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担当編集のテマエミソ新刊案内

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道化の館(上)

道化の館(下)

  • 紙の本

『道化の館(上)(下)』著者:タナ・フレンチ 訳:安藤由紀子

上巻 定価:838円(本体)+税・下巻 定価:838円(本体)+税 12月16日発売

Amazon.com第1位に選ばれた
ミステリーの大作!

 「アイルランド」と聞いて、何が頭に浮かびますか? エンヤ、IRA、アイリッシュ・パブ、最近では財政問題……。でも、まだまだ奥深いアイルランド。その一部を垣間見ることができるのが、アイルランド発の長編ミステリー『道化の館』です。作者のタナ・フレンチは、アイルランドが持つ様々な側面を、女子大学院生殺人事件という「ミステリー」に編み込んで、緻密な文体で浮かび上がらせています。そしてこの作品はAmazon.comのランキングで、スティーヴン・キングやジェフリー・ディーヴァーらを押さえ、見事1位に輝きました。

 物語は、ダブリン郊外にあるグレンスキー村の廃屋で、ある女子大学院生の刺殺死体が発見されることから始まります。驚いたことに被害者はダブリン警察の女性刑事キャシーと瓜二つでした。しかも殺された彼女が名乗っていた「レクシー・マディソン」は、かつてキャシーが潜入捜査のために上司のフランクと作り上げた架空の人物の名。いったい何がどうなっているのか? キャシーはレクシーになりすまし、被害者が暮らしていた古い屋敷「ホワイトソーン館」へと潜入し、生前のレクシーの人間関係や生活環境から、犯人探しを始めるのでした。
 ホワイトソーン館には、レクシーを含めて5人の男女が共同生活を送っていました。みんなトリニティー大学の大学院生。キャンパスでは浮いた存在で、外の世界とのコミュニケーションが苦手、ホワイトソーン館を中心とした彼らだけの世界で心地よく過ごしています。そんなホワイトソーン館での生活に、キャシーはレクシーとして、不思議なほど馴染んでいくのです。
 でも、深く知れば知るほどあぶり出されていく、周辺の村の住人との確執。ホワイトソーン館が抱える暗い歴史。そしてホワイトソーン館の住人らの家族のような固い絆に見えはじめる小さなほころび。やがて、すべてが絡み合う混沌の中で、レクシー殺害の真相が明かされていきます。

 アイルランドの文化、風習、歴史……。遠い国のことでありながら、この作品が胸に迫るのは、物語の中心となる「人間」が、私たちにも思い当たる顔を持っているから。ここに出てくる大学院生らのように、現代社会に溶け込めずにいる人は多い。刑事キャシーのように全てを捨てて新しい生き方をしてみたいと願う人もいるはず。そんな誰もが思い当たる共感性の高い人物像を、作者は巧みな心理描写とディテールで描き出していくのです。その筆力は、デビュー作『悪意の森』で数々の文学新人賞を受賞し、2作目の本作が2008年Amazon.comのエディターズ・チョイスで?1に選ばれていることでも証明済み。
 異国を知る楽しみと、共感性の高さに触れる興奮。この『道化の館』でぜひ味わってみてください!

(編集D)


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