『たぶらかし』安田依央
定価:1,300円(本体)+税 2月4日発売
対談 荻原浩×安田依央
市井の人の「代役」を演ずる役者がヒロインの作品『たぶらかし』で第23回小説すばる新人賞を受賞した安田依央(やすだ・いお)さん。
かつて「レンタル家族」を題材にした作品を発表されたこともある荻原浩さん(第10回小説すばる新人賞受賞)と、デビュー作についてそしてこれからについて、語っていただきました。
「自分」という壁を突き抜ける
小説を書いているうちに知らない自分が出てくる
デビュー作のタイトルは大切に
(構成・増子信一/撮影・中野義樹)
※この対談の初出は、「青春と読書」2011年2月号です。
荻原浩(おぎわら・ひろし)●1956年埼玉県生まれ。『オロロ畑でつかまえて』で第10回小説すばる新人賞、『明日の記憶』で第18回山本周五郎賞を受賞。著書は『さよならバースディ』『千年樹』『砂の王国』など多数。現在、小説すばるに『オロロ畑につかまえて』『なかよし小鳩組』の続編となる「花のさくら通り」を連載中。
安田依央(やすだ・いお)●1966年大阪府生まれ。『たぶらかし』で第23回小説すばる新人賞を受賞。(第18回、第22回でも最終候補に)ミュージシャン、司法書士、NPO法人主宰など、さまざまな「顔」を持つ。
人生の中ですれ違うさまざまな人々。
たとえば子どもの同級生のお母さん、たとえば甥っ子の結婚相手、
たとえばテレビでみる不祥事で謝罪する大企業の役員。
その人たちが、実は雇われた「役者」だったとしたら……?
そんなスリリングな物語が、この第23回小説すばる新人賞受賞作『たぶらかし』です。
舞台女優の夢破れた39歳のマキは、今はとある事務所に所属し、
市井の人々の中で、誰かの「代役」を演じています。
多忙なセレブ社長に代わり彼女の夫と息子とともにお受験にのぞんだり、
夫の親戚との付き合いを拒否する新妻に代わりにこやかに挨拶回りをしたり、
果てはワケあり葬儀の「死体役」まで!
仰天シチュエーションの連続ですが、とはいえ、読みすすめているうちに、
「はて、では現実の、自分の周りの人たちは、本当に皆本物なのか!?」といった
奇妙な気分にも陥ります。また、自分だって他人と接するとき、
「こういう人間だと思われたい」と、相手に合わせて
多かれ少なかれ「演じている」ところがあるのではないか……?
思わず我が身を振り返ってしまったりもします。
突飛なようでいて、実はとてもリアルな小説なのかもしれません。
(編集I)