前職の人間関係や職場環境に疲れ果て退職した 茉子まこは、
親戚の伸吾が社長を務める吉成製菓に転職する。
そこは、饅頭「こまどりのうた」や小ぶりな大福「はばたき」、
どらやきの「福娘」などの和菓子を作る、社員35名の小さな製菓会社。
誰よりも業務を知っているのに訳あってパートとして働く亀田さん、
やたらと声が大きく態度も大きい江島さん、
その部下でいつも怒られてばかりの正置さん、
畑違いの有名企業から転職してきた千葉さん……。
それぞれの人生を歩んできた彼らと働き始めた茉子は、
サービス残業や女性スタッフによるお茶くみなど、
会社の中の見えないルールが見過ごせず、声をあげていくが━━
大阪の小さな和菓子製造会社を舞台におくる、
あなたが生きる〈今〉に光を灯す希望の物語。

イラスト/せいのちさと
あじさいかん 羊羹ようかんの上に練りきりの花を散らし、琥珀こはく羹を流してかためた四角い菓子。あじさい羹を知らない茉子に、亀田が説明してくれた。
木の露 つぶ餡を自然薯じねんじょの生地で包んで蒸したもの。「こまどり庵」で販売。
はばたき 直径3センチほどの大福。つぶ餡。吉成製菓で昔から製造されている。正置の祖母の好物。
うぐいすもち こし餡を求肥ぎゅうひで包み、うぐいす粉と呼ばれる青大豆から作られたきなこをまぶした菓子。満智花が茉子の家に差し入れる。
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【プロフィール】
寺地はるな(てらち・はるな)
1977年佐賀県生まれ、大阪府在住。2014年『ビオレタ』でポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。2021年『水を縫う』で河合隼雄物語賞受賞。2023年『川のほとりに立つ者は』で本屋大賞9位入賞。『大人は泣かないと思っていた』『カレーの時間』『白ゆき紅ばら』『わたしたちに翼はいらない』など著書多数。
慣習を変えることは大変だ。精神面だけでなく、体力も使う。疲弊する。いかにも闘う!という登場人物がいないからこそツラいなぁ、と感じた。ただそんな疲れた心を、登場する和菓子が癒してくれる。そんな和菓子たちのような、癒しをくれる作品だ。春にぴったり。 紀伊國屋書店さいたま新都心店/大森 輝美さん 闘う茉子の物語。ひとつひとつの場面が、言葉が、自分にぐさぐさ突き刺さる。あー!そんな考え方があったのかと膝をうつ。生きる勇気がむくむく湧いてきて、体の奥からぐわーっとあたたかくなった。最高だ。 未来屋書店四條畷店/安藤由美子さん あらためて仕事って何だろう?と考えさせられる。どこにでもありそうな中小企業の内情が、外から来た主人公の目線で語られ始めると、これが「自分の常識は他人の非常識」なのかと改めて思い知らされる。同じ人類で同じ日本人、そしてこの会社で働きたいのに分かり合えないもどかしさ・・・ここに悲しくなりながらも、最後 「たぶん、なんでもできますよ。わたしたち」の言葉に救われた。 谷島屋マークイズ静岡店/小川誠一さん たくさんの寺地作品の中でも1番好き! すっと小説の中に入りこめて、だんだん 自分もこまどり庵の関係者になった気分がしてきます。 展開はどんどん想像を超えてきて、 思わずハイタッチしたくなるような、 ビターでスイートな人生讃歌に胸熱くなります。 うさぎや矢板店/山田恵理子さん おかしいなと思うことがあっても仕事や人間関係にヒビを入れたくなくて我慢してしまう。そんな小さな積み重ねが後に大きな負担になることもある。わかっていてもなかなか言えないことがあるのだ。その会社の中だけでしか通用しないルールを少しずつ変えていこうとする茉子に自分の働き方を顧みるけれど、自分のことは棚に上げて茉子を心から応援したくなった。懸命に生きて働く彼女たちが軽やかに、時にはユーモアをまじえて描き出されていてとても良かった。しんどいけれど生きることも働くことも悪くない。元気が出ました。 水嶋書房くずはモール店/井上恵さん 「自分で自分を認めてあげるしかない」「他人にばっかり期待してても幸せには」なれないという茉子に共感してしまう私は、伸吾にいわせると「ぞっとするくらい残酷」らしく、そういうどきっとする場面もたくさんありました。 甘さの中にほんの少しの塩味があっておいしさが沁みていくように、時々で食されるお菓子が、そのちょっとトゲトゲしたもの、不安定に揺れ動く人の気持ちをそっと包み込んでくれるような物語でした。 「こまどりのうた」食べてみたいです。 蔦屋書店熊本三年坂/迫彩子さん 生きていくことは容易ではないけれど、自分らしく歩みを進める茉子は私に、きっと明日は希望の光が灯ると、前向きに生きていく力を与えてくれました。一人一人の人生は尊い。じんわりと心があたたかくなって、日々を懸命に生きる人が救われるような物語。頑張っている全ての人に贈りたい作品です! 紀伊國屋書店 久留米店/池尻 真由美さん 人にはそれぞれ事情があって、あまり慮っても身動きがとれなくなるのだ。あちらこちらに散りばめられた言葉達が、きらきらと飛び込んでくる。涙はしょっぱい、お菓子は甘い。お菓子の甘みに助けられる人は沢山いる。吉成製菓の人々の温かさが心地よい。寺地さんの人に寄り添う文章が胸に響く。 旭屋書店アトレヴィ大塚店/北川恭子さん 寺地はるなは裏切らない。 今回も世の中の生きづらさに苦しんでいるたくさんの人が寺地小説に救われるはず。 不器用で人に合わせることが苦手で、さりとて周りを気にせずゴーイングマイウェイができない主人公を描かせたら天下一品。 あぁ、これは私に伸ばされた手だ、これは私への応援歌だ、とそう思いながら読んだ。 生きていると、たくさんの呪いの言葉をかけられる。それは悪意のあるものであるとは限らない。 良い人がかける良い言葉も、その言葉にとらわれ身動きが取れなくなることがある。 そんな言葉からの解放。 強くなくてもいい、弱音を吐いてもいい、へたくそでも、不器用でも、逃げても、いい。そこに自分の心と身体があれば、大丈夫。 寺地はるなは、ずっとずっとそばでそう言ってきてくれた。 ありがとう、そんな気持ちでページを閉じた。 精文館書店中島新町店/久田かおりさん 一番私の心にぶっ刺さる寺地作品に出会えた!働くということは、人と人がかかわり合うこと。皆違う人間なのだから、当然意見は合わないし、ぶつかってしまう。立ち止まったり、下を向いてしまうそんな私達に、あまじょっぱくて、ささやかだけど確かに幸せになれるエールを貰える一冊だ。 未来屋書店有松店/富田晴子さん

こまどりたちが歌うなら

寺地 はるな

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