田が担当することを知った布施は、
いつものように黒田へ接触を図る。
布施と黒田がそれぞれ動きを進めるが、真相解明に至る糸口はあまりに乏しく、謎だけが深まって行く。
一方、『ニュースイレブン』の現場には、視聴率低迷のテコ入れとして、
栃本という男が関西の系列局から異動してきた。
視聴者受けを重視する関西人の栃本と、報道の理念にこだわるデスクの鳩村は早速衝突し、不穏な空気が漂い始める。
テレビ報道の本質とは? 事件の奥に潜む意外な真相とは?
「報道」×「捜査」の傑作ヒューマン・ミステリー、スクープシリーズ第4弾‼

著者プロフィール

こんの・びん
作家。1955年北海道生まれ。78年、上智大学在学中に「怪物が街にやってくる」で問題小説新人賞を受賞。2006年『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞、08年『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞と日本推理作家協会賞、17年「隠蔽捜査」シリーズで吉川英治文庫賞を受賞。13年より日本推理作家協会理事長。空手有段者で、道場「空手道今野塾」を主宰。



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『アンカー』刊行 今野 敏インタビュー 報道はどうあるべきか──答えが出ない問題だからこそ小説にする

人気報道番組「ニュースイレブン」の舞台裏をスリリングに描いた、今野敏さんの人気作「スクープ」シリーズ。スクープを連発する記者・布施京一が今回目をつけたのは、十年前に発生した大学生刺殺事件。さらに関西からサブデスク・栃本が転勤してきたことで、番組の現場には不穏な空気が……。現実社会の動きを鋭く反映しつつ、痛快なエンターテインメント性で酔わせてくれる長編ミステリー『アンカー』について、今野敏さんにうかがいました。
聞き手・構成=朝宮運河/撮影=chihiro.

関西人の新キャラクター・栃本、誕生秘話

  ──「スクープ」シリーズ待望の最新作『アンカー』では、関西の系列局からTBNへ栃本という男が転勤してくることから物語がスタートします。この新キャラクターはどのように生まれたのでしょうか。
 以前、このシリーズについて池上彰さんと対談させていただいたんです(本誌二〇一三年六月号に掲載)。その際に池上さんが、プライドの高い関西人がTBNにやってきて引っかき回すのも面白いんじゃないか、とおっしゃった。そこからアイデアをいただいて、栃本が「ニュースイレブン」のサブデスクとして転勤してくる、という展開になりました。キー局と関西の系列局では報道のスタンスも違うでしょうし、面白くなりそうだなと。


  ──コテコテの大阪弁で、視聴率アップのためにはどんな手段も使うべきと語る栃本は、一見不躾な男です。しかし物語が進むにつれ、なかなか味のある人物だと分かってきますね。
ただ番組を引っかき回すだけでなく、実は深いところまで考えていたんだという方が、読んでいて共感できるでしょうから。読者って登場人物に託して、何かを考えたいものなんです。そして「これは俺の考えと同じだな」と頷きたい。そういう場面を作ることは、登場人物を描くうえでとても大切。アクの強い関西人というだけでは描いていて面白くないですし、物語内での役割をしっかり与えたいと思いました。

  ──栃本の出現でデスクの鳩村はペースを乱され、苛立ちを募らせます。そのうえ上司からは視聴率について小言を言われる。今回の鳩村はいつにも増して苦労が多いですね。
今回に限らずいつでも鳩村は気苦労が多いんですよ。彼はこの物語の案内役で、生真面目な管理職としての悩みが読者の共感を呼ぶという面がある。鳩村が何にどう悩んでいるのかを理解してもらうため、心理描写に割くボリュームも他の登場人物よりも多くなっているはずです。

  ──主人公の布施は都会的でスタイリッシュ。アクの強い栃本とは水と油のようですが、すぐにうち解けて仲良くなりますね。
この作品における布施は一種のスーパーマンで、あらゆる問題点にいち早く気がつくという設定です。だから「ニュースイレブン」がいま抱えている様々な問題も、よく理解している。外部からやってきた栃本もそれに気づいています。でも誰より番組のことを考えているはずの鳩村だけが、問題の本質に気づいていない。そういう対立構図にするのが面白そうだと思ったので、栃本は布施に近いポジションで行動させることにしました。明るくて気が合いそうですしね(笑)。

