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レンザブロー インタビュー

脚本家 西田征史さん

姉弟二人の“普通の生活”が、気づかせてくれること

 『小野寺の弟・小野寺の姉』は、ドラマ『妖怪人間ベム』やアニメ『TIGER & BUNNY』を手がけた脚本家・西田征史さんによる初の小説だ。「姉に殺意を抱いたことが、これまでに三度ある」という書き出しから始まるのでどんな物騒な話かと思いきや、披露されるのは「幼い頃に、唐辛子をかりんとうみたいなものだと騙された」ことをはじめとする、姉弟間の微笑ましいエピソードで、冒頭から作品世界独特のほんわかした空気に一気に引き込まれる。舞台となっているのは、西武新宿線沿線(から自転車で二十五分)の、行き交う人が挨拶を交わし合うような、人と人のつながりが残っている町で、四十歳独身の大柄な姉・より子と、三十三歳のやや人見知りな弟・進の日常に起きる小さな事件がそれぞれの視点から交互に語られる。
「連ドラの脚本を書くときも、ささやかな部分を大事にしてはいるんですが、やはりドラマとして話を派手にすることも求められたりします。特に最近は、世界観の大きい話が続いたので、今回小説を書く時に、ささやかで、ある意味何も起こらない話にすることで普通の人間を描いてみたかったんです。ここ数年、四十代のニートが同居している七十代の母に暴力を振るったりするのが問題になり始めたじゃないですか。十代のニートと四十代の親だったら問題なくても二十~三十年経つと色々そのままではすまなくなってくる。これが姉弟だったらどうだろうと思ったことが、この微妙な年代の姉と弟を主人公にしたきっかけです。ずっと結婚しないで互いに笑っていたのが、気づくと周りからみるとおかしい感じになっている。そういう二人の関係性を描きたかった」

小野寺の弟・小野寺の姉 西田征史

『小野寺の弟・小野寺の姉』
定価:1,200円(本体)+税
発行 泰文堂(リンダブックス)

 

西田征史さん

【プロフィール】
西田征史(にしだ・まさふみ)

1975年東京都生まれ。脚本家、演出家。
映画・ドラマ・舞台など幅広く脚本を執筆。主な作品に、映画『ガチ☆ボーイ』『半分の月がのぼる空』『おにいちゃんのハナビ』『怪物くん』ドラマ『魔王』『怪物くん』『妖怪人間ベム』他にアニメ『TIGER & BUNNY』(シリーズ構成・脚本)、教育番組『シャキーン!』(構成)、ネットシネマ『キキコミ』(脚本・監督)、シットコムドラマ『ママさんバレーでつかまえて』(作・演出)など。
この秋には完全オリジナルとなる連続TVドラマのオンエアも控えている。

 弟には言いたいことが言えても、ほのかな恋心を抱く相手には思ったようなことが言えないより子、電車で偶然再会した女性に話しかけられ、最寄り駅ではないのに電車を降りてしまう進。売れない役者をやっていて、父親からことあるごとに夢を諦めろと説得される床屋の河田の悩みなど、彼らの日常生活が実に等身大だ。
「はっきりこんなお話ですと押し付けるのではなく、読んだ方に感じ取ってもらいたかったといいますか。だから自然に日々の断片を切り抜いていく形になりました。その中で、気をつけたのは男目線で書きすぎていないか、ということです。より子の行動に女性の方が共感してくれるといいなと。でも『これ、男の人が書いたの?』という感想をもらうことがあったので、まぁ、大丈夫だったのかな? なんて。すごくうれしいです。
 進を書くのはそんなに苦労しませんでした。あえて言うなら、割と地味なキャラクターなので、埋もれすぎないようにしたということくらいですかね。とても照れ屋なので、悩んだ挙げ句あまり行動を起こさないんです。気づくとすぐ地味な方にいこうとしてしまう。担当編集の方から言われて初めて気づいたんですが、彼をかっこよくしないというのは実は守ろうとしていたラインなのかもしれないです」
 彼らの生活感は、料理にもよく表れている。進がすき焼きにしたいのに、より子に却下されたり、二人が喧嘩している日に限って晩ごはんが湯豆腐で、二人で同じ鍋をつつかないといけないところなどからも、家族の情景が浮かび上がってくる。
「食べ物って生活が出ると思うんです。コンビニで買ってきたご飯でも、プラスチックのまま出す人なのか、わざわざ別の器に入れ替えて出す人かで生活は違う。より子がコンビニで買ってきてそのまま出す人だとこういう生活はできていない。しっかりやろうとする人だから進も姉に愛情を感じているんじゃないかな。けっこう大変なことじゃないですか、料理をきちんと作って盛りつけるって。『妖怪人間ベム』などでも食事の場面は出しましたが、小説ならよりじっくり触れられるなと、彼らの食事は丁寧に描きました」
 食事での姉弟の他愛ないやり取りやより子の罪のない妄想など、基本的には明るい部分が多い物語だが、他の家族がいなくてなぜ二人で暮らしているのか、などシリアスな背景が明かされる部分もあり、幸せとはなんだろうかと考えさせられる。
「生きていれば笑いもするし泣きもするじゃないですか。明るく見えたより子にもこういう部分がある、暗い進にも笑ってしまう瞬間がある。混在しているのが人間というか人生なんじゃないかな、なんて。
 僕が考える幸せですか。う~ん、ちょっとでも笑えるってことですかね。やっぱり完全に悩みきっていたら笑いもできないだろうし。だからまあ彼らは幸せなのかな。あの関係で十年、二十年経つと新たな問題が出てくるんでしょうけど、彼らは幸せでいようとできる人たちなので、それでも笑っているのかな、と思います。キャラクターが違うとけっこう暗い話にもなってしまいそうだとは思います」
「本の雑誌」が選ぶ2012年上半期ベスト10の第2位にもなり、じわじわ読者を広げつつある、『小野寺の弟・小野寺の姉』をどんな人に読んでほしいか、最後に聞いた。
「いやぁ、あんまり、そういうこと考えずにただ書きたいことを書いちゃったんですけど、そうですね、いただいた感想で、『寝る前に読んでゆったりした気分になってました』というものがあったので、日々の生活に追われ、お疲れ気味の方などに読んでいただけたら喜んでいただけるかなと。どんな方でもお読みいただけたら幸せです」

 
 

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