報道も捜査も、結局は「人間力」だ! ヘッドライン 今野敏・著/集英社・刊
内容紹介 著者プロフィール 推薦エッセイ 著者インタビュー
物語
夜11時の報道番組「ニュースイレブン」の遊軍記者である布施は、ひょうひょうとしながら独自の取材力で何度もスクープをものにしている敏腕記者。最近、独自に布施が調べ始めたのが、1年前の猟奇的殺人事件。だがこれは、警視庁捜査一課特命捜査第二係の黒田が再捜査中の事件でもあった。どうやら、布施はまだ警察が掴んでいない何かに気づいているようだ…捜査状況を打開するため、黒田は布施をマークする…。
著者からのメッセージ
 記者を主人公にすると、ミステリーが成立しにくいと言われています。記者は、調べようとすると、たいていのことがわかってしまうので、フェアじゃないという感じがしてしまうのです。
 しかし、布施のような記者なら例外だろうと思い、書きはじめました。
 もう一人の主人公とも言うべき、警視庁の黒田は、捜査第一課特命捜査対策室という、未解決事件を担当する部署に所属しています。殺人担当などと違い地味ですが、より事件を掘り下げる立場にいるのではないかと思います。
 布施を通して、報道とは何かをずいぶんと考えました。報道も捜査も、結局は「人間力」なのだと思います。
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著者プロフィール
こんの・びん
1955年北海道生まれ。78年、上智大学在学中に「怪物が街にやってくる」で第4回問題小説新人賞を受賞。卒業後、レコード会社勤務を経て執筆活動に専念。06年『隠蔽捜査』で第27回吉川英治文学新人賞、08年『果断 隠蔽捜査2』で第21回山本周五郎賞、第61回日本推理作家協会賞をダブル受賞。空手有段者で道場「空手道今野塾」を主宰。ミステリだけでなくSF、伝奇アクション、など幅広い分野で活躍。




撮影=小池 守
担当者より
読めば必ず元気になれる今野敏さん作品。本作ももちろん期待を裏切りません! 独自の動きで次々にスクープを取る報道番組の記者・布施は「働く男」の理想形といっていい新ヒーロー。テレビ局と警察、二つの組織が追う事件の謎はもとより現場での駆け引きやプロたる矜持のぶつかりあい、チームワークの醍醐味も十分に味わえる、まさに読み出したら止まらない、ノンストップミステリの傑作がまた誕生しました!
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推薦エッセイ
スクープへの期待と嫉妬…… ニュース番組の裏側にある リアルなドラマに脱帽!

小木哲朗(テレビ朝日・元「報道ステーション」プロデューサー)
Ogi Tetsuro

 自分の部下が 刑事とチームを組んで謎の事件を解決してくれる。
 報道番組の責任者を8年近く続けてきた私にとって夢のようなストーリーが展開されるのが小説「ヘッドライン」だ。

 私が5年間プロデューサーという立場で関わってきた「報道ステーション」をはじめてとして、ありとあらゆる報道番組は、2種類の大事なお客様と毎日向きあって仕事している。
 ひとつは姿が直接見えないお客様。
 テレビの前の視聴者である。
 どれだけの人たちに見てもらえたのかは 視聴率という数字でのみわかる。多くの人に見てもらわなくては番組は生き残れない。そこで私たちはなんとか視聴者の信頼を獲得しようと競争を始める。当然、他の番組が放送をしていないスクープを求めることになる。
 もうひとつの「向き合い」は そのスクープをもたらしてくれる「取材源」の人たちだ。
 スクープがまいこんでくるルートはさまざまだが 政治部や社会部の記者の地道な取材が実を結ぶものもあれば、番組に所属するディレクターの長年の取材活動や人間関係が思わぬ結果をもたらすこともある。

 東都放送ネットワーク――TBNの「ニュースイレブン」で責任者のデスクをつとめる鳩村は、なかなかコントロールが難しいが時折、とんでもない情報をつかんでくる部下、布施京一を抱えている。
 布施は、日常スクープを追い求める記者にとっては大事な「取材源」である刑事の信頼を勝ちとり、最後はタッグを組むという離れ業で事件の真髄に迫っていく。 
 布施の活躍にスクープを期待してしまう上司・鳩村。一方で同じジャーナリストとして感じる布施への強烈な嫉妬心。鳩村の心の動きが克明に描かれ、なんとも面白い。というか作者は、
毎日放送されるニュース番組の裏側で展開される「製作者のドラマ」をどのように取材されたのだろうか。以前、報道現場で台本などを制作する放送作家をやっておられたのか?
 これまで数々の報道番組を舞台にしたドラマや小説があったが、ここまでリアルな人間関係が描かれている作品に出会うのは珍しい。

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『ヘッドライン』刊行 今野 敏インタビュー
不思議な男をヒーローにする面白さ

