『真昼の心中』著者:坂東眞砂子
定価:1,500円(本体)+税 7月24日発売
2014年1月の逝去から一年半。
坂東眞砂子さんの古くからの知人たちと彼女の話題になるたび、あの低音の声、笑顔、イタリアや高知などの取材先でのさまざまなエピソードを思い出す。
20代のミラノ時代を含め、各人から坂東さんの声音を真似ながらの笑える逸話に爆笑したのち、皆がその不在を実感し「まったく、なんでこんなに早く死んじゃうのよ・・・」という坂東さんの親友の一言をきっかけにしんみりする、というのがいつもの流れだ。
ことほどかように、私的坂東ネタは尽きないが、既刊を読めばやはり凄みをたたえた稀有な作家だったと再認識する。もっともっと読み継がれてほしいと願う。
本作「真昼の心中」の第一話「火の華お七」は、もともと「小説すばる」朗読CD用にと書かれた掌編で、江戸の色事を下地にした話はこの一作のみの予定だった。ところが、別の人物や事件を取り上げて描いてみたいという気持ちがご本人にも沸き起こり、七話が出来上がったという次第である。
「このまま仕事に慣れて、つまらない編集者にならないでよね!」や、
「会社を辞めて、ひとりで仕事をするようなタイプだと思う」などなど、好き勝手にこちらを見てくださっていたが(愛情もあったと信じたい…)、「一度きりの人生、好きに生きよう、やりたいことをやろう」というシンプルなメッセージを発信してくださっていたのだとあらためて思ったのは、本書にそれが濃厚に表れているからだ。
取り上げられるのは、八百屋お七や大奥の絵島など、当時の色事スキャンダルの主役たち。取り澄ました史実ではわからない彼女たちの内面に踏み込み、生々しくその肉声を甦らせる。
私はこうしたかっただけ、今がよければ死んだっていい、こんな私を見て――江戸に生きる彼女たちの叫びは、男性主導の武家社会を規範なんか何のそのと、せせら笑うかのようだ。
時間も空間も越えた作品を縦横無尽に書ける方だったが、本書の後には、日本を舞台にした骨太な歴史大作を生み出したに違いないと確信する。
「南の島でハンモックに揺られて昼寝する、というのが夢だった」という少女の頃からの夢をタヒチで実現した坂東さん。
「やりたいことをやりなさいよ」と、今も天上から活を入れられている気がする。