山本周五郎賞ご受賞、おめでとうございます。
ありがとうございます。
たまたまこの日程になったんですが、受賞決定の翌日にこうして対談をご一緒できるとは光栄の至りです。
この間、初めてお会いしたのは一月の末でしたよね。テレビ番組(『ナカイの窓』〈日本テレビ〉二月一七日放送)の収録でご一緒させていただいて。西村さん、石田衣良さん、山口恵以子さんらと、作家の生活を赤裸々に語る、みたいな番組でしたけど、収録以来、私はいろんな人に「西村さん大好き」ばかり言っていて……(笑)。
おや、うれしい。でも、それはまたどうして? ルックス?(笑)
西村さんって、トークですごく笑いをとっていても、それは自分のことでみんなを笑わせてくれているのであって、絶対に人の悪口とかは言わないじゃないですか。安易にウケ狙いとかはなさらない、本当にいいかただなと思って。
それ、失礼ながら大間違いですよ(笑)。僕ぐらい人間性の悪いやつはいないから。いやあ、しかし人様って、どう見てくれているか分からないものですなあ。ああいった場で、もの書き風情が何か面白いこと言おうと思って躍起になってる図ほど見苦しいものはねえから、極力置き物然として、当たりさわりのないニコニコ顔の擬態を通しているだけなんですがね。
拝見していて、やはり西村さんは私小説を書かれているから、自分の表現の仕方であったり、ここは守らなきゃというところが、キチンとされているのかなと思いました。それ以前に、西村さんの印象が私の中でビビっと上がったことがあるんです。何年か前、クイズ番組に西村さんが出られて、「湊かなえ」が正解の問題に、「湊かなえさん!」とお答えになったんですよ。さん付けで、しかも、西村さん、私のことを知ってくれているんだ! と。
そう言われれば、そんなこともあったような……ご覧になってたんですか。
はい。すごくうれしかったし、ああ、いいかたなんだな、と。丁寧に「さん」まで付けてくださって、と……。
大ベストセラー『告白』(〇八年、双葉社。現・双葉文庫)を書かれたかただから、知っていたのは当然というか……それに僕は、こう見えてわりと育ちがいいんでね(笑)、現存の尊敬するかたには「さん」付けです。むしろ僕のほうこそあの収録のときには、大変なミリオンセラー作家なのに、湊さんってどうしてこんなに腰が低いんだろう、と驚きました。初対面時のお言葉一つにしても心がこもっていて……さぞや根が苦労人にできてるかたなんだと感じ入りましたね。
あのトークの際に西村さんは、締め切りなんて守らなくてもいいんだみたいな話をされて、私はかなり生意気なことを言いましたよね。大人なので締め切りは守りましょう、みたいな(笑)。でも、西村さんが『野性時代』で連載している日記(「一私小説書きの日乗」。六月に同『遥道の章』が刊行。角川書店)を拝読すると、夜遅くまでかかって原稿を仕上げて、ちゃんとファックスで送って、すごくきっちり締め切りを守っていらっしゃる。ああ、失礼なことを言ってしまったなあと思って。
いやいや、湊さんは何ひとつ間違ったことは言ってません。それに僕、自分の小説中にも書いていることなんですが、基本的にはああいうテレビとかインタビューの場、つまり自作以外の場でいちいち本音は洩らしません。それほど耄碌はしてねえよ、というスタンスで。けど、事実原稿を送っている点に関してだけは、大抵は締め切り日を過ぎたあとのことですから。
えっ……。そうなんですか……。でも、この間は私の『望郷』(文春文庫)を読んだと日記に書いてくださっていたので、うれしかったです。あっ、読んでくださったんだって。
『野性時代』の、あの誰も読んでねえ日記にお目を通してくだすっているなんて……お忙しいのによくそんな暇ありますね。
だって、何か楽しいですもの。