一見遊び人風でありながら何度もスクープをものにしている報道番組記者・布施京一が、未解決の猟奇殺人事件に挑む──
警察小説の旗手として知られる今野敏さんの最新刊『ヘッドライン』は、事件をテレビ局の記者の視点から描く斬新な作品です。
主人公・布施の魅力や、執筆にあたっての取材について、本作に込めた思いなどをうかがいました。
聞き手・構成=山本圭子
(この対談は『青春と読書』6月号に掲載されたものを採録したものです)
主人公は有能さを見せない男
  ――まず、テレビ局の記者を主人公にしようと思われたのは、どんな理由からだったのでしょうか。
 昔読んだ海外ミステリーで、「フレッチ」という新聞記者が出てくる小説(グレゴリー・マクドナルド『フレッチ 殺人方程式』などのシリーズ)がすごく面白かったんです。それを現代風にして、舞台をテレビ局に変えて書いてみようと考えました。主人公の名前を布施にしたのも、「フレッチ」からの連想(笑)。実はミステリーで記者を主人公にするのはタブーというか、成立しにくいと言われているんです。調べたことや行った場所を、全部書かなきゃならなくなるから。それもあって、普通の記者じゃないタイプの主人公にしようと思いました。

  ――本作は、布施の上司でニュース番組のデスク・鳩村と、警視庁捜査一課の部長刑事・黒田の目線で描かれています。彼らから見た布施は、「いつもふらふらとしている」「不思議な男で、警戒心を抱かせない」という印象です。
"まともな人から見ると布施は変な人"ということをアピールしたかったので、こういう手法をとりました。黒田に関しては、今までいろいろな警察小説を書いてきたので書き慣れているというか、地道に仕事をしてきた普通の刑事です。鳩村も、いわゆるよくいるタイプの上司。ただどこの会社でも、やっぱりああいう真面目な人がいて、場をコントロールしないといけないんだと思いますね。

  ――黒田は捜査一課の中でも、未解決事件の継続捜査を担当している特命捜査対策室にいます。これは最近できた部署なんですね。
 重大事案の迷宮入りを防ぐために、二〇〇九年にできた部署です。短期決戦の他の捜査一課とは動き方が違うので、布施のような遊軍記者と絡ませれば小説の中でいろいろなことができて、自由度が増すと思いました。普通の捜査一課だったら、行きつけの居酒屋とかで記者とつるんでいられませんから(笑)。黒田自身も、この部署にいることを面白がっているんじゃないでしょうか。地味にひとつのヤマを追いかけるような昔ながらの捜査は、他ではなかなかできないので。

  ―― 一見頼りないようでいて実は切れ者という布施ですが、彼のプロフィールはほとんど明かされていません。
 わかっているのは細身なのによく食べる、そして独身ということぐらい。でも「細身なのによく食べる」ということだけでも読者の興味をひくし、想像も広がると思うんです。私の中には彼の明確なイメージがあるんですが、多分それは書かない方がいい。布施は一種のスーパーマンなんですよ。好き勝手にやっているようで、スクープをポンポンとってくるという。ああいうタイプは本格派ミステリーの名探偵役にはいましたが、それを日本のテレビ局という組織に入れたことで、存在が面白く浮き上がってきたのだと思います。
  ――鳩村も黒田も、年下の布施の仕事ぶりを評価していますが、自分にはないものを持っている彼にコンプレックスのようなものを抱いている。一方で、彼という人間を好ましく思う気持ちもある。ふたりの複雑な胸中に人間味を感じました。
 黒田なんかは、本当は布施と友だちになりたいんですよ。立場が刑事と記者なので、なかなかうまくいかないけど(笑)。鳩村の場合は、ちゃらんぽらんなのにキャスターたちからも人気がある布施を見ていると、やっぱり劣等感を感じるでしょうね。ただ黒田も鳩村も、誇りを持って自分の仕事をしているんです。彼らは有能な人間だし、それぞれ経験から得た"選ぶべき仕事上の手段"を知っている。布施はそれがわかっているから、マイペースなようでふたりを頼っているんです。布施は好奇心が旺盛で、興味を持ったことにはワーッと行くけれど、興味がないことはまったく触らないタイプ。オールラウンド型じゃないんですね。

  ――ユニークな男・布施のどんな点を特に際立たせようと思われたのでしょうか。
 例えば、他の人が「事件の被害者」と言う場合も、布施は必ず被害者の名前で言うんです。それは、彼が人と人との関係を報道したいと思っているから。つまり目のつけどころが他の人と違うし、地に足がついているから、結果的にみんなが見たいニュースやスクープがとれるんです。普通は記者も取材に慣れるにつれ、表面的なとらえ方になりがち。だって、わざわざ苦労したくないから(笑)。でも布施は、一切そういうことをしない人なんですね。

