貴族探偵 召使が推理 貴族が解決 本格愛好家へ贈る ディテクティブ・ミステリーの傑作! 麻耶雄嵩、五年ぶりの最新刊!! 2010年5月26日発売!

四六判上製本 定価1,400円(本体)+税 麻耶雄嵩(maya yutaka) 1969年5月29日生まれ。三重県上野市(現・伊賀市)出身。三重県立上野高等学校、京都大学工学部卒業。在学中に推理小説研究会所属。綾辻行人、法月綸太郎、島田荘司の推薦をうけ、'91年『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』でデビュー。著書に『夏と冬の奏鳴曲』『神様ゲーム』等がある。

人形芝居を思わせる抽象性の魅力!  巽昌章
人形芝居がただ人の所作の模倣にすぎないのなら、そんなものはとうに滅びていただろう。私たちがいまなお人形たちの動きに惹きつけられるのは、彼らの「人間そっくり」な演技につきまとうカクカクしたぎこちなさが、そこで描かれている悲喜劇をいったん突き放し、抽象化してしまう力を秘めていればこそである。麻耶雄嵩の小説にはいつも、そんな人形芝居を思わせる抽象性の魅力が横溢している。
各編の表題にウインナ・ワルツの曲名をかかげつつ、極端に人を食った設定と律儀な推理とを同居させた『貴族探偵』は、その意味で、いかにもこの作者らしい短編集だ。お洒落で優雅で色好みな貴族探偵が黒塗りのリムジンに乗って登場し、どこか下世話な現代日本の殺人事件に首を突っ込む。といっても、「生活?そんなものは召使にまかせておけ」というヴィリエ・ド・リラダンの放言さながら、ときに鮮やかな、ときに精緻な推理を繰り広げるのは、もっぱら執事やメイドなのである。彼の作品にはこれまで、その名もメルカトル鮎という、シルクハットにタキシード着用の珍妙な探偵役が出没していたが、こちらの貴族探偵もまた、浮いているという点ではいい勝負だろう。だが、そうした異様な存在が割り込むことで、殺したり殺されたり、犯罪工作を弄したり、うっかり手がかりを残してしまったりといった推理小説でおなじみの出来事が、まさに人形芝居めいた奇妙な味わいを帯びてくる。謎解き中心の推理小説は、トリックや推理の精密さに着目するか、キャラクターの魅力や雰囲気を楽しむかといった二者択一的な受けとめ方がなされがちだが、本書はそんな二分法とは無縁のところで成り立っていて、あくまで謎解き専一に組み立てられていながら、そのメカニズムに沿って配列された人々の動きそのものが、一種冷酷なユーモアを呼び寄せるのだ。
(「青春と読書」六月号より)
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