町山智浩×大槻ケンヂ トラウマ映画館 刊行記念トークショー (於・青山ブックセンター本店/2011年4月5日)

書籍紹介 

トラウマ映画館 町山智浩 著 発売日:2011年3月25日 定価:1,200円(本体)+税
町山智浩さんが主に10代の頃、テレビなどで出会った、衝撃の映画たち。

呪われた映画、闇に葬られた映画、
一線を超えてしまった映画、
心に爪あとを残す映画、25本!

『バニー・レークは行方不明』『裸のジャングル』『マドモアゼル』『愛すれど心さびしく』『傷だらけのアイドル』『愛と憎しみの伝説』『戦慄! 昆虫パニック』『不意打ち』『マンディンゴ』『わが青春のマリアンヌ』『眼には眼を』など。

町山智浩×大槻ケンヂ 『トラウマ映画館』刊行記念トークショー

大槻ケンヂと町山智浩が出会ったころ

町山 よろしくお願いします。町山智浩です。

大槻 皆さん、よろしくお願いします、大槻ケンヂです。
 さっきも楽屋で話してたんだけど、町山さんとお会いするのは15年ぶりくらいという……。

町山 イヤ、もっと前、"鼻血ブー"のころですよ。

大槻 『高木ブー伝説』をタイトルを替えて『鼻血ブー伝説』にしたのが1992年。じゃあ、20年近く前じゃん!
 そのころ町山さんは、雑誌「宝島」の編集者だったのね。それで「大槻君、何かヘンな映画好きじゃない?」って言われたんですよ。

町山 そうだった。

大槻 それで、杉作J太郎さんと二人でヘンな映画について語る企画に参加したんです。ぼくもまだ若くて、いまほど変わった映画を観ていたわけじゃないから、定番の大林宣彦の『HOUSE』(1977年)なんかを挙げて、Jさんが相変わらず『怪談昇り竜』(石井輝男監督/1970年)なんかを挙げて……。

町山 Jさんはいつもあの映画ね。

大槻 そんなこんなで町山さんが『映画秘宝』を創刊して。あれが何年?

町山 ムック形式のが95年創刊で、大判の隔月刊のが99年。
 大槻君に連載してもらったのはそのときから?

大槻 そうなんだけど、なんで連載をお願いされたのかというと、まだムックのころ、この本、大好きと思って、おれね、投書したの。普通に。

町山 え! 一般人として?

大槻 そうなんですよ! 「ぼくは大槻ケンヂといいますが、忍者映画に出たこともあって、その映画は変な怪獣とか出てきますよ」って投書したら、「あの大槻ケンヂさんから」といって、モンスター映画特集のときに載せてもらったの。

町山 あー、思い出した。お便りコーナーにおれが載せたんだ。

大槻 で、隔月の『映画秘宝』になるときに、「連載しませんか」って声をかけていただいたんですよ。

町山 しかし、20年ぶりぐらいに会っても話題が何も変わってない。

大槻 まったくそう。昨日、みうらじゅんさんと対談だったんですもん。

町山 人間関係も変わってない(笑)。

大槻 今日のイベントのことをしゃべったら、「おれら何十年も顔ぶれが変わんないな」って。それで、みうらさんが「サブカルっていうのは、結局さ、『ウルトラQ』からスチャダラパーまでなんだよ」って言ったんですよ。

町山 みうらさん、いつも話が怪獣から始まる。もう昔からね。

大槻 でも、そんな中でも、出世頭はピエール瀧ですよ。

町山 大河ドラマに出て(『龍馬伝』に溝渕広之丞役で出演)。

大槻 みなさん! 大河ドラマにピエール瀧ですよ! うれしいよね!

町山 でもさ、彼は昔から着物が似合うと思ってたよ。

大槻 そう、「人生」(電気グルーブの前身のバンド)のころはヅラかぶってバカ殿で出てたから(笑)。

町山 頭が大きいから似合うんだよね。ちょんまげが。

大槻 ぼくは彼とノイズバンドやってましたからね。それに絡めて、町山さんと松嶋尚美さんの番組『未公開映画を観るTV』で紹介されていた、ジャンデックの映画『JANDEK ON CORWOOD』をエッセイで書いたりとかもしてるんですよ。だから、町山さんの本、けっこう読ませていただいてます。

