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担当編集のテマエミソ新刊案内

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鉄拳

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『鉄拳 the dark history of mishima』
著者:矢野隆
監修:バンダイナムコゲームス

定価:819円(本体)+税 8月26日発売

【インタビュー】著者・矢野隆さん
「鉄拳」の世界の、キャラクターたちの「情念」に惹かれています

――今回、「鉄拳」のノベライズを手がけられたきっかけを教えてください。

矢野 ファミコンの頃からゲームが好きで、格闘ゲームもゲーセンに入り浸るほどやっていました。デビューの時からそれを知っていた編集さん経由で「ノベライズをやらないか」というお話をいただき、「是非やりたい」とお答えしたのが始まりです。

 「鉄拳」は、18~19歳のころ、プレイステーションでシリーズの1からやっていました。(編集部注・現在「鉄拳」はシリーズ6まで発売)シリーズ3ぐらいでゲームの中で歴史が大きく動いて、ストーリーそのものに興味を持つようになりました。主人公が異様に「悪」だったのが斬新で。面白いことやってんなーと。シリーズを重ねていくごとに、一八(カズヤ)が主人公になったり、平八(ヘイハチ)が主人公になったり、という展開も面白く感じましたね。

――矢野さんにとって、ゲーム「鉄拳」の魅力は?

矢野 一言でいえば「情念」ですね。

 それまでの格闘ゲームのキャラクター達は、戦う衝動や動機といったものがそこまでクローズアップされていませんでした。プレーヤーの分身として戦う"格闘ゲーム"というジャンルの中で、キャラクターの情念自体が表に出る必要性はあまりないのですが、「鉄拳」というゲームでは、画面の中の格闘家たちにしっかりとしたモチベーションがあるんです。そこが新鮮でした。

 だから「鉄拳」をやるとき、僕は使いやすいキャラというよりも、人間性やルックスで使用キャラを選んでしまうんです。他の格闘ゲームが、僕自身が画面の中で闘っている感じなら、「鉄拳」はキャラクターの背中に僕が乗せてもらっている感じですね……伝わってるでしょうか?(笑)

――数多くのキャラクターやエピソードのある「鉄拳」の中で、今回の『鉄拳 the dark history of mishima』では、三島一族の歴史に着目されてオリジナルストーリーを作られたのはなぜでしょうか。バンダイナムコゲームス側からのリクエストなどはありましたか?

矢野 先ほどの質問とも関連してくるのですが、「鉄拳」というゲームのキャラクターは情念を持っている。その中でも一番強い情念を持つ男たちが、三島家の面々なんです。彼らの相剋と闘争の歴史こそが、まさしく「鉄拳」だといっても良い。だからこそ、自分で書かせていただくのであれば、三島一族を中心に据えるということ以外、他の選択肢は考えられませんでした。

――今回初めて、既存のキャラクターを使って小説を書かれたわけですが、難しいと感じるところ、面白いと感じるところはそれぞれどんなところでしたか。

矢野 自分の小説であれば、編集さんと話し合いながら作っていくとしても、自らの主観を重要視した作りになります。しかし、今回は僕が作った世界ではないわけです。十数年にもわたって続いてきた「鉄拳」というシリーズには、すでに膨大なキャラクターと彼らを取り巻く世界観というものが存在しています。絶対にその世界観を逸脱してはならないと考えました。その点では僕の不勉強で、初稿ではずいぶんバンダイナムコゲームスのスタッフの方々に助けていただきました。

 しかし、基本的に、「鉄拳プロジェクト」ディレクターの原田勝弘さんをはじめ、スタッフの皆さんが自由にやらせてくださったので、僕の抱く「鉄拳」の世界を、のびのびと書かせていただきました。ゲームのシリーズにはない、僕が創作した人物も登場させましたが、制約を感じることはあまりなかったし、とてもありがたかったです。

 今回の作品の中では、三島家の血脈を辿った先の舞台として、戦国時代を設定しました。普段、自分自身が時代小説を書いているので、馴染みのある時代であったこともそうですが、三島一族の男たちのような、野望むき出しの男たちが自我を解放して闘える時代となればやはり戦国時代かな、と感じたことが大きかったです。

――矢野さんのデビュー作『蛇衆』にも、親と子が慈しみ合うことができない一族が登場します。その造形に、「鉄拳」の三島親子の影響はありましたか。

矢野 影響というよりは、元来僕は嫌いじゃないんです、こういう濃い肉親同士の戦いっていうのが。シェイクスピアの作品や『スター・ウォーズ』とかにも親子の相剋というのは描かれてますよね。『北斗の拳』のような兄弟同士の争いも大好きですし(笑)。

 ただ、僕が『蛇衆』で鷲尾家という一族の怨念のストーリーを書いているからといって、それが今回の『鉄拳 the dark history of mishima』に何か影響を与えた、ということは無かったと思います。そこはやはり「鉄拳」という強固な世界観があるので、三島一族は三島一族なんです。彼らはすでにできあがっていて、僕の主観が入り込めないほどに濃い(笑)。

――矢野さんは、小説、コミック、ゲーム、演劇、映画を問わず、 「エンターテインメント全般」が大好きということですが、 矢野さんにとっての、「エンターテインメント」とはどんなものでしょうか。

矢野 体や脳みそのどこかでウズウズするものではないでしょうか。「あれ楽しそう」とか「あれやってみたい」と素直に思え、触れてドキドキわくわくするもの。それが僕にとってのエンターテインメントだと思います。時間を忘れるくらい集中して、学校の成績が下がっちゃう。そんな経験を何度もしてきましたから(笑)。

