『カウントダウンノベルズ』豊島ミホ
定価:1,300円(本体)+税 5月26日発売
豊島ミホさんの新作が刊行されました。
今回の舞台はなんとJ-POPシーン!
音楽業界の中でも一番大きなマーケット、かつ、一番華やかなジャンルです。
豊島さんが描いたのは、音楽そのものではなく、J-POPのTOP10アーティストたち。もちろん小説なので、すべて架空の人物です。
とはいえ、登場人物の気持ちも行動もとてもリアル。
驚いたことに、執筆のための取材は全くされなかったとか。
豊島さんは、中学3年生の頃から今に至るまでJ-POPを聴き込んでいるだけに、音楽シーンを賑わせた数多くのミュージシャンあるいはアイドルの姿が、脳裏にしっかりと焼きついているのでしょう。
トップを走り続ける歌姫の、はりつめた気持ち。
時期女王とされるNo.2アイドルの、無敵の輝き。
人気バンドが直面する、人間関係の危機。
・・・・・・etc.
読めばきっと「ああ、分かる分かる」と、(知らないし経験もないのに)思ってしまうことでしょう。
でも、この短編集の凄さは、そんなものじゃありません。
なんと! ランキングの順位が下がっていくほど、物語がさらに深く豊かになっていくのです!!
例えば、5位の人気女子アイドルグループ「シュガフル」。メンバーの一人である主人公が、一番人気のメンバーを見て思うこと。これが単なる「嫉妬」だと、当たり前だしつまらない。豊島さんは、もっとキラキラしたものを見せてくれます。
そして、8位のアコースティック男性デュオ「ウィンド・オア・ソングス」。声も人気もすでにピークが過ぎていて哀しいのですが、待っている人のために歌おうとするベテランならではの強さが、ちょっと涙を誘ったりするのです。
他にも、事務所から見離されたバンドがいて、これから世に出る新人がいて――。
現実のチャートでもそうですが、TOP10にランクインする人間は、何がしかの才能(運も含む)に恵まれています。でも、「今」が永遠につづくわけではないし、才能に差がないわけでもない。
ああ、才能がものをいう世界の、何とシビアなことか。
そう、『カウントダウンノベルズ』は「才能」をめぐる物語なのです。
これは、豊島さんが宣伝用POPに書いてくれたメッセージです。この優しさがあるからこそ、勝者がいて敗者もいる10編が揃ったのだと思います。
「人生に勝ち負けはないって思えたら
幸せかもしれない。
でも、敗者の涙も、勝者の涙も、
私は好きです。」
(編集H)