ますますミステリアスになった主人公・布施

  ──独自の嗅覚で、これまでいくつものスクープをものにしてきた布施。今回、彼が目をつけたのは十年前に発生し、未だ犯人が捕まっていない東京都町田市の大学生刺殺事件です。この事件を布施に追わせたのはなぜですか。
はっきり言ってしまうと、事件自体はどんなものでもいいんです。そこから思いもよらない真相を布施が見つけ出すことの方が大切。ミステリーなので結局、殺人絡みが多くなりますが、どんなものでも物語になりますね。なんなら下着泥棒でも書いてみせますよ。いや、さすがにそれは厳しいか(笑)。未解決事件の資料もいくつか調べましたが参考程度で、具体的にモデルにした事件というのもありません。

  ──世間から事件の記憶が薄れてゆく中、被害者の両親が懸命にビラを撒いている、という印象的なシーンも描かれますね。
出発点として、まず布施と未解決事件を関わらせないといけません。そのきっかけとして、情報提供を求めるビラというのはありじゃないかと。よく知られていることですが、捜査本部って事件から二週間が経つと縮小されます。警察の人手も限られていますから。そうなると犯人逮捕はかなり厳しくなる。今回、被害者家族の問題をメインで扱おうとしたわけではないのですが、事件が風化してゆくことのつらさについては書きながら深く考えました。

  ──ニュースバリューがないと鳩村に止められても、布施は事件の取材をやめません。そのミステリアスな行動に周囲の人たちは興味を惹かれ、ついつい動かされてしまう。この構図がユニークですね。
当初の段階で布施がどこまで真相に気づいていたのか、それは作者にもよく分かりませんね。駅前でビラ撒きを見かけたというけど、もしかするとその発言自体?かもしれない。そうした底の知れなさが布施のもつ魅力です。どんな基準で事件に興味を抱くのか、いつもたまたま事件現場に居合わせるのはなぜなのか。そうした疑問については、今後も明かさないまま描いていこうと思っています。分からない方が面白いですから。

  ──巻を重ねるごとに、布施のミステリアスさに磨きがかかってきましたね。
シリーズ初期は自宅で寝起きしている、みたいなシーンもあったんだけど、最近ではどんどん生活感がなくなっています。そこはシリーズものならではの変化で、前と同じことをしていたら読者につまらないなと思われる。読者は前作よりも上を求めますから。手を替え品を替え新しいことをしなくちゃいけない。少年マンガでどんどん敵キャラクターが強くなっていくように、布施の超人ぶりも高めていく必要があるんですよ。

  ──未解決の大学生刺殺事件を継続捜査することになったのが、警視庁捜査一課の黒田と谷口です。刑事コンビの地道な捜査も、本作の大きな読みどころでした。
他の警察小説に比べると、実は結構ズルをしています。現役の刑事がこんなに捜査情報を記者にもらすわけがないし、記者から情報を吸い上げることもあり得ない。そもそも実際の捜査官はやたらに忙しくて、記者と飲みに行く暇なんてないですから。ただ黒田と谷口は継続捜査専門の部署。だったらこういう形もあり得るかな、というぎりぎりのラインで描いています。布施はTBNの遊軍記者ですが、黒田たちも警視庁における遊軍みたいなポジションですね。

  ──被害者の両親に「私が担当するからには、形式だけということはあり得ません。必ず解決するつもりでやりますよ」と告げるシーンからは、黒田の熱い人柄が伝わってきました。こんな刑事さんが実在すれば、と読んでいて思います。
実際にいると思いますよ。そもそも刑事になろうという人は、普通より正義感が強いタイプが多いですから。こんなかっこいいセリフは吐かないまでも、基本的には黒田と同じような思いで日々の捜査にあたっているような気がします。

  ──若手の谷口が少しずつ継続捜査のやりがいに気づいてゆく。その成長ぶりも描かれていました。
シリーズも四冊目ですから、彼にも一人前になってもらわないと(笑)。変わったといえば黒田もずいぶん変わったなと思いますね。当初は一匹狼的なスタンスだったのが、次第に谷口の指導者的な役割になっていった。シリーズを追うごとにキャラクターが〝熟して〟、物語で担う役割が変化していく。それまで見せられなかったキャラクターの新しい面に光を当てられるのも、シリーズものを書いてゆく醍醐味ですね。

