デビュー10周年記念インタビュー

早稲田大学在学中に『桐島、部活やめるってよ』で第二二回小説すばる新人賞を受賞し、二十歳で作家デビューした朝井リョウさん。
同作が二〇一〇年二月に刊行されてからきっかり一〇年の道のりを、ターニングポイントとなった作品と共に振り返る。
作家自身が発案したお祭り企画本『発注いただきました!』の全貌も、詳しく語ります。

取材・文┃吉田大助
撮影┃露木聡子

朝井リョウ全17作品紹介リスト

デビュー以来刊行された朝井さんの著作を一挙紹介!

一〇周年記念の最新作はお店目線で作られた福袋
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デビュー一〇周年、おめでとうございます。一〇年の間にはいろいろなターニングポイントがあったと思うのですが、やはり二〇一三年一月に『何者』で直木賞を戦後最年少受賞したことは大きな出来事でしたよね。

朝井

賞をいただいたタイミングが本当にラッキーだったなと思うんです。デビューしてまだ三年も経っていなかったので、直木賞に関して、そもそも自分が関係するものだと思っていなかったんですよね。候補にはなったとしても絶対に無理だと思っていたので、結果が出るまで逆に緊張することもなかった。これがもし数年後、もっと業界内のいろんな情報が耳に入ってからだったら、いろいろ考えちゃっていたんじゃないかと思うんですよ。自分の思考回路からすると、「賞を取るためには、次はこういう作風で書かなきゃ」ってやり方を絶対していた。そういう思考から救ってもらえたことは、ものすごくラッキーでした。三年目に『何者』で賞をいただけたからこそ、その後も自由に書くことができたと思うんです。

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一〇周年記念本の『発注いただきました!』なんて、まさに自由さの極みですもんね。「はじめに」に記されていますが、某人気ミュージシャンが「企業や番組とのタイアップのために書き下ろした楽曲のみが収録されているアルバムを発売した」というニュースに触れて、自分もやってみたくなった、と。

朝井

小説でも、企業とのタイアップや、他の方が書いた作品とのコラボみたいな企画モノの依頼はちょこちょこあるんです。先方から提示されたお題に対して、自分の中で何かしら引っかかる部分があるから依頼を引き受けているわけだし、お題に合わせるからこそ普段の自分からは出てこないものが出せたりする。でもそういう作品って、企画終了とともに葬られちゃうんですよね。一応毎回本気で挑んでいたので、その時限りで眠らせておくのはもったいないなあとずっと気にしていたら、タイアップ作品だけで原稿用紙換算四百枚以上になっていたんです。だから、福袋にして送り出すことにしました。「いっぱい入っていておトク」という顧客目線ではなく、「いっぱい集めて賑やかにパッケージすれば売り物になるじゃん★」というお店目線のがめついやつですが。

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全二〇本の小説やエッセイは、冒頭で「どんな発注を受けたか」が客観的な情報として提示され、作品掲載後に「感想戦」という名の超主観的な振り返りコメントが入ってくる。ものによっては大いに感動した後で、赤裸々な裏話を読んでゲラゲラ笑える。発明的な構成だと思います。

朝井

ただの詰め合わせでは面白くないので、全体を通したコンセプトは必要だなと思ってこの形式にしました。あと、苦労を分かってほしかったんです! たとえばJTさんとのタイアップの、【タバコが出てくる小説でメインテーマは「人生の相棒」、全四話】というものなんて、かなり頭を使ったんです。あと、花沢健吾さんの漫画『アイアムアヒーロー』のアンソロジー小説集で書いた、「十七歳の繭」という短編が個人的にとても気に入っているので、もっと多くの人に読んでいただきたくて‼

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『アイアムアヒーロー』は実写映画化もされたゾンビものの傑作ですが、なんと朝井さんの短編では肝心のゾンビが出てこない。「女子高生の比呂美には同級生の彼氏がいる」という、本編でちょっとだけ出てきた設定をクローズアップして、みずみずしい学園青春ものに仕上げているんですよね。

