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河/2

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『河/2』小田実

定価:4,000円(本体)+税 7月4日発売

 この本の『河』というタイトルには、作者の小田実さんの様々な想いがこめられています。
 『河』の連載の執筆にかかる前、小田さんは「河の計画について」という手紙を編集者に送っています。その内容は以下のようなものです。

 私はこれまでの人生のなかで、いろんな国のいろんな河を見てきた。河は自然の流れでもあれば、土地の歴史の流れでもあり、また人生の流れでもある。民族合体の歴史の流れでもあれば、ひとつの家族の歴史の流れでもある。政治の流れを見ることもできるし、経済の流れもまた河とともにあるといえる。いろんな河を見るうちに、ぜひとも「河」の物語を書きたくなった。それを私の、あえて言えば「ライフワーク」として書きたくなった。

 世界には無数の河が存在します。山間から流れ始めた水が、いくつもの小さな川となり、それがいつしかまとまって、大きな河となって海へとつながっていきます。そのまわりに様々な人々の暮らしが息づいています。

 小田さんの「人生の同行者」玄順恵さんは、「『河』はポリフォニーなんです」とおっしゃっています。ポリフォニーというのは音楽用語で「多声音楽」を意味しています。ひとつの旋律による音楽ではなく、いくつかの異なる旋律が重なったり離れたりしながら、全体として大きな流れを形づくっていく、複雑でとても豊かな響きを持った音楽のことです。

 たくさんの人物が『河』には登場します。彼ら彼女らの声が、何かひとつのことを主張するのではなく、等しい価値と意味を持って、小説全体に響きわたる。そしてその声は、はじめは小川のせせらぎのようにひそやかなものなのに、いくつもの響きを重ねるうちに、大きなうねりとなっていく、そんな作品です。

 『河』の装丁は菊地信義さんです。菊地さんが、この作品の題字には、絶対にこの箔を使いたいといって選んでくださったのが、オレンジ色の特殊箔です。題字を見てもらうとわかると思うのですが、光によってそのオレンジは様々に表情を変えます。

 これは、『河』のなかに登場する揚子江の川面を表現しているのだと僕は思っています。人々の血と涙と想いをすべて飲み込んで流れる河が、日の光で様々な表情を見せる時、そこには、人間の営みの全てを象徴する何かが映し出される、そんな気がしています。
(編集HA)


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