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中学一年生のあさぎは、母の再婚と私立中学への入学を機に新しい町に越してきた。新しい家族にも新しい学校にも馴染めない彼女の心の拠り所は、近所の郵便局に勤める青年、中村さんだった。 |
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――だから私は、中村さんのその「にこっ」という個人的な笑顔を見に郵便局に通うのを、誰にも秘密の、ささやかな楽しみにするようになっていた。 |
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母の再婚相手・冬木が赴任先から帰国し、一緒に暮らすようになるが、お互いに無口なためコミュニケーションが巧くとれない。また本来クッション役になるはずの母が妊娠し、つわりがひどくて寝込んでいる。 |
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一方、中村は周囲が普通にできることを巧くこなせず、上司が変わり民営化が進む郵便局で、ますます仕事に行き詰まり、漠然と死を意識するようになっていた。 |