町山 ありがとうございます。大槻君のエッセイ読んでると、よく映画の話題が出てくるでしょう。池袋文芸坐とかディープに描かれていて。

大槻 ぼくは世代で言うと、町山さんよりちょっと下なんですけれども……学年で3つ下ですか。町山さんと同じでテレビでも映画はたくさん観ていたつもりだったけど、『トラウマ映画館』に出ている映画では、ぼく、観てたのは『尼僧ヨアンナ』のみでしたね。

町山 あ、ほんとうに。

大槻 うん。それだけだった。

町山 ぼくは『尼僧ヨアンナ』はテレビで観てないんですよ。高田馬場のすごい変な映画館で観たの。

大槻 ACTミニシアター、オレも行ってましたよ。

町山 あそこって椅子がない映画館でさ。

大槻 そうそう! ビニール袋に靴を入れて、みんなでノソノソと、ゴザの上に(笑)。

町山 酔っぱらっても寝っ転がって観られる。マンションの2階にあるんですよ。

大槻 で、いつもやってるのは、『市民ケーン』と『戦艦ポチョムキン』。

町山 『戦艦ポチョムキン』必ずやってるんだよね。あと、『アンダルシアの犬』。

大槻 あれ、なんでですかね? あと厚生年金会館の裏にあったアートシアター宿、あそこもいつもやってるのが、やっぱり『市民ケーン』と『戦艦ポチョムキン』。それと『カリガリ博士』と『フリークス』と『ピンクフラミンゴ』(笑)。

町山 黙壷子フィルムアーカイブだね。行ってた場所が同じだから、どこかでたぶん大槻君に会ってると思う。

大槻 いや、ホント会ってると思うんですよ。映画館に行くと、どうも見た人いるなと思うと、「あ、ケラさん」とかね。あと、加藤賢崇さんとバンドやってた、今、ちょっとぱっと出ませんけど、彼とかが『ぴあ』のフィルムフェスティバルにいたりとか。三留まゆみさんに聞くと、カルトっぽい映画を観にいって、映画が終わって明るくなって立ち上がるとほとんど知り合いだったという。(笑)

町山 三留さんは、じっさいに映画にも出てたし。

大槻 ああ、出てましたね。今関あきよし監督のデビュー作。

町山 『ORANGING'79』。幼児体型の三留さんが浮輪をつけて水に飛び込むっていうすごいシーンがあるんですよ。

大槻 ぼくにとっては、トラウマ監督ですよ。

町山 今関監督の『フルーツ・バスケット』がみんな大好きで。

大槻 ぼくも高校時代、大好きでしたもん。

町山 少女たちのリリカルなファンタジー。

大槻 そうそう、萌えの元祖みたいな映画ですよ。モーニング娘。の映画なんかもたくさん撮ってますからね。ぼくらのあこがれでしたよ。

町山 で、あこがれてたら、淫行罪で監督が捕まっちゃった。

大槻 あらら。ほんとうのロリコンだったっていう。

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3.11をどう過ごしたか?

大槻 町山さんは、3月11日は? 何してました?

町山 自宅のあるアメリカにいました。TBSラジオの「キラ★キラ」にアメリカから電話で生出演する予定だったんですが、なかなか電話がかかってこないわけ。で、放送事故かと思って、ツイッターに「TBSから電話がない」って書いたら、タイムラインに「地震です!」ってワーって流れてきて。スタッフからも「局内の電話では国際通話出来ません。本日は、キラキラ終わりました」ってやっぱりツイッターで教えてもらって。津波の映像もそのすぐあとに……。

大槻 ぼく、あのとき、試写会場にいたんですよ。

町山 え、なに観てたの?

大槻 それが、『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』(笑)。

町山 あの映画、ぼくが字幕監修したんですよ。

大槻 え、そうだったんだ。

町山 はい。

大槻 リッケンバッカーのベースを持った、売れないバンドのベース担当の男の子が、いかした彼女を好きになって、でもその彼女には7人の邪悪な元カレがいる。で、その元カレが次々とカンフーで襲ってくるんですよね。会場の人はわけがわからないと思いますが。

町山 なぜかカンフーで戦うっていう。

大槻 その元カレたちを一人一人倒さないと、彼女とつき合えないという不思議な映画。で、それをぼくは免震構造のタワービルの14階で観てたんです。もう最後のラスボスとの戦いの場面ですよ。それで午後2時46分。グラグラ揺れ出して、ぼく、何か新しい映画の効果だと思って(笑)。