朝井

原作を読み込んで、作品に出てくるセリフやシーンの流れを小説の中に組み込めるよう工夫しました。執筆後、世界が壊れる前の比呂美の日常を、物語と齟齬(そご)をきたすことなく、ただオリジナリティも忘れないようにしつつ描けたという満足感があったんです。仕事果たしたぞ! みたいな。でも、その小説の感想をのぞいてみたら、『アイアムアヒーロー』のファンは別にそんな話を求めていなかったことが分かりました。ゾンビの話が読みたいんですよね。アンソロジーに参加されていた方々はもともとゾンビ映画などが好きな書き手が多かったらしく、私だけ浮いていました。当時は本当に申し訳ない気持ちになったのですが、ならば自分の読者にこの小説を読んでもらうしかないとも思いました。この短編をどうにかして読んでいただく手はないかなとずっと前から考えていた時間が、『発注いただきました!』の発想の根幹です。

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ちゃんと読者のことも考えている、我欲だけじゃないぞ、と(笑)。この本をデビュー版元である集英社から出すというのも、恩返し的な意味がありそうですよね?

朝井

売上によっては仇(あだ)になりますから、恩返しというよりは、こういう周年系のお祭り本の企画はまずデビュー版元に持っていくのが礼儀だろうという気持ちがありました。最後が「受賞」をテーマにした書き下ろし小説になったので、結果的に、小説すばる新人賞でデビューしてから一〇年、みたいなコンセプトとも重なって、良かったなと思っています。あとは売れるだけ! もともと集英社さんから一〇周年のタイミングで出すつもりだった、『照らす』というバレーボールを題材にした長編が止まってしまっているという遺恨もありますし、今回は様々な企業への許可取りという大変な作業を強いてしまったので、結果によってはいよいよ出禁になるかもしれません。今は、ひとまずこの本が形になって嬉しいです!

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ちなみに表紙のイラストで描かれている人物は朝井さん、ですよね?

朝井

今回みたいに大々的にふざけられる機会はなかなかないので、いっそ表紙でも冒険しようと。私、漫画家の美川べるのさんが大好きなんです。とにかく徹底してふざけた漫画を描いている方で、どの作品でもキャラクターがひどい状況に送り込まれて泣き叫んでいる姿が印象的なんですけど、その美川さんに「朝井リョウが机の前で阿鼻叫喚状態に陥っている姿を描いていただけませんか」と、編集さん経由でお願いをしたんです。今から急に一〇周年の話題に結びつけますけれども、一〇年書き続けてきて良かったなと思うのは、憧れていた人に会えたり、一緒にお仕事したりする機会をいただけること。美川さんが描いてくれた「発狂する朝井リョウ」のイラストを前に、私は今幸せを嚙み締めています。この本が赤字にならないことを祈っています。

一〇年振り返りトーク①
デビュー作と、第二作
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ここからは過去の作品について、執筆当時の心境や反響を中心に伺っていけたらと思います。まずはデビュー作『桐島、部活やめるってよ』ですが、高校生たちの青春群像劇ですね。小説すばる新人賞という長編の賞に、連作短編を応募した点で、鬼っ子っぷりを発揮しています。

朝井

生意気ですよね。岐阜にいた頃はあんなに作家になりたかったのに、東京に出て一人暮らしを始めたら大学生活に夢中で書くことをサボってしまったんですよね。もうすぐ二十歳になるというタイミングでようやくちゃんと書こうと思い直しまして、投稿するなら高校生の時に一度だけ一次選考を通過したことがある小説すばる新人賞かな、と。ただその時点で〆切まで二か月ちょっとだったので、まず高校の頃に書いた小説のデータを掘り起こしたんです。そこに〈沢島亜矢〉〈宮部実果〉の章の元になった短編があって、読んでみたら、悪くなかったんです。生意気その二。このふたりを同じ学校という設定にして、あと数人分書き足せば、賞に応募するための規定枚数には足りる! とひらめいてしまったんですね。だから〈菊池宏樹〉〈小泉風助〉〈前田涼也〉の章は書き足したものです。それらを全部繫(つな)げて「一本の長編です」と言い張りました。