ジャーナリズムのあるべき姿を問い続けたい

  ──布施が取材を続けるかたわら、メインキャスターの鳥飼が思いもよらぬ動きに出て、鳩村はさらなるパニックに襲われます。
鳩村が困れば困るほどこのシリーズは面白くなるので、毎回どう困らせるか頭をひねっているんです。その中でも、メインキャスターのありようというのは、番組にとって最も重要な課題じゃないかと。鳩村はどうすればもっと「ニュースイレブン」がよくなるのか日々真剣に考えていて、そのためには硬派な報道スタンスを突き詰めるしかないと信じている。鳥飼もその理念には共鳴しているんです。でも、鳩村のポリシーのせいで番組が息苦しくなってきたことを感じてもいる。だからこそ栃本の参加を歓迎したり、思わぬ決意を鳩村に伝えたりして、番組に揺さぶりをかけるんですね。

  ──『アンカー』という今回の作品タイトルは、ニュースキャスターの別名から来ています。作中にもありますが、アメリカのアンカーは報道番組の顔で、かなり大きな権限が与えられているそうですね。
どのニュースを読むか選ぶ権利があったり、自由にコメントを発したり、日本のアナウンサーとは全然違いますね。『ニュースルーム』という海外ドラマを知っていますか? ニュース番組の舞台裏を描いた作品なんですが、主人公のアンカーがとてもかっこいいんです。今回タイトルが『アンカー』になったのは、あのドラマの影響も大きかったかな。結果として、鳥飼の葛藤を描くことができてよかったなと思います。

  ──最近はフェイクニュースという言葉が話題になるなど、報道やメディアのあり方があらためて問われていると感じます。ニュースについて議論する鳩村たちの姿に、深く考えさせられました。
ジャーナリズムとは何だろうという問題は、このシリーズで一貫して描いていることです。布施がいつも周囲に投げかけるように、事実というのは切り取り方によってどうとでも変化する。厳密にいえば客観報道というのも本来あり得ない。あらゆる報道は主観の産物なんです。だからといって事実を無視していいわけでもない。正解のない問いなんですが、報道がどうあるべきかはいつも考えています。一応、上智大学の新聞学科卒ですから(笑)。その考えが鳩村たちの発言に反映されている。答えが出ない問題だからこそ、小説として描いているんでしょうね。

  ──新聞学科卒ということは学生時代、ジャーナリスト志望だったのですか?
その気はまったくなかったです。小説家になるため、どんな仕事に就いても三年で辞めようと思っていました。新聞学科では本物そっくりのスタジオでテレビ番組を作ったり、日常的に文章を書くトレーニングをさせられていた。その経験は作家になっても役立っています。

  ──未解決事件は布施が関わったことで大きく動き出します。と同時に「ニュースイレブン」のメンバーもあらためて、自分の居場所を見直すことになりました。
鳩村と栃本は正反対のスタンスに見えて、実は同じことを主張しているんです。二人とも番組を大切に思っていることは変わらない。そこを感じてもらえれば成功ですね。世の中は鳩村や黒田のように、目立たない仕事をする人がいなければ回らない。後半の展開ではそういう人々にエールを贈りたいという思いもありました。お約束といえばお約束ですが、小説というのは予定調和で構わないと思うんです。そこにどううまく着地させるかが大切で、お約束を壊せばいいというものではありませんから。

  ──シリーズの今後について決まっていることはありますか? 今回は栃本がキーパーソンでしたが、その一方で女性キャスターの恵理子が、これまでにない積極的な活躍を見せたのが、とても印象的でした。
栃本は一作きりで退場させるつもりでしたが、いると賑やかで楽しいのでしばらくはこのままの予定です。書いているうちに愛着が湧いてきて、帰すのが忍びなくなりました。しかし恵理子がキーパーソンになる、という展開はありかもしれませんね。今ちょっと思いついたのは、恵理子が謎の失踪を遂げてしまうとか。いや、連載が決まったら、またあらためて考えることにします。自分にとってジャーナリズムは大切な題材ですし、今後もまだまだ続けていきたいシリーズなので、応援をよろしくお願いします。

「青春と読書」2017年6月号より転載

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