町山 センサラウンドみたいな。

大槻 イヤ、ホントにそう。しかし、それにしては揺れ過ぎ……。

町山 ビル自体がグラグラしてるわけだからね。

大槻 で、おかしいと思って、試写会場のドアを開けて顔を出したら、映写技師の人が「とめる? とめる?」ってオレに聞いてきて(笑)。「いや、もう映画もちょうど終わるころみたいですよ」って。でも、さすがにこれは危険だって飛び出たら、映写技師さんが「とめます!」と言って。だから『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』のラストシーン、ぼくは観てないんですよ。

町山 そのままほんとうに終わっちゃったんだ。

大槻 もう今後の人生で、あの映画見ると、必ず今回の地震のこと思い出しますよ。明らかなトラウマ映画です、これ。

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映画館への想い

大槻 映画でトラウマと言うと、ぼくは、映画本編よりも、テレビCMが結構トラウマで、いまでも思い出すと怖いのが『震える舌』。

町山 うわ、あれは怖い。小さな女の子が破傷風にかかってしまう映画。それだけなんだけど。

大槻 破傷風の映画と聞くと非常に地味な話なのに、完璧に作り方がオカルト映画ふうで。

町山 破傷風版『エクソシスト』みたいな映画ですよね。

大槻 子供のころ、その『震える舌』のCMが怖くて怖くて。

町山 あのCM、今だったら絶対放送できないね。

大槻 女の子が「ぎゃー」って絶叫するんです。

町山 女の子がけいれんを起こして、舌を自分で噛んで血がピューって吹き出すんですよ。夕飯時に殺虫剤のアホなコマーシャルやってるのと同じ枠に、絶叫で血がピューだからね。いまだったら考えられないよ。

大槻 あと、それをおれは見たのか、それとも見た話を聞いただけのか、あいまいなんですけど、『空飛ぶ十字剣』の……。

町山 『空飛ぶ十字剣』のコマーシャル、あれは最高だったねぇ。女の子が「ママ、これから『空飛ぶ十字剣』見に行ってきます」って言って、家から歩き始めると、槍が飛んできてぐさっと刺さって「飛び出す立体映画」って(笑)。客殺すのかよって。

大槻 そもそもぼくは、映画館が怖かったんですよ、実を言うと。小学3年生くらいのときに、『ノストラダムスの大予言』って映画を観まして、これがもう、ほんとうに死ぬほど怖くて、同時上映が『ルパンIII世 念力珍作戦』だったんですけど。もう、両方、大トラウマですよ、もう。
「1999年……」っていう岸田今日子のナレーションも怖くて、あれ以来、怖い映像とか、映画館自体に、実は小学校高学年になるまで行けなかったんですよ、ぼく。

町山 それでショック受けちゃって。

大槻 そうなんです。それで、このままじゃだめだと思って……。

町山 別にだめじゃない、いいんですよ(笑)。

大槻 いや……。

町山 何で映画館に行かなきゃいけないわけ?

大槻 映画は本数こなさなきゃだめだと思って。

町山 カルトかな、あのころは。

大槻 そうですね。で、ショック療法で見に行ったのが、『ゾンビ』(1978年)と『溶解人間』(1977年)の二本立てですよ。

町山 『溶解人間』はガキの間ですごい話題でしたね。

大槻 もうドロドロのね。

町山 宇宙から帰ってきた宇宙飛行士が、宇宙で何かの菌に感染して、皮膚がどんどん溶けていく。

大槻 そうです。で、溶ければ溶けるほど強くなってくという。

町山 いやいや、溶ければ溶けるほど小っちゃくなって、最後はゴミになって、お掃除のおじさんに片づけられて終わるんです。

大槻 そうでした、そうでした。すごい終わり方。

町山 ものすごい映画でした。

大槻 同時上映がそれと『ゾンビ』でしょう、逆にショック療法が効いて、そういう映画をぼくは大好きになっちゃったんです。

町山 『溶解人間』を見るとね、けっこう人生変わります、あれ。

大槻 そんな立派な映画でした?

町山 それまで映画って立派な大人が作っていると思ったんだけど、そうじゃない、バカが作った映画もある、と学んだ。

大槻 そうそう。

町山 『溶解人間』は、なぜか体が溶けてきた宇宙飛行士が人を襲って殺す。で、殺人現場には、溶解人間の溶けた体の部品が落っこちてるんですよ。覚えてます?

