南海の翼 長宗我部元親正伝翼/天野純希
南海の翼 長宗我部元親正伝翼/天野純希
作品紹介 著者コメント 書評 四国取材同行記
南海の翼
南海の翼 天野 純希 著 11月26日刊行 定価1,700円(本体)+税
あらすじ
時は十六世紀、戦国の世。辺境の地、土佐国。
渡来系の秦氏を祖に持つ名家・長宗我部家の三家老の一つ、久武(ひさたけ)家の二男・親直(ちかなお)は、新しい主君である長宗我部家二十一代目当主・元親のもとへ初出仕の日を迎える。
初対面の主君は、ちまたで<姫若子(ひめわこ)>と呼ばれるのも頷ける、女子のような容貌をしていた。
初子の誕生に浮かれ騒いだり、槍の扱い方も知らぬまま初陣に臨んだりと、一族の長、武者らしくない行動に戸惑いを覚えつつも、他家を滅ぼし、版図を拡げ四国統一へ向かう元親をそばで支えていく。
やがて土佐の出来人と呼ばれ、四国の覇者となる元親も、息子や臣下たちとの軋轢に加え、信長、秀吉、家康との交流と決裂の中、一家の存亡の危機と己の器量の狭間で、深い懊悩を抱えていく。
16世紀四国地図
16世紀四国地図(クリックで拡大)
(制作:テラエンジン)
本文立ち読み
序章 敗者たち 再び父の顔が浮かび、盛親は唇を噛む。家中の分裂は、全て晩年の父の行いが原因だった。
込み上げ苦い思いを振り払うように、馬上から声をかける。
「さあ、皆で土佐へ帰ろう」
第一章 鬼若子 妻と子の顔を、まともに見ることができない。自分の父が、策とも言えない下劣な手段で城を落としたと知ればどう思うだろうか。
第二章 鳥無き島 土佐一国の太守。それば、自分の器に見合っている。そう頭ではわかっていても、喉に小骨が刺さったような違和感がある。それで満足なのかと、心の片隅でもうひとりの自分が囁く。
第三章 父と子 土佐が貧しいから、この者たちは戦を望む。もしも四国を制したとしても、豊かになれなければ、四国の外にまでさらなる戦いを求めなければならない。際限なく、戦は繰り返されるだろう。
第四章 夢の終わり 夢は近づけば近づくほど汚れていく。叶ってしまった夢など、ただの骸にすぎない。そんなものを千佐にだけは見せたくなかった。
第五章 狂宴 なぜだろう。考えながら、手を伸ばす。よほど恐ろしい目に遭ったのだろう、ふたりの顔は恐怖に歪んでいた。目を閉じさせようとしたが、目蓋は固く開いたままで、すぐに諦めた。
終章 夢の続き 「ここまでだな」
家康、秀忠どころか、高虎の首にも届かなかった。それでも、勝利は手にした。
後は生きて帰るだけだ。と言っても、それが最も難しいのだが。
登場人物紹介
主要登場人物
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著者コメント
 長宗我部元親という人にはたくさんのあだ名があります。「姫若子」「鬼若子(おにわこ)」「土佐の出来人」「鳥無き島の蝙蝠」などなど。最近では「アニキ」というのも加わったようですね。
 しかし、そのどれもが彼の一面を表したものにすぎません。戦場で勇猛さを見せたかと思えば、敵の城を落とすためにアレをナニしてしまう(ネタバレになるのでご勘弁を)というえげつない策を使う。家来や領民思いの名君から、血の粛清を繰り返す暴君へと豹変する。そんなブレまくりの人生です。
 この物語の元親は、いわゆる“英雄豪傑”ではありません。何かにつけて思い悩んだり、いきなりキレたり、奥さんに叱られたりもします。
 そんな人間臭い主人公ですが、読みながら共感したり、突っ込みを入れたりしつつ愉しんでいただければ幸いです。
プロフィール
天野 純希(あまの・すみき)
1979年愛知県生まれ。2007年『桃山ビート・トライブ』で第20回小説すばる新人賞を受賞。桃山時代を舞台に、体制に抗って音楽に打ち込む若者たちの姿をパワフルに描いて注目を集める。
著書に『桃山ビート・トライブ』『青嵐の譜』。
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