  ――布施はスクープをものにしても、自分でテレビに出てレポートするようなことはしません。そこにも、彼なりのポリシーがある気がします。
 やっぱり顔を見られたくないんですよ。取材ができなくなるから。新聞や雑誌に出てもそれほど顔は売れないけど、テレビに出たらすごい影響力がある。彼はそれがわかっているから、黒子に徹するんですね。
六本木という街の個性と変化
  ――既に文庫化されている前作『スクープ』は、布施が活躍する短編集です。長編の本作を書くにあたり、改めて取材されたことはありましたか。
『スクープ』のときは夕方のニュースショーを取材しましたが、それからだいぶ経ったので、別の局の夜のニュースショーを取材しました。ニュース制作も以前とはずいぶん変わっていて、サーバーにどんどん映像を入れていくんですが、一方では相変わらずビデオを使っている部分があったり。いろいろな驚きがあったし、局のカラーみたいなものも感じましたね。前作に引き続き、今回も鳥飼と香山という男女のキャスターが登場しますが、実際のキャスターの方々とお話しすると、ものすごく勉強されているのがわかります。

  ――事件の背景として、夜の六本木とそこに集まる人々が描かれていますが、その取材はどのようにされたのでしょうか。
 確かに他の作品と比べてこの小説は都会的というか、街のことを書いていますね。六本木は若い頃からかなり授業料を払っているんです。布施は飲みに行くことを単純に遊びや楽しみと考えていますが、私は決して無駄にしません。仕事に生かしています(笑)。

  ――布施は飲み方も自然体ですね。
 アフリカ系外国人がいるクラブでも、ママがひとりでやっているバーでも、彼はひとりで飲んで楽しめるんです。それは一種の才能ですよ。だって普通飲みに行っても、いつも楽しいとは限らないから(笑)。彼には下心も損得勘定もないし、遊ぶときは本気で遊ぶから、街のあちこちに友だちができる。そしていざというときその友だちが、「布施ちゃんのためなら力になろう」と思うんです。

  ――昔から六本木をよくご存じの今野さんには、今の六本木はどのように映っているのでしょうか。
 ここ十年くらいでヒルズやミッドタウンができたわけですが、両方とも独立した街という感じで、六本木とは言えないような気がします。ただ六本木って表面的には変わっても、中でうごめいている人種はあまり変わらないんですよ。昔から外国人が出入りするクラブはあったし、バーもあった。つぶれるクラブもありますが、中のスタッフは六本木の別の店に散らばっていたりするし。でも、集まる人の年齢層は低くなりましたね。昔の六本木は大人の街で、高校生みたいな若い人が来るようなことはなかった。だから、今までとは違う種類の犯罪が起こり得ると思ったわけですが。
客観的報道の難しさ
  ――物語が進むにつれ、布施が報道について確固たる考えを持っていることがわかってきます。彼の考え方は報道の受け手である私たちも、耳を傾けるべきと思いました。
 テレビのニュースというのは、非常にバイアスがかかってしまうものだと思うんです。もしかしたら客観的な報道なんて、ほとんどありえないのかもしれない。だからこそ何をどう報道するかということを、布施はとても真面目に考えているんですよ。彼は「報道マンが正義を振りかざすのは危険だし、傲慢」と言うけれど、まさにそうだと思います。東日本大震災以降、報道番組が増えましたが、私自身ますますニュースのあり方について考えるようになりました。

  ――本作もそうですが、今野さんの小説を読んでいると、さまざまな形や深みがある人間同士の絆が浮かび上がってきて、じわじわと感動させられます。
 今、職場でも家庭でも、人間関係が壊れていることが多いと思うんです。それについて一概にどうとは言えませんが、自分にできることは「俺はこういうチームが好きだ」「こういう家庭が好ましい」という理想の形を小説で見せることだと思っています。鳩村と布施の関係にしても、ただ対立しているんじゃなくてその根底に信頼関係があるからこそ、チーム全体が機能する。そういう面を書かずにいたら、読む人も「壊れた人間関係でもしょうがない」と思うんじゃないでしょうか。だから私の小説は、必ずラストが明るいんです。読み終わったときに、少しでも元気になってほしいから。もちろん壊れたままを書くという作家もいるとは思いますが、私はそうじゃない。プロになって五十冊くらい書いたところで、そういう自分の作風や物語の着地点を意識するようになりましたね。一九九三年頃かな。

  ――今野作品初心者にとっては手にとりやすく、ファンにとっては新鮮な作品が、『ヘッドライン』ではないでしょうか。
 主人公がテレビ局の人間なので、警察内部の描写は少なめですが、逆にメディア側から見た捜査を書いています。そのことで、警察の動きが見えやすくなっているかもしれませんね。書く方としては自由だったというか、とても書きやすかった小説です。鑑識のこととか検視報告とか、捜査の様子をひとつひとつ追う必要がなかったし、今まで書いてきたような、警察官の人間関係を中心に書くことで成立させる小説とも違ったので(笑)。

  ――デビュー以来、精力的に書き続けていらっしゃいますが、改めて今後の抱負をお聞かせ下さい。
 私は天才肌じゃなくて職人なので、これからも書き続けていくだけですね。職人って、継続してやっていないと腕が落ちるんですよ。ただひたむきに、ですね。
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