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男子バレーボール部キャプテンの桐島が、突然退部してしまった。その「事件」が、各章の主人公たちの日常にさざ波を巻き起こしていく。高校生たちの心情や高校生活のディテールが、リアルですよね。登場人物の何人かに共通する「当事者か部外者か」あるいは「主観性と客観性」の対立は、その後も貫かれていく朝井作品の真髄ではないでしょうか。

朝井

昔から小説家になるのが夢だったので、体育祭とか文化祭でクラス中が舞い上がっている時も「ああ、このことをいつか小説で書くんだな」と、主観と客観を行き来してしまう癖がありました。だから逆に、思い切り主観の勢いのある文章を書くことが苦手です。デビュー作は男女どちらの視点からも書かれていることもあって、結局この中に自分の全てがあるなぁと感じます。この後は手を替え品を替え、「味噌を入れて豚汁にする? ルーを入れてカレーにする?」みたいなことをずっとやっているだけかもしれない。

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タイトルロールでありながら、桐島が回想の中でしか出てこないこと。それからやはり「桐島、部活やめるってよ」というタイトルは、発明的でした。

朝井

実はタイトルは最初からあったわけではなくて、本文の一行目だったんです。一話目は「え、ガチで?」というセリフから始まるんですが、その前に「桐島、部活やめるってよ」というセリフがもともとはあったんですね。原稿を全部書き終えて全体のタイトルをつけなきゃいけないとなった時に、冒頭のセリフを分離させて、もともとの本文一行目をタイトルにしたんです。特に狙ったわけでも、手応えがあったわけでもなかったので、映画化された時(※二〇一二年に吉田大八監督が実写化)に、みなさんがタイトル大喜利をしてくれるようになったのはとても意外かつ、嬉しかったです。私の文章の中で、「詠み人知らず」状態で残ってくれるものがあるとすれば、このタイトルなのかなと思います。残ってほしい。

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第二作『チア男子!!』は、大学一年生を中心に結成された、男子だけのチアリーディングチームの物語です。王道に振り切ったエンターテインメントですよね。デビュー作は純文学の香りも濃厚にあったと思うんですが。

朝井

二作目で思い切ったエンタメに挑戦したのは当時の担当編集さんのおかげなんです。どういう小説が好きなんですかと聞かれた時に、「『一瞬の風になれ』が大好きで、いつかああいう小説を書きたいんです」と話したら、「じゃあ二作目でやりましょう」と。大学の同級生たちが現役で頑張っている男子チアチームに取材できたことも良かったし、何より、執筆時、パソコンを開くのが楽しみだったんですよ。また彼らに会える、という感覚が確かにありました。ただ、映像をぱっと思い浮かべることができないスポーツを文章で書くのは本当に難しかった。バレーだったら「スパイクを打った」で映像が浮かびますが、「トップがスコーピオンをした」では何が何だか分からないですよね。全部説明しなきゃいけない。人数も多い競技なので、キャラクターの書き分けも必要になってくるんですが、言葉を増やすほどスポーツとしての臨場感は失われてしまう。スポーツ小説って王道というか、誰にとっても読みやすいものだと思っていたんですが、書くためにはものすごく筆力がいるんだなと身に染みて感じました。

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そもそもチアリーディングは女性のスポーツであり、それを男性がやるという時点で、肉体の差異が焦点化されている。デビュー作にも書き込まれていた「肉体がその人の個性や人生を決める」というテーマ性が、全面的に開花しているように感じます。近作にもダイレクトに繫がっている部分ではありませんか?

朝井

今年中に出す予定の長編は、まさに「この肉体で生まれたこと」を題材としています。ついこの間島本理生さんの『ファーストラヴ』の解説原稿を書いたばっかりなんですけど、そこでも「肉体と世界の関係性」についてずっと考えていました。みんな一応、同じ世界に生まれてきたわけじゃないですか。それなのに性格が違ったりするのはなんでだろうと考えたら、肉体が違うから、同じものを見ても摂取する情報が異なるということかなと思ったんです。そこから全ての違いが生まれてきているのではないかな、と。あと、私は小説で新しいキャラクターを出す時に、分かりやすいプロフィール的な情報はあんまり書かないんですよ。何度もリュックがずり落ちて、そのたびに掛け直す……みたいな描写をすることで「ああ、この人はなで肩なんだ」と思い浮かべてほしい。まず肉体的な存在を感じることが、その人のことを認識する大きな一歩なのかなと思っているんです。

