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四六判ハードカバー 280頁
定価:1,400円(本体)+税
ISBN978-4-08-771547-7 |
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この小説は陸軍の軍人の子として広島に生まれ、中学生のときに被爆した私の父親をモデルとした作品です。しかしながら、ここに書かれてあることの九割はフィクションです。なぜならば、父は自分の過去についてなにも語らず、私のほうも父の痛みに触れる遠慮からなにも聞けずに終わったからです。
父の被爆体験は、小説家を志す私にとってはいつか書いてみたいテーマの一つでした。ゆえに、父が白血病でついに去ったとき、これですべてわからずじまいになった、と後悔に唇をかみました。しかし、逆説のようですが、だからこそどうしても書かねばならぬと奮い立ったのです。
人はおそらく、いちばんだいじなことは言わないのでしょう。そして、そのわからないことの中にわけいっていくのが小説なのではないでしょうか。そのことに、この年になってようやく気づきました。
「がんばれのう、期待しとるけのう」というのが、父からもらった最後のことばでした。いまこの私を、父は天国でどう見てくれているでしょうか。
末筆となりますが、このようなつたないものに目を止めてくださった選考委員の先生方に、心より御礼を申し上げます。
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