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レンザブロー インタビュー

作家 秋吉理香子さん

「感情が爆発する一瞬を捉える」

 「雪の花」でYahoo! JAPAN文学賞を受賞したのを機にデビュー。受賞後第1作『暗黒女子』は、斬新な内容や衝撃的なラストが話題となり、刊行から半年以上経つにもかかわらずその人気は衰えない。人間の本質をえぐり出す「イヤミス」小説の新旗手として注目を集める秋吉理香子さんとは。

 ある女子高で最も美しく、最も影響力のある生徒が死んだ。彼女の名前は白石いつみ。死の真相を暴くために、親友の小百合は、殺害に関係したと思われる文学サークルの生徒6人を集め、サークル伝統のイベントを開催する。「闇鍋」を囲みながら、それぞれが短編小説を書き上げて持ち寄り、その場で朗読を行う奇妙な定例会。今回の課題テーマは「いつみの死について」。朗読する6人全員が、犯人を知っていると主張する。だが、それぞれの視点で語られる物語には、いくつもの矛盾が生じる。いったい誰が犯人なのか……。

暗黒女子 秋吉理香子

『暗黒女子』
双葉社/定価:1400円(本体)+税

 

秋吉理香子さん

【プロフィール】
秋吉理香子

15歳でアメリカに移住。高校卒業と同時に日本へ帰国。早稲田大学第一文学部を卒業した後、再びアメリカに渡り、ロヨラ・メリーマウント大学院にて映画・TV製作修士号取得。数々の映画関連会社で働く。
2008年、「雪の花」で第3回Yahoo! JAPAN文学賞を受賞。2009年、受賞作を含む短編集『雪の花』を刊行。受賞後第1作となる『暗黒女子』は台湾、韓国、インドネシアでの翻訳出版が決定している。

 闇鍋には、それぞれが持ち寄った不可思議な食材を入れて食べる。中には、つばめの巣、いちご大福、シャネルの時計……。果たして闇鍋がどう「いつみの死」に関係してくるのか。
 真実と虚構が入り混じる暗闇の中で、物語は予想外の方向へと向かう。

 過去にはアメリカで映画関係のプロデュースや、未就学児向けのアニメの脚本などを手がけていたという秋吉さん。アニメ制作では、原稿用紙20枚程度の脚本を書いていた。時間にすると1本あたり12分間程度のアニメだ。平易な文章。意外性のある設定。スピード感のある展開。アニメ制作に求められていた要素を小説にも反映させたことが、他の「イヤミス」作品には見られないテンポの良さを生んだ。
 「頭の中で映像になったものを、文字に書き起こす感覚で執筆しています。今回は、女子会で闇鍋を囲みながら、謎の死をとげたメンバーについての朗読会をするという物語が、私の頭の中でははっきりと映像化されていました。ですので、闇鍋のアイデアについては、最初はボツになりそうだったんですけど、猛プッシュして、担当の方を説得して取り入れたんです(笑)。とにかく今までに読んだことのないような設定を作ろうという気持ちがありました」

 母親の一言がきっかけで、本の読み方が変わり、作家を目指そうと思った。
 「母が小説を読むのが大好きなんです。私が小学生の時から、欲しい文学全集があったらポンとまとめて買ってくれました。読んだ本について聞いたりしてくれて。よく覚えているのは、カフカの『変身』を読み終えた時のことです。私は、人間が虫になるというインパクトだけに気を取られていて、読み終わった後にその驚きを母に伝えると、『この作品は、老人問題とか、異端者を迫害する人間の恐ろしさを、虫になった人間の話に喩えて描いているとも言えるんじゃない?』と、小説の読み方について教えてくれたんです。そういう見方があるのかと、子供ながらに驚きました。これは本に夢中になっていく1つの大きなきっかけでしたね。日本文学だと、太宰治や三島由紀夫が好きです。典型的な文学女子で、様々な文学作品を読み進めるうちに、中学生の時くらいから小説を書きたいと自然と思っていましたね」

 元々は純文学系の雑誌へ投稿を続けていたという秋吉さん。次第に執筆の軸が浮かび上がってきた。
 「根底にあるのは、人間の儚さです。人間は100%死にます。そうわかっているのに、日々たべたり、悩んだりしていかなければならない。みんなの最後の一行は、死にましたで終わりなんです。すごく愛おしい存在だと思うんです。人間の、最後の一行に向かってじたばたしている姿というのを描くことで、人間の儚さ、愛おしさを表現する。これが自分の軸ですね」

 相手を罵る、嘘がばれる、親友を裏切る……。その時に人間はどんな顔をするのか。どんな行動を取り、どんな言葉を発するのか。人間の本性が出る一瞬を、力強く丁寧に描いている。本作では、10代の女子間で起こる特有の嫉妬や憎悪のリアリティある描写が、読了後の独特な後味につながる。
 気になるのは、『暗黒女子』の次だ。
 「色々と試行錯誤を重ねて、ユニークな作品に仕上げたいと思っています。人間の暗い部分に焦点を当てて、掘り下げて、読後になにかザラザラしたものが残るような、気になってもう一度読み返したくなるようなストーリーを創りたいです。それと、今後はミステリーはもちろん、家族小説、問題提起できるような社会派のものまで、色々なジャンルに挑戦していきたいです。自分の原点である純文学作品も書きつづけていければと思っています」

 
 

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