一〇年振り返りトーク②
直木賞受賞作と最近作
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冒頭でも話に出た直木賞受賞作『何者』は、大学の就活生たちの群像劇です。

朝井

内定をいただいてから社会人一年目くらいの期間に書いた記憶があります。『桐島、部活やめるってよ』で、この感覚があるうちに高校生のことを書いておこう、と思ったのと似ていますね。『何者』にも作家としての自分の全てが詰まっていると思います。

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ここから朝井さんのダークさが完全解禁されていきますよね。人間の暗部を見つめる視線が鋭さを増している。読者は〈俺〉、拓人に視点を重ねながら読み進めるわけですが、ラストの展開なんて完全に読者に牙を剝(む)いていますよね。

朝井

最近は特に、読んでいる人に共感させておいて、最後に「もろとも死ね!」みたいな展開ばかりですが、それは『何者』を多くの方に読んでいただけたからというのも大きいです。手札はもうバレているのに今でもついやっちゃうので、もう性癖だと思います。「死ね! ワシも死ぬ!」ってやらないと、達せないというか。

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「死ね!」を言い換えるとすると(笑)、読み手の先入観や偏見、自分では当たり前だと思っていることを、引っ繰り返すってことだと思うんです。読み手が自分の思考の浅はかさに気が付いて、思考の膿(うみ)が出る。その瞬間が「ミステリー」のサプライズと結び付いているからこそ、痛みや驚きが増しているんですよね。

朝井

最終的にいつも自分に「死ね!」と言ってるんですよね。自分は社会の中にいるので、「死ね!」が社会にも届いた時に普遍性が宿って作品になるというか。ただ、小説の言葉に自分が縛られるという感覚を抱き始めたのもこの作品からです。「作品に書いていること=作家が考えていること」ではないんですけど、作品の中で「こういう生き方はダメ」「こういう生き方がいい」と言葉にしてしまったことで、結果的にそのことを自分は意識せざるを得なくなってしまった、というか。表現すること、もの作りのスタンスについて書かれていると読まれることも多いですし、この作品が第二のデビュー作というか、自分にとっての原点だという気持ちが強いです。

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その後は「ミステリー作家」としての本領発揮と言える『世にも奇妙な君物語』などを発表する一方で、AIを題材にした『ままならないから私とあなた』、「平成」という時代をテーマにした『死にがいを求めて生きているの』など、社会性の強いトピックをミステリーかつエンターテインメントに仕立て上げてきました。最近作は、昨年一〇月刊行の短編集『どうしても生きてる』。日本の目に見えない現実を捉える、「社会派」的な想像力が全開だったように思います。

朝井

世の中に何かを提示したいという思いはどんどん減っていて、「書きたくなっちゃった!」という感じなんですけど、逆にそうやって書いた方が社会性を帯びるのかもしれないですね。自分の中で気になっていることに言葉を当てはめたいという気持ちが強いです。言語化できてスッキリ快便! みたいなことを繰り返しているのですが、それに付き合わされる読者ってどんな気持ちなんだろう、という疑問があります。

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どの短編もダークですもんね。「健やかな論理」という短編のタイトルが象徴しているように、世間が共同幻想として持っている「健やか」さが軒並みぶち壊される。でも、「こういう生き方でもいいんじゃない?」と、心がほぐされる感覚もあるんですよ。読者からそういう感想って、結構届いてませんか?

