『鉄拳 the dark history of mishima』
著者:矢野隆
監修:バンダイナムコゲームス
定価:819円(本体)+税 8月26日発売
【インタビュー】著者・矢野隆さん
「鉄拳」の世界の、キャラクターたちの「情念」に惹かれています
<著者プロフィール>
1976年生まれ、福岡県久留米市出身。
2008年、「蛇衆綺談」で第21回小説すばる新人賞を受賞。
同作は『蛇衆』に改題のうえ、2009年単行本刊行、
翌2010年、長田悠幸作画で漫画化される。
ほか著書に、『無頼無頼ッ!』『兇』がある。
大の漫画好き、ゲーム好きで、本作にて、
初のゲーム作品のノベライズを手がけた。
【書評】『鉄拳 the dark history of mishima』を読む
文/佐藤大(脚本家)
原作のイメージを損なうことなく
ド真正面から新鮮に魅せてくれる
格ゲー『鉄拳』の物語
他媒体で長年人気の作品を原作とした新作小説を新鮮に書くのは難しい。例えばゲームであればプレイヤーごとに異なるイメージの作品が完成している。それらのイメージと同じであることを意識すればファンは喜ぶが新鮮さは少ない。かといって新鮮なイメージが少しでもそれぞれと異なれば思い入れが反転し、内容に関係なく拒否を声高に表明するだろう。RPGやアドベンチャーであれば同じ世界観を共有し別の物語をつくることで新鮮さを演出する可能性はある。ただ相手が格闘ゲームとなるとイメージを大切にすると物語は破綻する。何故ならその世界を楽しむ時に物語が大切ではないからだ。まさにどちらかが倒れることの他は余分なのだ。
本書の原作、格闘ゲーム『鉄拳』は1994年末にゲームセンターに登場、今や同ジャンル代表作品。登場キャラクターは優に50を超え、世代も祖父から孫まで数世代、木人やロボットから熊やカンガルーまで自然に同居する世界観。独特の『鉄拳』ワールドと著者はどう格闘したのか? なんとド真正面の正拳。原作の舞台、格闘大会を主催する三島財閥の中心人物、平八、一八、仁という一族を主役に謎の呪われた血の根源を白日のもとにさらす大胆さである。
著者が得意とする戦国時代へと舞台もひろげつつ原作のイメージを損なうことなく新鮮に魅せている。その上、余分など一つもない漢(おとこ)の活劇。清々しいド真正面な『鉄拳』の物語。個人的には映画版の脚本を書く前に読みたかった。気になったのは原作の主軸、トーナメントの勝敗が物語の中心ではないこと。それは映画版の脚本を担当して最初に提案した一つでもある。トーナメントの醍醐味ではゲームに勝てない。だからこそ描くべきではない。きっと矢野さんもゲーム好きに違いない。その上、ゲームを未体験の『蛇衆』や『無頼無頼ッ!(ぶらぶらッ)』ファンにも納得の展開にニヤリ。あくまで飄々(ひょうひょう)と戦乱の世を戦い生きる漢の群像劇であり、「矢野隆」の最新作となっていることも付け加えておく。
(初出/「青春と読書」2011年9月号)
※佐藤大氏が脚本を担当した映画『劇場版 鉄拳ブラッド・ベンジェンス 3D』と、
ゲーム『鉄拳タッグトーナメントHD』『鉄拳タッグトーナメント2プロローグ』が、
一枚のディスク(BD)で楽しめる『鉄拳ハイブリッド』。
2011年12月1日にバンダイナムコゲームスより発売!
<編集者からのテマエミソ>
3年前、『蛇衆』で小説すばる新人賞を受賞した矢野隆さんは、大のゲームファン。
受賞にあたっての、選考委員・宮部みゆきさんとの対談では、同じくゲーム好きの宮部さんに、受賞作のゲームからの影響を指摘されていたほどです。
(対談はこちら)
また第二作、『無頼無頼ッ!』刊行時には、これまた愛好する『モンスター・ハンター』を手がけるカプコンのプロデューサーの辻本良三氏、漫画家の長田悠幸氏と念願の鼎談も実現。
(鼎談はこちら)
常にどこか、小説作品と「ゲーム」がつながっている感のある矢野さんが今回手がけたのは、バンダイナムコゲームスの対戦格闘ゲーム『鉄拳』のノベライズ!
『鉄拳』はすでにシリーズ6まで発売されて、国内外で常に話題を呼んでおり、この9月には初のフルCG長編アニメーション映画『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』(アスミック・エース配給)が公開に。
そんな歴史も人気もあるゲームのノベイライズを執筆するにあたり、矢野さんは、シリーズの中心キャラクターである仁、一八、平八……三島一族の怨念の歴史に着目。
ゲームのストーリー設定をふまえた上で、オリジナルエピソードも盛り込み、戦国時代にまで彼らの血脈を辿りました……。
ゲームファン、時代小説ファン、どちらの方にも楽しんでいただける作品です!!
(編集I)
墨絵イラスト:茂本ヒデキチ