RENZABURO
作品紹介 インタビュー 登場人物紹介 うずら大名MAP 著者紹介
作品紹介

定価:1,300円(本体)+税
2015年9月25日発売
装画:スカイエマ
装丁:鈴木久美



うずら大名 畠中 恵
若き日に同じ道場に通った貧乏武家の部屋住み・有月と百姓の三男・吉也。金もなく、家にも町にも居場所がなく、この先どうやって生きていけばいいのかと悩む日々を共に過ごしてきた。

時は流れ、吉也は東豊島村の村名主となり吉之助と改名。ある日、大名家へ向かう途中に辻斬りに襲われるが、「御吉兆ーっ」という鳴き声とともに飛び込んできた白い鶉とその飼い主であるお武家によって命を救われる。

お武家の正体は、十数年ぶりに再会した有月だった。涼やかな面で切れ者、剣の腕も確かな有月は大名を自称するが、どう見ても怪しく謎めいている。そんな有月と勇猛果敢な鶉の佐久夜に振り回されながら、吉之助は江戸近隣で相次ぐ豪農不審死事件に巻きこまれていく。一つ一つの事件を解決するうちに、その背景に蠢く、幕府を揺るがす恐ろしい陰謀が明らかになり――。

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インタビュー
刊行記念スペシャルインタビュー 自称〝大名〟と豪農、ふたりの三十路男が江戸の難事件に挑む物語
『しゃばけ』や『まんまこと』をはじめ、人気シリーズを次々と発表してきた畠中恵さん。待望の最新刊『うずら大名』は、史料を読み込むうちに見えてきたという武家と農民の意外で複雑な関係性を、推理仕立てで描いた痛快時代小説です。新たな畠中ワールドの始まりにあたり、お話をうかがいました。





――『うずら大名』の物語の前提になっているのは、当時の大名家と豪農のつながりですね。

 そうですね。江戸時代身分の低い武士は、一年間の扶持が三両一分だったことから「さんぴん」と言われていました。でも幕末の手前頃になると、お百姓さんがそれをはるかに超えるお金を、武家や町の長屋から引き取る下肥(田畑へ撒く肥料)代として払うこともあったそうです。最初は「え!?」と思いましたが、当時の史料を読めば読むほど、お百姓さんが弱い立場という感覚がなくなっていって。さらに調べていくうちに、大名にお金を貸す豪農がいたことや、彼らが信じられないようなものを売買していたこともわかったんです。一般的に考えられている「江戸」と史料が示すものにずれがあるのを強く感じて、どこがどうずれていたのか、どこまでずれていたのかと、興味がわきました。

――大名と豪農の複雑な力関係は、有月たちが追う事件の原因にもなっています。

 表向きは変わらなくても、江戸時代後期になると体制がちょっとずつ崩壊していた、ということですね。「黒船が来なかったとしても、幕府はどこまでもったのか」と思いました。各藩の対立といった政治の動きとは別に、お金の貸し借りに注目して資料を読むと、武士と商人とお百姓さんの実質的な身分の差がだんだん小さくなっていったことがわかります。ただ、そういう変化を書くのは面白いけれど、難しさもありますね。下手をすると、すべてが作りごとめいてしまって、面白おかしいエンタメになってしまう。もちろんエンタメではありますが、本作の根底には史実があります。

――有月と吉之助を中心に物語は展開していきますが、もうひとり(一羽?)忘れてならないのがうずらの佐久夜。有月の巾着から顔をのぞかせる丸っこい姿は愛らしく、「御吉兆ーっ」という鳴き声はめでたいけれど、有月の命令で飛びかかり、人を攻撃する賢さもある。大事な場面で活躍する、紅一点のような存在です。

 佐久夜さんを忘れたら怒られてしまいますね(笑)。ある資料に、江戸時代には底を固くした巾着にうずらを入れて持ち運べるよう訓練したと書かれていたんです。鳴き声を調べてみると、「御吉兆ーっ」だと。また、どなたかが飼われていたうずらが、名前を呼ばれると家の奥から、と、と、と……と飛ばずに歩いてくるのをネットで見たことがあって。「よし、今回の小説はうずらが相棒だ」と決めました。だから、有月と吉之助、それに佐久夜が毎回のお話に登場するメンバー。ひとつひとつの事件が、大きな陰謀を暴いていく流れにつながっていくんです。