朝井

『どうしても生きてる』に関していただく感想の手紙は、他の本と比べて、「私はこんな人間ですが、こんな私でも生きてはいくので」と、懺悔(ざんげ)しつつ前向きに宣言してくれるような内容のものが多いです。本って、その人の人生にとって読むべきタイミングがあると思うんですよ。届くべき人に、届くべきタイミングで見つけていただけたら嬉しいです。ただ、「暗い」という感想をいただくといつも驚きます。自分ではあまり暗いものを書いたつもりはないので、もともとの前提として、「暗い」と感じるアンテナが鈍いのかもしれないです。他人というか、自分も含めた人間という生き物に対してぜんぜん期待していないところが反映されているのかもしれません。だから、「重く刺さりました」みたいな感想もありがたいですが、今後はもっと「みんなこんなもんですよね~」みたいな感想が増えるのでは、と予想しています。

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例えば『発注いただきました!』のラストに入っている短編「贋作」は、朝井リョウ作品史上まれに見る真っ黒さだと感じたのですが、書いた当人はもしかして……。

朝井

真っ黒ではないです! 私は、映像的には何も変化がないけれど本人の中では大きな感情の揺れがある、みたいなラストが好きなのですが、それができた! と自画自賛しています。だけど、同じ物語なんだけれども、黒色だと思うか、青ぐらいだと思うか、水色ぐらいだと思うのか。その齟齬によって自分や相手のことが分かるというのは、小説というものの面白さでもありますよね。

一〇年を振り返っての結論
一一年目に向けた展望は?
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『発注いただきました!』は、約一〇年分の原稿が集まることで「朝井リョウらしさ」を理解できる楽しさもありました。そのうちの一つは、本文中にご自身でも告白されていますが、読後感。「心ざわつくような違和感」です。

朝井

企業から発注をいただいて書くものは、発注側も読者も、別に心をざわつかせてほしいとは思っていない。そうすると、いわゆる心温まるストーリーになるので、明るい作品集になっていますよね。今回昔の原稿を読み返して、「こういう読み心地、久しく書いてないかも!?」と思いました。今後はまた、『発注いただきました!』の短編とか、『チア男子!!』みたいな明るいエンターテインメントもきちんと書いていきたいです。引き出しを増やしたいです。

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でも、その時もきっと主人公は、いろいろなものの間で揺らいでいるんでしょうね。

朝井

去年の夏に、『生(き)のみ生(き)のままで』という小説を出されたタイミングで綿矢りささんと対談をさせてもらったんです。その時の綿矢さんの言葉で、ピンと来たことがありました。綿矢さんは、女の人の体を書く時はいろんな言葉が出てくるけど、男の人を書く時は「肩幅が広い」とか一辺倒なことばっかり書いてしまう、と。それは日頃から無意識のうちに、女の人の体のことを考えたり好んで見ていたりしていて、脳内でストレッチが済んでいるから、そのことについて書く時には自然と言葉が出てくるとおっしゃっていたんです。それって例えば、島本理生さんであれば恋愛、石田衣良さんは性、かもしれない。じゃあ自分にとって散々ストレッチが済んでいる場所はどこだろう、とずっと考えていたんです。小説を書こうという段になってからわざわざ考えなくても、常日頃から好きで考えているのってどんなことだろう、と。結論としては、やっぱり自分に対する「死ね!」的なものなのかもしれません。だから、もう白旗を上げようと思いました。それが自分の土だから、そこで育つ農作物しか採れないんです。その感情を、もっといろんな物語として完成させられるようにしたいです。

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それを聞いて、逆に期待感が高まりました。大長編になるとアナウンスされながら連載休止中のバレーボール小説『照らす』はきっと、『チア男子!!』のような明るさもありつつ、『何者』や『どうしても生きてる』のダークさも同居するものになるのではないか、と。

朝井

アナウンスだけしてまだぜんっぜん書けていないという最低な状況になっているので、全くどうなるかは分かりません。ただ、他の作家さんを見ていると、一〇年って大きな区切りではありますよね。例えば吉田修一さんが『悪人』を書いたのもそれくらい。みなさん、初期の作品からステップアップするような新しい引き出しを開けている印象があります。私も『桐島、部活やめるってよ』や『何者』で培ったやり方だけではこの先立ち行かなくなるので、苦手意識のある書き方に挑戦したり、いろいろ迷走を続けようと思います。

発注いただきました!