大槻 いや、まったく(笑)。

町山 それで、事件を追ってる科学者だか刑事だかが、「この犯人は体がどんどん溶けていってるぞ。このままだと大変なことになるぞ」と言うんですけど、それ、溶けてくだけだから、大変なことにならないし。あと、溶解人間がある男の首を切断する場面。

大槻 うん、うん。

町山 首切れたから、その男はもう死んでるわけじゃん。ところが、なぜかカメラはその首の行方を追っていくんですよ。

大槻 あ、それはなんか覚えてる。首が川に流される……。

町山 そう。川をどんぶらこ、どんぶらこと首が流れていくのをずっとカメラが追い続ける。その後、首にどんな運命が待ち受けていようと、彼にとっては人生は何も変わらないのに。しかも彼は物語と関係ないまったく無名の人なのに。でも、首が流る場面で、なんかエモーショナルなギターが流れるんです。

大槻 そうでしたっけ?

町山 そう。ゲイリー・ムーアみたいな音楽が流れるんです。

大槻 へー。スローモーションで、滝をその生首が落ちていくのだけは、おれね、覚えてるの。

町山 で、最後は小っちゃい滝に首が落ちて、べちゃってつぶれるんですよね。

大槻 そうでした。そんなでした。

町山 ぼくはこれを観て、映画を作っている人というのは、立派な人じゃない人もいるんだなというのがわかりました。

大槻 それを、おれ、最初に思ったのがあれですよ。『エアポート'80』。

町山 ああ、アラン・ドロンが機長をやるやつね。

大槻 はい。コンコルドが出てくるのね。熱感知ミサイルが、ジョージ・ケネディを乗せたコンコルドを狙って飛んでくる。

町山 ジョージ・ケネディが副機長でね(笑)。

大槻 彼が、コンコルドのガラスをがらっと開けて、空に向かって……。

町山 照明弾を撃つんですよね。

大槻 ボン! って。そうすると、照明弾のほうを熱感知ミサイルが追っていって助かるっていう。無茶苦茶ですけど。

町山 操縦席の窓が引き戸になってる。

大槻 で、まあいろいろあって、最後は全く同じ人を乗せて戻ってきて、またミサイルに狙われて……、今度は冬山に墜落しちゃうんですよね。

町山 コンコルド落とそうと思ってる人が、コンコルドのコンピューターの基盤を汚すんですよ、ごみつけたりして。汚した基盤をコンコルドに戻しておくと、コンコルドがおかしくなって墜落する。

大槻 で、最後は落っこちて、そのまま終わっちゃうんですよね、たしか。

町山 アルプスか何かに不時着して、一応、乗客は逃げるんですけどね、爆発する。

大槻 で、終わりっていうね。
 あと、『メガフォース』(1982年)ってあったじゃないですか。

町山 おお、『メガフォース』!

大槻 『メガフォース』を見たときに、けっこうバカもいるんだなって思った。

町山 まず、ポスターがすごい。「世界を守るメガフォース軍団」って書いてあって、巨大なタンクというか戦隊物のロボットに変形するマシーンみたいのが描いてあって、これが映画に出てくると思って観に行ったら、100分の1ぐらいの大きさなのね。

大槻 そうそう。で、最後は、オートバイが、ぐーって一人だけ残されて。それでオートバイ、どうなるのかなって観てると、ブイーンって飛んでくのね。

町山 羽が生えて、空飛んでいく。

大槻 オートバイは、メガフォースに吸収されていくんだけど、もうそのころには、役者もバカな映画に出ちゃったなという感じがあって、役者たちも「やったぜ、いぇーい」って。もう、投げちゃってるんですよね。

町山 『不良番長』シリーズってあるじゃないですか。映画の最後に、山城新伍と梅宮辰夫が、客に向かって挨拶する。「みんな、お正月におれの映画見に来てくれてありがとう」とか言ったりするんですよ、スクリーンから。あれと同じ現象が『メガフォース』のラストで起こるんです。「みんな、70年代もメガフォースの時代だったけど、80年代もガンガン行くぜ」とか言って。

大槻 おれ、あれ観ちゃってるのがちょうど中一だから、そのショックは……。

町山 子供のころはパンフレットを集めてたから、映画を観る前に劇場に入ったらすぐパンフレットを買ってたんですよ。で、『メガフォース』のパンフレットを買って開いたら、増淵健さんっていう映画評論家が解説してて「私はこの映画の解説をパンフレットに書くように依頼されたが、どう七転八倒しても、この映画を褒めることだけは絶対にできない」って。おれはこれから観るのに!

大槻 当時はまだ映画というものは真面目に観るものだって神話があったよね。映画を突っ込んでいいっていう感じになったのっていつからだろう。

町山 おれがやり始めた。

大槻 そうだ、町山さんだ。『映画秘宝』だ。

町山 みうらさんとぼくが始めたんですよ。

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