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レンザブロー インタビュー

作家 小嶋陽太郎さん

退屈だから、わかること

 常にけだるそうな16歳の女子高生・きよ子は、大寒波迫る雨の日、公園で首まで地面に埋まったおじさんと遭遇する。「私はなんてつまらない人間なのでしょう。どうせこのまま死ぬんです……」と自らの人生を悲観的に語る哀れな男を救うべく、面倒くさいと思いながらも家にシャベルを取りに帰った彼女は、公園に戻る途中で交通事故に遭ってしまう――。

 『気障でけっこうです』は今どきの女子高生と七三分けのサラリーマンとの、奇妙な出会いから始まる。著者の小嶋陽太郎さんは本作で第16回ボイルドエッグズ新人賞を受賞しデビュー。万城目学さんらを輩出したことで知られている同賞の最年少受賞者となった。平成生まれで現役大学生、新進気鋭の若手作家だ。

気障でけっこうです 小嶋陽太郎

『気障でけっこうです』
角川書店/1,300円(本体)+税

 

小嶋陽太郎さん

【プロフィール】
小嶋陽太郎(こじま・ようたろう)

1991年、長野県松本市生まれ。信州大学人文学部在学中。2014年、本作品で、第16回ボイルドエッグズ新人賞を受賞。

撮影/岩城裕哉

 「就職活動を回避したくて、代わりに小説を書いて現状を打開できないかと考えていた時に、穴に落ちているおじさんが女子高生と出会う場面が、突然イメージとして頭の中に浮かびました。そこから一気に2ヶ月くらいで書き上げたのを覚えています」

 病院で目を覚ましたきよ子の前に現れたのは、あの日地面に埋まっていた男だった。それもきよ子にしか見えない幽霊の姿となって――。のちに「シチサン」と呼ばれる彼は、なぜ死に、なぜ幽霊として現世に舞い戻ったのか。シチサンはきよ子のいる場所以外には出現できず、また厳格な神様のルールによって行動が規制されていることが判明する。常にきよ子の周りをうろつくシチサンときよ子の掛け合いはコミカルで楽しいが、彼が時折きよ子以外の何かを気にしている様子が描かれる。ある日、スーパーにいた仲の良さそうな母子の姿を見て呆然とするシチサンを見たきよ子は、彼の過去に何があったのか興味を抱く。その真相が明らかになるにつれて、物語は温かくもほろ苦い方向へと展開する。突飛なファンタジーの設定で始まったかと思えば、ミステリーにも恋愛小説にも読み解けるのが面白い。

 デビュー作で完成度の高い小説を世に送り出した小嶋さん。意外にも読書はあまりしてこなかったと言う。
 「あまり本を読んでいなくて、読書遍歴はいつも答えるのに困るんです。ちゃんとこの作家さんの作品を読んだなと言えるのは、高校時代は瀬尾まいこさんで、大学に入ってからは森見登美彦さんや万城目学さんでした。それも全部、姉の部屋の本棚にあったものを借りて読み始めたのがきっかけです。『気障でけっこうです』の冒頭の理屈っぽい部分や面倒くさい部分は、いい意味で森見さん作品の影響を受けていると思います。強烈な読書体験はないですが、読んだものの影響は確実に受けていると思います」

 今まで「熱中した」と言えるほど何かに打ち込んだことがないという小嶋さん。高校時代に始めたギターは大学に進学してからも続け、ライブハウスで演奏をするようにもなったが、完全にひとりでできることもしてみたいと思い始める。まずは日本語を知っていれば始められる、と小説の執筆に思い至り、書き始めた。本作を執筆する前に書かれた作品があるとのことで、その内容を尋ねると「ろくなもんじゃないですから」と笑顔でかわされた。
 「子供のころから言葉について考えるのが好きでした。普通に学校生活を送っていると、その時々に安直に流行る言葉があるじゃないですか。その風潮に対して通り一遍だなと思っていた時期がありました。とは言っても僕もたまにその言葉を使ってしまうのですが(笑)。自分の言葉を持っていたいという意識は常にありました。それと、学生時代は基本的にぼんやりして無駄な時間を過ごしていたんですけど、その間エネルギーを蓄えていたのかなとプラスに捉えています。何もしない時間が、僕にとってはよかったかもしれないです」

 作中、特に魅力的なのが主人公・きよ子の親友で、自由奔放な性格のキエちゃんだ。言葉遣いが妙に時代劇風、制服姿に老人が被るようなニット帽を装着し、ミステリアスな存在として描かれている。奇行は目立つが友情には厚く、ここぞという時にきよ子をサポートする。読者の中にはファンも少なくないということで、最近、彼女を主人公にした短編「ハムスターと私」を書き下ろしたばかり。(現在発売中の「小説屋sari-sari2015年3月号」に掲載)
 「キエちゃんは、このくらい自由な人がいたらいいなぁという発想から生まれました。これは先ほどお話ししたことに繋がるのですが、自分が何を頑張ってきたとかもなく、退屈に過ごしてきたからこそ、こういうのがあったら面白いんだよなっていう発想に繋がったと考えています。冒頭の場面も、キエちゃんも、あんな突飛なことが起これば、突飛な人がいれば世の中面白いのにと普段から考えているから、思いついたのかもしれないです」

 2作目は『火星の話』のタイトルで、角川書店から2015年4月刊の予定。「高校が舞台なんですけど、自称火星人の女の子がいて、あの子は一体なんだ!? と興味を持つ男子が主人公のお話です。青春小説、ボーイ・ミーツ・ガールですね。自分が楽しいと思うものを書いて、それが結果誰かにとっての面白いものにもなったら素晴らしいですよね。でも今は、自分が楽しむのも大切だけど、ちゃんと人に面白いと思ってもらうことを前提にしないと意味がないな、と考えるようになりました。作家として生きていけるよう、頑張ります」

 
 

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