――今後の矢野さんの刊行予定を教えてください。

矢野 今月(2011年11月)、講談社BOXさんの方から『戦国BASARA3 伊達政宗の章』が刊行されます。奇しくもゲーム関連の作品が連続しますが、それぞれ楽しく書かせていただきました。なお、こちらは僕の作品を皮切りに、BASARAの主要キャラクター四人をそれぞれ主人公にした作品が随時出版されるという企画なので、それぞれの作家さんの描くBASARAの世界を楽しんでいただけたら幸いです。

 そして年末には、僕のデビュー作である『蛇衆』が文庫になります(集英社文庫)。僕にとって思い出深い作品ですので、こちらもよろしくお願いします。

<著者プロフィール>
1976年生まれ、福岡県久留米市出身。
2008年、「蛇衆綺談」で第21回小説すばる新人賞を受賞。
同作は『蛇衆』に改題のうえ、2009年単行本刊行、
翌2010年、長田悠幸作画で漫画化される。
ほか著書に、『無頼無頼ッ!』『兇』がある。
大の漫画好き、ゲーム好きで、本作にて、
初のゲーム作品のノベライズを手がけた。

【書評】『鉄拳 the dark history of mishima』を読む
文/佐藤大(脚本家)

原作のイメージを損なうことなく
ド真正面から新鮮に魅せてくれる
格ゲー『鉄拳』の物語

 他媒体で長年人気の作品を原作とした新作小説を新鮮に書くのは難しい。例えばゲームであればプレイヤーごとに異なるイメージの作品が完成している。それらのイメージと同じであることを意識すればファンは喜ぶが新鮮さは少ない。かといって新鮮なイメージが少しでもそれぞれと異なれば思い入れが反転し、内容に関係なく拒否を声高に表明するだろう。RPGやアドベンチャーであれば同じ世界観を共有し別の物語をつくることで新鮮さを演出する可能性はある。ただ相手が格闘ゲームとなるとイメージを大切にすると物語は破綻する。何故ならその世界を楽しむ時に物語が大切ではないからだ。まさにどちらかが倒れることの他は余分なのだ。

 本書の原作、格闘ゲーム『鉄拳』は1994年末にゲームセンターに登場、今や同ジャンル代表作品。登場キャラクターは優に50を超え、世代も祖父から孫まで数世代、木人やロボットから熊やカンガルーまで自然に同居する世界観。独特の『鉄拳』ワールドと著者はどう格闘したのか? なんとド真正面の正拳。原作の舞台、格闘大会を主催する三島財閥の中心人物、平八、一八、仁という一族を主役に謎の呪われた血の根源を白日のもとにさらす大胆さである。

 著者が得意とする戦国時代へと舞台もひろげつつ原作のイメージを損なうことなく新鮮に魅せている。その上、余分など一つもない漢(おとこ)の活劇。清々しいド真正面な『鉄拳』の物語。個人的には映画版の脚本を書く前に読みたかった。気になったのは原作の主軸、トーナメントの勝敗が物語の中心ではないこと。それは映画版の脚本を担当して最初に提案した一つでもある。トーナメントの醍醐味ではゲームに勝てない。だからこそ描くべきではない。きっと矢野さんもゲーム好きに違いない。その上、ゲームを未体験の『蛇衆』や『無頼無頼ッ!(ぶらぶらッ)』ファンにも納得の展開にニヤリ。あくまで飄々(ひょうひょう)と戦乱の世を戦い生きる漢の群像劇であり、「矢野隆」の最新作となっていることも付け加えておく。

(初出/「青春と読書」2011年9月号)

※佐藤大氏が脚本を担当した映画『劇場版 鉄拳ブラッド・ベンジェンス 3D』と、
 ゲーム『鉄拳タッグトーナメントHD』『鉄拳タッグトーナメント2プロローグ』が、
 一枚のディスク(BD)で楽しめる『鉄拳ハイブリッド』。
 2011年12月1日にバンダイナムコゲームスより発売!

<編集者からのテマエミソ>


3年前、『蛇衆』で小説すばる新人賞を受賞した矢野隆さんは、大のゲームファン。

受賞にあたっての、選考委員・宮部みゆきさんとの対談では、同じくゲーム好きの宮部さんに、受賞作のゲームからの影響を指摘されていたほどです。

 (対談はこちら

また第二作、『無頼無頼ッ!』刊行時には、これまた愛好する『モンスター・ハンター』を手がけるカプコンのプロデューサーの辻本良三氏、漫画家の長田悠幸氏と念願の鼎談も実現。

 (鼎談はこちら

常にどこか、小説作品と「ゲーム」がつながっている感のある矢野さんが今回手がけたのは、バンダイナムコゲームスの対戦格闘ゲーム『鉄拳』のノベライズ!

『鉄拳』はすでにシリーズ6まで発売されて、国内外で常に話題を呼んでおり、この9月には初のフルCG長編アニメーション映画『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』(アスミック・エース配給)が公開に。

そんな歴史も人気もあるゲームのノベイライズを執筆するにあたり、矢野さんは、シリーズの中心キャラクターである仁、一八、平八……三島一族の怨念の歴史に着目。

ゲームのストーリー設定をふまえた上で、オリジナルエピソードも盛り込み、戦国時代にまで彼らの血脈を辿りました……。

ゲームファン、時代小説ファン、どちらの方にも楽しんでいただける作品です!!

(編集I)

墨絵イラスト:茂本ヒデキチ


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