『トイレのポツポツ』原宏一
定価:1,200円(本体)+税 2月26日発売
「レンザブロー」から生まれる初の小説本として、まさにトップを飾るにふさわしい力作の登場です!
不勉強ながら、原宏一さんをデビュー当時から存じ上げていたわけではありません。原さん作品に触れたのは、大変遅ればせながらで、啓文堂おすすめ文庫大賞に選ばれベストセラーとなっている『床下仙人』(祥伝社文庫)からでした。仕事や人間関係にくたびれていたり、日常に倦んでいるごく普通の人たちに訪れるちょっとした奇跡。
ありえない、けれどあるかもしれない、と思わせる現実と奇想天外世界までのグレーゾーンのような世界観に一気に引き込まれ、「このような作品、作家の存在を知らなかったとは!」と、絶版状態となっている既刊本を探し出して読み漁りました。
『穴』『ムボガ』『こたつ』『姥捨てバス』『天下り酒場』etc。
いかにも一筋縄ではいかないのがタイトルだけで伝わってきますよね?
いずれも、独特の風刺とユーモアが散りばめられる語り口と切り口の原さんワールドが広がっており、「これが読めないのはもったいなさ過ぎる!」ということで、ありがたくも集英社文庫にいただけたのが『ムボガ』『かつどん協議会』(好評発売中)『極楽カンパニー』(09年7月刊行予定)の3冊です。
さて、本作は、中堅食品会社を舞台に6篇の物語で綴られる連作小説です。
「こんな熱血上司……ちょっと引いちゃうよなあ」と思うのですが、実は彼は! とか、
「仕事をなんと心得る? この派遣女性ったら」と思うのですが、実は彼女は! など、ささやかな日常を懸命に生きる人々のグラデーションが―――明暗含めて―――描かれます。人は一面では語れないということにあらためて気づかされ、原さんの人物描写力の奥行きに膝を打ち、またその視線の優しさに胸打たれるのでした。
一話完結でも十分読み応えのある連作ですが、それだけではありません。
6篇をつなげる「あること」で、さらに長編としても堪能できるという、連作長編ここに極まれり、という味わいをたたえた作品となりました。
この傑作を読んだら、原さんの既刊本をあさりたくなるはず。
そのときは、集英社文庫もお忘れなく~~。
(編集K)