ある日、某人気ミュージシャンが、「企業や番組とのタイアップのために書き下ろした楽曲のみが収録されているアルバムを発売した」というニュースを見つけた。そのとき、私の頭の中を、大変がめつい考えがぱらぱらと過(よぎ)った。
自分も、企業とのタイアップや他の作品とコラボして書いた文章を根こそぎ集めれば、一冊分になるのではないか……!? それを実現するのは、デビュー十周年のタイミングしかないのではないか……!?
後ろ暗い思考を駆け抜けていったがめつい座流星群は、その後も輝きを失わず、私の頭の中でちかちか光り続けた。その結果完成したのが、この本でございます。
ただ、先述したように、作品をそのままずらりとコレクションしただけではあまりに詐欺めいているので、それぞれ、【①どんな発注を受けて書いた作品なのかを提示(テーマ、枚数など)】→【②作品】→【③発注にどう応えたのか、答え合わせ】という順番で掲載すれば、全体の構造として(主に私が)より楽しめるのではないか、と考えた。この一冊を読み終えたころには、皆さまにも、タイアップ作品二十本ノックをやり終えた感覚を味わっていただけることだろう。そもそも味わいたいかどうかは別にして。
出版点数を重ねれば重ねるほど厳しい条件を突き付けられる機会が減り、「自由研究より、これについて調べろって言われたほうが楽かもぉ」なんて小学生の夏休みみたいなことを思うときがある。そうなると、複数の条件を提示されて「これで作品を書いてください」と言われると、ちょっと燃えてしまうのだ。特に、この本の中には、ウイスキー、たばこ、競馬、香水など、私の日々の暮らしに馴染(なじ)みのないアイテムがテーマになっている作品も多く収録されている。そうなると、自分から書き始めるような小説とは違い、これまで書いたことのないシーンや感情が生まれることも多く、単純に楽しい。私は、小説を書きながら、自分、自分、となりすぎてしまうきらいがあるので、フィクション度の高い作品に挑めるという意味で、タイアップやコラボというのは実はいいトレーニングになっていた実感がある。
また、自分から書き始めるような小説となると、私はなぜか「心地いい読後感」より「心ざわつくような違和感」みたいなものを目指して突っ走りたくなる衝動に駆られる。その点、タイアップやコラボをきっかけに書き始めた作品にはそういう気持ちが芽生えない。当然ながら、発注元も「心をざわつかせてほしい」なんて思っていない。そんな毛色の違いも楽しんでいただけたら幸いである。
ごちゃごちゃ書いたが、いろいろ書いたのにキャンペーン終了と共に葬られちゃうのはもったいない! という私のがめつさが生んだ一冊であることは間違いない。それでは、お楽しみくださいませ。