『河/1』小田実
定価:4,000円(本体)+税 6月7日発売
小田実って知っていますか? このwebをご覧のみなさんにはあんまりなじみのない名前かもしれません。 でも、もし機会があったら、50歳以上の方に「小田実さんって知ってる?」と尋ねてみてください。間違いなく全員が「知ってるよ」と答えてくれるはずです。 小田さんは、そのくらい有名で、輝かしい存在でした。 「でした」というのは、残念ながら小田さんは、去年の7月末にガンで亡くなってしまったからです。
その小田さんが死の直前まで、完成を目指して執筆を続けられた小説が、この『河』です。『河』は小田さんの遺作となってしまいました。 小田さんが最初に世間の注目をあびたのは、1961年に発表された『何でも見てやろう』という旅行記です。まだ、ほとんどの日本人が海外へ行ったことのなかった時代に、まだ20代の若者が、アメリカからスタートして、メキシコ、ヨーロッパ、中近東、アジアと旅を歩きまわった経験を綴ったこの旅行記は、大ベストセラーになりました。今だったら流行語大賞間違いなしというくらい、当時の日本人に刺激と自信(われわれだって世界を闊歩できるんだという思い)を与えてくれたのです。
その後、数々の小説や評論を発表するかたわら、いわゆる「行動する作家」の代表として、小田さんは様々な市民運動にも関わっていきます。その業績は、このスペースではとても書ききることはできないほど大きく多岐にわたります。
そんな輝かしい存在だった小田さんが、死の直前まで心血を注いで執筆を続けたのが、この『河』という小説です。 舞台は1920年代の中国。当時、アジアは欧米、そして日本の支配に苦しんでいました。そこから自立するための革命を求める動きが、とりわけ中国で大きくなっていました。 朝鮮人の父と日本人の母を持つ少年・重夫は、朝鮮独立の運動に身を投じた父の姿を求めながら、中国へと渡ります。そこで、革命に関わる様々な人々と知り合い、「闘うことの意味」「自立することの大切さ」「自由の意義」を学んでいきます。
こんなふうに紹介すると、なんだか固っ苦しい本だな、と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
これは、少年・重夫の「何でも見てやろう」なのです。
抑圧された状況の下で、人々が何を考え、何を信じ、何を夢見て生きていたのかを、重夫とともに知ること、感じること、それはみなさんに、こころのなかからわきあがる「力」を与えてくれます。
ぶ厚い本ですが、おそれずに手に取ってみてください。そこに描かれる未知の世界に、きっと夢中になってしまうはずです。
(編集H)