発注いただきました!朝井リョウ
定価 :1,600円(本体)+税
発売日:2020年3月5日発売
これがほんとの「お仕事」小説だ!
森永、JT、資生堂……。
様々な企業からの依頼に応えて書かれた小説&エッセイを一挙収録!
先方からの「お題」を捌いた朝井リョウの手腕とは!?
著者による振り返りコメントと併せてお届けする、いつもとは一味違う10周年記念作品集。

朝井リョウ全17作品紹介リスト
デビュー以来刊行された朝井さんの著作を一挙紹介!
  • 集英社文庫桐島、部活やめるってよ[当時20歳]
    単行本刊行:2010.2 文庫本刊行:2012.4
    第22回小説すばる新人賞受賞/2012年 映画化、漫画化
    高校生の等身大がここに。話題沸騰のデビュー作。
    バレー部キャプテンの桐島が部活をやめた。教室で、グラウンドで、体育館で、桐島を取り巻く五人の高校生の日常が重なり、物語を紡いでいく。十代の揺れ動く感性を写し取った、第22回小説すばる新人賞受賞作。
  • 集英社文庫チア男子!![当時21歳]
    単行本刊行:2010.10 文庫本刊行:2013.2
    第3回高校生が選ぶ天竜文学賞受賞/ 2016年 アニメ化、舞台化/2019年 映画化
    男子大学生×チア!? 個性溢れるメンバーが愛しい!
    幼い頃から続けてきた柔道に別れを告げた大学一年生の晴希。親友の一馬とともに、男子チアリーディング部「BREAKERS」(ブレイカーズ)を立ち上げることに……!? 笑いあり涙ありの青春スポーツ小説。
  • 角川文庫星やどりの声[当時22歳]
    単行本刊行:2011.10 文庫本刊行:2014.6
    六人きょうだいと母、そして亡き父。心温まる家族の物語。
    海の見える町で喫茶店「星やどり」を営む早坂家の面々。亡き父のビーフシチューを守りつつ暮らしていたが、家族の間に少しずつ変化が生まれて─。
  • 幻冬舎文庫もういちど生まれる[当時22歳]
    単行本刊行:2011.12 文庫本刊行:2014.4
    第147回直木賞候補
    いちばん自由で、いちばん窮屈。大学生たちが織りなす青春群像劇。
    恋、将来への不安、家族との関係─それぞれの悩みを抱えて日々を送る五人の大学生。もはや子どもではなく、一方で大人として胸を張ることもできない。若者の日常にひそむ輝きとひずみを切り取る連作短編集。
  • 集英社文庫少女は卒業しない[当時22歳]
    単行本刊行:2012.3 文庫本刊行:2015.2
    七人の少女、それぞれが抱える「別れ」とは。
    今日、わたしは「さよなら」をする─。他校との合併が決まり、校舎の取り壊しを翌日に控えたとある高校。最後の卒業式の日を、七人の女子生徒は何を想って迎えるのか。切なくも爽やかな読後感に満たされる一作。
  • 文春文庫時をかけるゆとり[当時23歳]
    単行本刊行:2012.6(刊行時『学生時代にやらなくてもいい20のこと』) 文庫本刊行:2014.12
    「現役大学生作家」の素顔。爆笑必至の初エッセイ集!
    大学生活、バイト、就活……。話題の若手作家も、一皮剝くといわゆる「ゆとり世代」! 軽妙な語り口と豊富な語彙で綴られるなんてことない日常に思わず口元が緩む。電車で読む際は注意。
  • 新潮文庫何者[当時23歳]
    単行本刊行:2012.11 文庫本刊行:2015.6
    第148回直木賞受賞/2016年 映画化/ 2017年 舞台化
    就活が浮き彫りにする大学生のリアル。第一四八回直木賞受賞作。
    助け合いながら就活を進める五人の大学生。次第にSNSの投稿や選考の過程から互いの本音が見え隠れするようになり─。読者の「自意識」をあぶりだす一作。
  • 集英社文庫世界地図の下書き[当時24歳]
    単行本刊行:2013.7 文庫本刊行:2016.6
    第29回坪田譲治文学賞受賞
    子どもたちの前に横たわる現実と、その先に灯る希望。
