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終わりは始まり

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『終わりは始まり』中村航&フジモトマサル

定価:1,000円(本体)+税 5月26日発売

『終わりは始まり』刊行記念スペシャルトーク

回文、このすばらしき世界。

中村航&フジモトマサル

――さっそくですが、「中村航コラムかなfeat.マサルサマ」あらため『終わりは始まり』は、読者が応募してきた回文をもとにフジモトさんがイラストを描き、それらをもとに中村さんがショートストーリーを作り出す三層構造になっています。この仕組みはどうやって生まれたのですか?

中村 そもそも僕がフジモトさんの本を貰ったとき、この話は始まったのかな。

フジモト 中村さんと知り合った後に『ダンスがすんだ』(新潮社)という回文本を作ったので献本したんです。

中村 へー回文か、と思った僕は、自分でも回文を考えてみた。そして出来た人生初回文が『中村航コラムかな(なかむらこうこらむかな)』。これはもう、そのタイトルでコラムの連載をするしかないと思った(笑)。運命だと思った。

フジモト すぐ大風呂敷を広げるんですよ、この人は。

中村 そんなことを自分のBLOGに書いてたんです。そしたら読者から自作の回文が送られてくるようになって、これが結構面白かった。回文ってのは、時にもの凄い状況が描かれる。例えば『陛下とメタルやるため都会へ(へいかとめたるやるためとかいへ)』って回文。陛下とメタルやるって、そんな状況は普通思いつかないですよね。その光景を思い浮かべると可笑しい。  だから回文ってのはイラストと相性がいいな、って思ったんです。絵と回文だけで可笑しい。それから「陛下とメタルやるため都会へ行こうとしてる人」って、めちゃめちゃ気になりますよね。何考えてんだろう、その人はって。つまり回文には光景と同時に物語がある。

フジモト この回文については「陛下と一緒に都会へ行く派」と「都会で陛下と落ち合う派」に分かれて、激論が交わされました。

中村 そう。メタルがジャーマンメタルなのかデスメタルなのか、という議論も熱かった(笑)。ともあれ「回文、イラスト、物語」の宿命的トライアングルで、この連載は始まった。僕はフジモトさんと連載するため、小すばにやってきたわけです。

――まさに運命、まさに宿命ですね。ところで、三者によるコラボレーションならではの面白さ、難しさはどこにありましたか?

中村 最初にフジモトさんが回文に絵をつけるんだけど、僕にとっては「フジモトさんがどんな絵を描くのかわからない」というのが、最高にエキサイティングだった。毎回、何を書けるという保証も自信も全くなにもない、明日なき道だった。だけど毎回、回文と絵が送られてくるたび、爆笑してました。月に一回、謎の文章と謎の絵がファックスされてくる。

フジモト 読者、フジモト、中村の三者では中村さんのハードルが一番高いでしょうね。「鶏肉と大根があるからこれで何かおいしいもの作ってみろ」みたいな。ときには「ミョウガとレンコンでデザートを作れ」っていうぐらい難しかったと思います。

中村 いや、ミョウガとレンコンでデザートを作るのは無理(笑)。だけどフジモトさんの絵には、必ずどこかに物語があった。例えば登場人物の目つきとか、口元とか、そういうところにも、そこはかとなく物語の種があったりする。

フジモト まいたんですよ!種を。

中村 物語は全編を通じて、統一的な雰囲気があるし、大河みたいに繋がっていく話もある。だけど我々の間で打合せしたことは殆どなくて、つまり何というか、「わかってますか?」「もちろんわかってますよ」的な、サッカーで言う、スペースへのパスが何本も飛び交ったんだと思う。スペースにパスして、相手を走らせる。そこに予定調和の馴れ合いはない!死して屍拾う者もない!

――お互いを信頼しているからこそ可能なプレイだったわけですね。では、もう一人のプレイヤーである読者からの応募回文を選ぶ時には、何がポイントになりましたか?

中村 読者の皆さまからいただいた回文は、回を追うごとに優秀になっていきました。今はもう、本当に凄い。回文ってのは、これすなわち回転芸術。何をもって優秀とするかは難しいんだけど、面白い回文には似た特徴があったと思う。

フジモト 有名な回文に『品川に今住む住まい庭が無し』っていうものがあります。これは非常によくできていると思います。けど想像力はあまりかき立てられない。きれいにできすぎていて破綻がないと、感心するばかりで終わってしまうんですよね。

中村 つまり『タケヤブ焼けた』なんかもそうかもしれないけど、普通の文章に見えるのに、下からも読めるというもの。見事なんですけど、完結してしまっていて、イラストや物語は要らない。他に例と言えば……。

