キリシタンへの弾圧が強まる17世紀日本。アイヌの母と日本人の間に生まれた少女は、日本から遥か遠い異国の地をさすらう。『ジャッカ・ドフニ 海の記憶の物語』津島佑子
定価:2,500円(本体)+税 5月2日発売
遺 作
――最後の長篇小説――
「世界文学史において類を見ないような作品である。」
(朝日新聞2月23日付)――柄谷行人氏
はじめに、この場を借りて私ごとを書くことをお許し下さい。
今年2月18日の夜、帰宅後しばらくして携帯電話が鳴り、津島佑子さんの訃報の知らせを受けました。
最後をご家族と一緒に看取られた、親しい新聞社の方からでした。ご体調がすぐれず入院されているとは聞いていましたが、あまりにも突然の知らせでした。
のちに知ったのですが、一年あまりの闘病生活をご家族以外にはほとんど知らせず、執筆を続けておられたとのことでした。
加筆修正頂いた原稿のゲラが出稿し、お渡ししようという矢先のことでした。
刊行を待たずして旅立たれたことが残念でなりません。
ご冥福をお祈りいたします。
遺作となった最後の長篇小説の本書を読んで、津島さんを偲んでいただければと思います。
異端者、少数民族、宗教、性、暴力、故郷、愛……。津島文学のあらゆる要素が集約された、超大作です。
【内容】
不慮の事故で息子を失った「わたし」の物語と、アイヌの母と日本人の間に生まれた少女・チカップ(アイヌの言葉で鳥という意味)の物語が時空を超えて交差し、循環して行く――。
17世紀日本、キリスト教徒への迫害が強まるなか、幼くして母を亡くし、孤児となったチカップはキリシタン一行と出会う。都から一族で津軽に流された、兄と慕う少年・ジュリアン(キリスト教名)らと新天地マカオを目指す。マカオへ着き暮らし始め、ジュリアンが本格的に聖職者の道を歩むのを見て、チカップはさらに南を目指す決意をする。途中、海賊に捕まりオランダ商人に売られたりと、幾度かの困難を乗り越えバタビアへ辿り着いたチカップは、結婚し子を産み、さらに孫も生まれ、老いて病に臥しながらも、届くあてもないジュリアへの手紙を認め続ける。母から聴いたアイヌに歌を支えに強く、ひたむきに生きる女性の一生を、壮大なスケールで描いた渾身の叙事小説。
【著者紹介】
津島佑子(つしま・ゆうこ)
1947年、東京生まれ。白百合女子大学卒業。『寵児』で第17回女流文学賞、『光の領分』で第1回野間文芸新人賞、『黙市』で第10回川端康成賞受賞、『夜の光に追われて』で第38回読売文学賞、『火の山』で第38回谷崎潤一郎賞、第51回野間文芸賞、『黄金の夢の歌』で第53回毎日芸術賞受賞。『ヤマネコ・ドーム』はか、著書多数。
2016年2月18日逝去。