――実際に、鳥を飼われたご経験はあるのですか。

 小学生のときに鳥小屋のうずらの世話をしたことがありますが、自分で飼ったことがあるのは文鳥やインコですね。小さい頃家の中でスズメを保護していたこともありますが、すごく懐きました。母親の膝の上で寝ていたこともありますし、窓を開けっぱなしにしても逃げず、兄と私で散歩に連れていくと、あとをついてきました。だから佐久夜を書くときも「これくらいのことはしそう」と。調べていくうちに、うずらは丸っこいからだで着地も下手なのに、長距離を渡るということも知りました。そういう、イメージを裏切るところもいいな、と思って(笑)。





――吉之助はいつも自分の運命を不思議に思っていますが、それは次兄が養子に行ったあと長兄が娘を遺して亡くなったことで、三男の彼が名主を継いで豪農になったから。いきなり回ってきた役目を懸命に務めているものの、昔も今も泣き虫という男です。剣の腕も立ち、見目麗しく頭も切れる有月ではなく、吉之助を語り手にされたのはなぜでしょうか。

「シャーロック・ホームズ」で言えば、吉之助はワトソンみたいな立場。身近な感じを出せるかなと思いました。私自身、上から目線の立場になった経験もないので(笑)。ただ、吉之助は泣き虫ですが、どんなに佐久夜につつかれても、事件解決のためにたびたび有月からおとりのように使われても、懲りないんです。それに彼は有月と再会したおかげで大名貸しになって、いろいろと口も利いてもらって……結構得していると思いますよ。
 一方で、村名主としてしっかり仕事をしている吉之助と違って、有月はある事情から大名の座をさっさとおりてしまった過去があります。有月と吉之助のふたりは対極にいるんです。

――吉之助たちが若い頃剣術を習っていたのは「皆、どこかの家へ養子に入ろうと、己に箔を付ける為」。道場には「武士、町人、百姓の、家を継げぬ者達が多く集まっていたので、それなりに居心地の良い場所であったと思う。同じ悩みを持つ者同士、腹を割って話した」とあります。つまり、吉之助だけでなく有月も「家を継げぬ者」で、将来の展望が見えなかった。それが十数年後に再会すると、各々の人生が大きく変わっていたのですね。

 家を継げない男は、養子先を見つけるか、自分の力で家を興さないと、嫁をもらうこともできない。生きるすべがわからず、希望も持てない。どんな身分でも、そういう状況が続くと精神的にきついですよね。能力のある人ほどだんだん鬱屈していって、何かやっちゃいそうというか……。今の感覚だと「二十代、三十代はまだまだ体力もあるし大丈夫!」と言いたくなりますが、当時は寿命が短かったし、病気で急に亡くなることも多かったので、それくらいの年齢でも焦りが強かったかもしれません。実際には、武士の身分を捨てて町人になったりして、それまでとは違う道を選ぶ人も多かったようです。男のきつさと女のきつさを考えてみると、今は仕事など重なる部分が多いけれど、当時はきっぱり違ったのでしょうね。

――有月は大名家の生まれですが、そこでも長男以外は冷遇されていたのでしょうか。

 そうですね。大きな藩なら万が一に備えて次男はそれなりに扱われたけれど、嫁を取ると跡取り問題がややこしくなるし、体面を保たなければならないからお金もかかる。それほどいい身分ではなかったと思います。有月が生まれたような小藩は財政が苦しいから、冷や飯食いは大変だったはず。ただ、いろいろあった結果の隠居という立場は、そう悪くなかったような気がします。

――それはどういう意味でしょうか。

 以前、柳沢吉保の孫、柳沢家のご隠居様の日記を読んだことがあるのですが、当主よりずっと自由なんです。当主は定期的に江戸城に出なければならないし、何かあったら藩がつぶれるかもしれないからと、家臣が自由にさせてくれない。でもご隠居になると、みんなでお芝居に行ったり、好きなようにほっつき歩いたり。もし何かやっちゃったとしても、藩主の行いとは幕府の扱いが違います。有月は若くて行動力があるから、いろんなことができたのではと想像が膨らみました。