フジモト 『高い大家の絵の買いたいかた』(フジモト作)。これもどっちかというと、つるっと読めてしまう回文ですね。きれいにできたんだけど、普通の文章みたいで、ひっかかりがない。

中村 ああ、なるほど。これはこれで回文の魅力なんだけど、採用されてきたのはもう少しワンダーのある回文。光景を想像するとシュールであったり、何らかのサプライズやカオスがあったりする。

フジモト 『マカオに密輸、積み荷オカマ?』(フジモト作)。これは回文にするために無理矢理こしらえた文章です。

中村 そう、こういうの。積み荷のオカマを密輸するというこのカオス。逆さに読めるように作る、というしばりが、通常ではこの世に現れない文章を生むんです。回文ってのは基本的に、本来この世に現れない文章なんですよ。

――装幀や本文デザインを名久井直子さんが担当されていますよね。お二人と名久井さんのタッグによって、連載時の要素が大胆に再編集&レイアウトされ、物語の“見え方”が大きく変化しているように感じました。

中村 一番大きいのは、「ページをめくる」という本ならではのダイナミクスを利用して、回文とイラストを見せていることでしょうかね。箱を開けると、手紙と一緒にまた小さな箱が入っている。手紙を読んでから、またわくわくしながら箱を開ける感じ。こういう本ってあまりないと思います。

フジモト もうね、超ダイナミクスですよ(よくわかってない)。表紙には二人の名前しか書いてないことが不自然なぐらい、名久井さんは第三のメンバーとして、かなりアイディア出しをしてくれました。

中村 あと27編を並べ替えて、細かい仕掛けをそこここに凝らしました。濃いですよ、この本は。

フジモト かなりみっちり練り直しました。納豆で言うと千回混ぜたぐらい。

――それは……かなりみっちりですね。確かに、夢遊病気味のマレーバク「マレー・次郎」やさすらいのギタリスト「ネコ・ヤマザキ」などたくさんのキャラが物語に登場しますが、彼らの趣味嗜好や裏設定がさりげなく用意されていて、読者をとことん楽しませてくれます。

中村 フジモトさんが描いたキャラクターに、僕が名前とか設定とか付けちゃうわけですけど、そういうのってどうなんですか?何かイメージ違ったりしたんじゃないのかな?

フジモト 名前もストーリーも、毎回「こう来るのか」と、意表を突かれました。自分じゃ思いつかない展開を書いてくれないと、人と一緒に組む意味はありませんよ。

中村 僕も自分の中から出てくるものに驚いたりした。やっぱり普段書いている小説とは、全然違うものが出てくる。それはフジモトさんの絵に引き出されているんですよ。

フジモト 僕の絵は投稿回文から引き出されているわけで、すべての道は回文から始まっているのです。今回の単行本では、さらにかきおろしイラストも、細かくたっぷり、刻みネギのように入っていますので、お買い得です。あと、装幀もじっくり見てください。カバーをはずして眺めることもお忘れなく。

中村 最初から最後まで、読み応え、見応えあると思います。全編読んだあとに、キャラクター紹介で新事実発覚!というより、キャラクター紹介にしか出てこない人物もいる(笑)。本のデザインも素晴らしい。価格もこの物価高の進むなか、頑張って下げた。みんな、よかったらぜひ、手にとって下さい!

――ありがとうございました。言葉と絵が織りなす魅惑の回文ワールドが広がる『終わりは始まり』。ぜひ手にとって、その悦びをとくとご堪能あれ! (「小説すばる」2008年6月号より)

☆「終わりは始まりII」が、現在こちらで好評連載中!

さらにバージョンアップしたスタイルで見せる回文連載、お二人のコメントの掛け合いが爆笑を誘い、巷で話題になっています。
回文の投稿もお待ちしております!

●ワタナベ刑事
回文刑事(デカ)の異名をもつベテラン捜査員。廃墟煉瓦型の性格で、自分は孤独だと思いこむ癖がある。捜査員としては優秀だが、最近、私用電話が多い。B型。

●ネコ・ヤマザキ
「おいらは土管で生まれた」、「今夜もマタタビふかすぜ」など、あくまで自分はネコだと主張する言動が特徴的。昨年秋にレコードデビューを果たす。自費でカナダツアーを敢行。自分のファンを、ニャンコちゃんたちと呼ぶ。

●マレー・次郎
本業は博物館員。ベジタリアン。深夜の散歩が趣味なのだが、ときどき自分でも理解できない場所で眠っており、夢遊病の一種ではないかと悩んでいる。趣味は切手集めと、水泳。

●間山秀男
世界に比類なき記憶力を誇る老人。長き人生において、その能力を有用なことに活かすことはなかったが、ひょんなことから後世に名を残すことになる。好きな言葉はベータ・マックス。

「キャラクター紹介」より抜粋


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