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担当編集のテマエミソ新刊案内

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傀儡

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『傀儡』坂東眞砂子

定価:1,900円(本体)+税 5月26日発売

私が住むマンションのベランダには、ヤギだか羊だか分からない動物の頭の骨が転がっている。去年この本の取材で新疆ウイグル自治区へ行った時、屋台で売られていたのを坂東さんが見つけて、ウイグル人の老人に掛け合って、値切ってくれたものである。帰宅して、ダンボールの箱から取り出そうとしたら、頭蓋骨の中に見たことのない黒い虫が何匹か這いまわっているのが分かり、ベランダに置くことにした。時々雨の日などに確認しているが、まだ部屋の中に置く勇気はない。

私が坂東眞砂子さんの担当になった四年ほど前、既に前担当者からこの本の企画は聞いていた。最初にこの話があったのは、今から十年以上も前の事だったらしい。四年前、彼女はタヒチに住んでいたので、最初の頃はそれほどお会いする機会もなく、資料集めとメールのやりとりが中心だった。はっきりとものを言う、細かいことにこだわらない人、という印象を持つようになっていた。

やがて一緒に取材旅行に行くようになってから、私は坂東さんの別の面を知るようになる。最初の取材で静岡の山に入った時、拾った木を杖代わりにして凄い速さで山の中を進んでいく坂東さんに、中々追いつけない事に驚いた。ようやく追いついた私に、坂東さんは近くに生えていた木から赤い実をもいで、笑って手渡してくれた。自分の分も取って、躊躇なく口に入れる坂東さんを見て、私は何の実か分からないので不安だったが、食べようと決意した時、実の裂け目から虫が出てきた。叫び声を上げて木の実を放り出した私は、坂東さんに笑われた。

それからの取材旅行は更に過酷だった。霧でほとんど前が見えないススキの中を歩き続けて、三途の川と呼ばれる池を見に行ったり、気温が40度を超える火焔山や、目に砂が入り足元は崩れていく砂漠の丘を登ったりもした。現地ガイドが絶対お腹を壊すと断言するお店に食べに行った事もある。とてもおいしいかったが、私だけがお腹を壊した。女性の小説家には体力のある人が多いのかもしれない。しかし生きて帰れれば、いい思い出になる。
(編集T)


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