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レンザブロー インタビュー

作家 こざわたまこさん

「災い」から生まれるもの

"野口は、この村いちばんのヤリマンだ。けれど僕は、野口とセックスしたことがない。"

 強烈なインパクトの一文から始まる短編「僕の災い」(受賞時タイトルは「ハロー、厄災」)で、こざわたまこさんは第11回女による女のためのR-18文学賞読者賞を受賞した。閉塞感に満ちた村で、行き場の無い欲望と絶望を抱える「僕」が、足の不自由な女子・野口に出会う……というこの作品は、選考委員の三浦しをん氏から「作品が宿す熱量、語りたいことがあるんだという主人公の雄叫びは候補作中随一」と評価された。どんな情熱的な書き手なのだろう……と思いきや、こざわさんは笑顔の可愛らしい、一見するとごく普通のお洒落な女の子だ。けれども、贈賞式で今後の意気込みを語る力強いスピーチには、やはり強い意志が感じられ、列席者から盛大な拍手が沸いたのだった。

 小学生の頃から漫画や小説が好きで、ノートにお話や漫画を書き留めたり、大学では演劇サークルで脚本を書いたりしてきた。社会人になって一度離れていた執筆にふたたび向かい、応募に至った。きっかけは、3.11の震災だったという。

こざわたまこさん

【プロフィール】
こざわたまこ

1986年福島県生まれ。神奈川県在住。会社勤務。
「ハロー、厄災」で第11回女による女のためのR-18文学賞読者賞を受賞。
趣味は演劇鑑賞と漫画を読むこと。

撮影 高橋依里

「実家は福島の南相馬市で、大学進学で上京するまで、ずっと住んでいました。両親やきょうだい、知人の何人かは、一時避難したものの、今も地元で暮らしています。あの震災が起こるまでは、『もう田舎はイヤだ』と思っていて、地元の悪口ばかり言っていました。でも、震災があって、原発が大変なことになって、1週間位の間に地元が大切な場所に『なってしまった』んです。気軽に悪口なんて言えない状況になってしまった。それから時間が経つにつれ少し冷静になると、田舎に対する自分のこの変化に違和感を覚えました。自分にとっての田舎は、大切なだけの場所じゃないのに、と。それで、私にとっての『いい時の田舎』、つまり、ひねくれていますが、イヤだと正面から言えた頃の田舎を書こうと思ったんです」
 作品を書き上げ、読者賞を受賞した今は、「気持ちに一区切りついた」という。
「社会人になって、自分は何もできないと実感していて、さらに震災があり、福島への援助なども含めて、さらに自分の無力さを感じていました。でも、少なくとも書くことで、何らかの反響を得られると気づいて、だいぶ考えが変わりました」

 受賞作「僕の災い」は、田舎の村で、「永遠に終わることはない」ような夜をもてあます、男子高校生が主人公の短編だ。大音響で音楽を聴きながら自転車で国道を走ることで、何とか途方もない闇を逃れようとする日々。そんなある晩、主人公は国道で、男の車から放り出されたクラスメイトの野口に出会う。足の悪い彼女は、「セックスしてただけ」というが……。彼女に惹かれていくなかでふと、彼女は、自分にとって避けられなかった「災い」のようなものだと思い至る。さらに、主人公が災いを愛おしく思うという表現が新鮮だが、ここには、こざわさんの地元への思いが反映されているようだ。
「主人公にとって、野口は村の象徴です。そして主人公が田舎に対して感じている思いは、私がかつて抱いていたそれとほぼ同じ。震災を経て、私が福島に生まれ、今回こういう状況になってしまうという流れはもう決まっていたんだろうなと思ったんです。その避けられないという感覚は、主人公の野口への思いと同じなんだと思います。残念ながら私は恋愛では、こんな運命的な出会いはしていないんですが(笑)」はにかみながらも、語る言葉には強い気持ちが滲んでいた。

 この受賞作の村を舞台にした話を、既にいくつか書き始めているという。「秘密や恥ずかしいことをかかえた人に寄り添うような、救いになるような作品を書いていきたい」という受賞時のスピーチ、まずは次作で実現されることだろう。

 
 

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