    両親を事故で亡くし、児童養護施設で暮らす小学生の太輔。施設を去る高校生の佐緒里のため、仲間たちと「蛍祭り」を復活させる作戦を立てはじめるが……。スタジオジブリのアニメーター・近藤勝也氏が手掛けた装画にも注目!
  • 講談社文庫スペードの3[当時24歳]
    単行本刊行:2014.3 文庫本刊行:2017.4
    社会人の女三人を真っ向から描いた、著者の新境地!
    ファンクラブのまとめ役という地位にしがみつく美知代。地味で冴えないむつ美。仕事が取れなくなりつつある女優のつかさ。それぞれに不満を抱えた三人の女の人生が交錯し、動き出す。
  • 文春文庫武道館[当時25歳]
    単行本刊行:2015.4 文庫本刊行:2018.3
    2016年 テレビドラマ化
    アイドルには、現代のあらゆる要素が詰まっている。
    女性アイドルグループ「NEXT YOU」。憧れの武道館ライブを目指して努力を重ねる彼女たちだったが、人気上昇と共に周囲から向けられる視線も変わってきて─。2016年のテレビドラマ化も話題に。
  • 講談社文庫世にも奇妙な君物語[当時26歳]
    単行本刊行:2015.11 文庫本刊行:2018.11
    「世にも奇妙な物語」への愛が溢れた、ドラマ化「希望」作品!
    テレビドラマ「世にも奇妙な物語」の大ファンである朝井さんが、映像化を夢見て綴った五編を収録。本家ドラマに負けず劣らず、毒っ気とユーモアに満ちた奇妙な短編集。
  • 文春文庫ままならないから私とあなた[当時26歳]
    単行本刊行:2016.4 文庫本刊行:2019.4
    あなたの価値観は本当に「正しい」? 読者を根底から揺さぶる二編。
    天才少女として脚光を浴びてきた薫と、彼女の友達・雪子。何よりも効率を重んじる薫に対し、雪子は違和感を覚える。異なる価値観を抱えた二人が行き着く先とは?
  • 新潮文庫何様[当時27歳]
    単行本刊行:2016.8 文庫本刊行:2019.6
    就活のその先には何がある? 『何者』のアナザーストーリー。
    光太郎はなぜ出版社に? 理香と隆良の出会いは? 拓人を落とした面接官の今は? 登場人物たちの前日譚はもちろん、就活の枠を超えて広がる『何者』の世界に注目。
  • 文藝春秋風と共にゆとりぬ[当時28歳]
    単行本刊行:2017.6
    目指すはさくらももこ先生! 待望のエッセイ第二弾!
    大ボリュームで送る「ゆとり」エッセイ第二弾! vsレンタル彼氏、結婚式での渾身の余興、著者の肛門事情……。ひたすらに笑いたいとき、元気を出したいとき、ぜひ本書をお手に。
  • 中央公論新社死にがいを求めて生きているの[当時29歳]
    単行本刊行:2019.3
    「平成」という時代を生きるということ。
    著名作家競作「螺旋」プロジェクトの「平成」枠を担う本作。意識のないまま眠る智也と、彼を見守る雄介。一見対極にあるように思える二人は、どんな人生を歩んできたのか。息苦しさの中を生きる、平成の若者たちの姿を浮かび上がらせた長編。
  • 幻冬舎どうしても生きてる[当時30歳]
    単行本刊行:2019.10
    歩き続けるしかない。現代人の声なき声を掬い取る短編集。
    死んでしまいたい、と思うとき、そこに明確な理由はない─。私たちが抱えるもやもやとした思い、ふとした時に脳裏を掠めた感覚が言葉となって、ここに。現代人にそっと寄り添う六つの物語。
  • 集英社文庫発注いただきました![現在30歳]
    単行本刊行予定:2020.3
    「○○な小説をお願いします!」著者のもとに舞い込んだ二十の依頼!
    デビュー以来書き溜めてきた企業タイアップ小説二十編を一挙収録! 企業からの「お題」を捌いた作家・朝井リョウの手腕とは……!? 著者コメントとあわせて、いつもとは一味違う作品群をお楽しみあれ。

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