――有月は武家らしい風格を身につけていますが、吉之助が差し入れる庶民的な甘藷飯(米を倹約するために芋で量を増やした飯)が好物というところなど、愛嬌もありますね。

 以前読んだ史料の中に、身分の高い方が姉上と茶飯をやりとりしていたことが書かれていたんです。そこから「今回は甘藷飯でもいいかな」と。昔、親が作ってくれた甘藷飯が塩味がきいて美味しかったのをふと思い出して「小説に出しちゃおう」と(笑)。

――畠中さんはデビューされてから十四年となりますが、作家として「十四年間でここは変わった」と感じていらっしゃることはありますか。

 史料を読む量はかなり増えましたね。デビュー当時は読み方がわからなかったし、何を読んだらいい のかもわからなかった。それを少しずつ覚えてきた気がします。作家になる前は漫画家だったのですが、最初は兼業だったのが小説の比重が大きくなって専業作家になりました。でも、本を出すペースはずっと、年に三冊くらい。あまり変わっていないんです。

――ご執筆のスタイルについて教えていただけますか。

 書くときはたいてい、目の前に古地図を貼っているんです。もともと地図は好きで、いろいろ持っていますが、執筆中の小説に合うものを見ながら「ここからこう行って」とか「こっちからこう逃げて」とか、考えています。他にも錦絵とか昔の挿絵とか、ビジュアルに特化した史料も好きでよく眺めています。書く際の助けにもなっています。

――『うずら大名』も新たにその仲間に加わりますが、畠中さんが送り出している数々の人気時代シリーズのアイディアはどんなふうにして生まれているのでしょうか?

 物語の細かい部分を決めるときは、歩くことが多いですね。暑いときは地下街にもぐって、大手町から銀座まで歩いたり。疲れたら近くの喫茶店に入って、忘れないようにメモをとるのが習慣です。歩くと血流が増すそうなので、いいアイディアが浮かぶと信じているんです(笑)。
「青春と読書」2015年10月号掲載
聞き手・構成=山本圭子






登場人物紹介

有月(ありつき)
見目麗しい播磨多々良木藩の大殿。側室の子ながら藩主を継ぐも、ある事情から三十路で若隠居となる。腰に提げた巾着に鶉の「佐久夜」を従え、江戸の不穏な噂を調べている。中屋敷での暮らしは質素で、甘藷飯が大のお気に入り。
佐久夜(さくや)
有月が手懐けた白い鶉。気性が荒く、何かを察知すると「御吉兆!」と威勢よく鳴く。辻斬りにも怯むことなく飛びかかる。
吉之助(きちのすけ)
東豊島村の豪農の名主。三男坊だったが次兄が養子へ出たあとに長兄が身罷り、結果的に高田家を継いだ。有月とは若い時分に通った不動下道場の同門。再会した有月に振り回され、事件に巻き込まれていく。大きな泣きぼくろは伊達ではない。

左源太(さげんた)
有月の御付人。強く真っ当な剣を得意とする。道場で吉之助と同門だったが、武家ながら当時も今も偉ぶった態度を決して見せない。
お奈々
吉之助の姪。齢十六歳で隣村の若名主との縁談が進んでいる。
山崎友衛
不動下道場師範。身分問わず剣を教えて養子縁組を開こうと努める。本人は男やもめで、道場裏で畑を耕し軍鶏を飼っている。

榎本
不動下道場師範代。剣の腕は立ったが養子の口には恵まれず、有月や同門が次々と道場を後にするなか師範代の道を選んだ。

著者紹介
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畠中 恵(はたけなか・めぐみ)

高知県生まれ、名古屋育ち。2001年『しゃばけ』で第13回日本ファンタジーノベル大賞を受賞してデビュー。病弱な若だんなと摩訶不思議な妖たちが様々な事件を解決する「しゃばけ」シリーズ、揉めごとの裁定をする町名主の跡取りが幼なじみとともに難問奇問に立ち向かう「まんまこと」シリーズ、古道具屋を営む姉弟と妖怪と化した道具たちが遭遇する事件を描いた「つくもがみ」シリーズなど著書多数。
撮影=山下みどり
ヘア&メイク=佐藤耕(&'s management)
スタイリスト=秋月洋子
衣裳協力=竺仙
【衣裳問い合わせ先】
〒103-0024 東京都中央区日本橋小舟町2-3
電話03-5202-0991




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