北方謙三氏推薦! 命の尊厳を軽妙な筆致で描いた待望の感動長編
定価:1,600円(本体)+税 3月24日発売
謎解きのような推薦文をいただいた。
この間、三千綱がいた。
今も、三千綱がいる。
その間に本を一冊書いていた。
うむ、面白い。 ――北方謙三
主人公は小説家・楠三十郎なる人物だ。映画製作で借金を抱えたことから劇画原作の仕事を始めたり、どこか著者自身を想像させる設定。そんな三十郎の元に『テレビ麻布』開局記念のドキュメンタリー番組のレポーターとして南極に行ってほしいとのオファーが来た。椎名誠的作家活動をしている椎乃木誠氏にドタキャンされたことからの代役だとバレたが、三十郎は承諾し、南極を目指した。経由地のチリのプンタアレナスで、ある少女からクリスマスプレゼントとして大きな鳥かごを渡されるが、中にいたのは何と皇帝ペンギンの雛! どうやら南極に帰してほしいということらしい。少女の願いを背負って、三十郎の悪戦苦闘の旅が始まる――。
話は少し逸れるが、『ありがとう肝硬変、よろしく糖尿病』という高橋三千綱さんの著書がある。「糖尿病」に始まり、61歳にして「肝硬変」、その後「食道がん」「胃がん」を次々に発症した作家の闘病物語。小説である。小説であるが、自伝的小説だ。“病”をエネルギーに変換した男の物語だ。ラスト、露天風呂からあがった主人公はコクヨの原稿用紙を取り出して、尊厳死の宣誓書である「リビングウィル」を書き始める。延命措置はとるな。痛み止めを打っても意識があったら、一本燗酒をつけろ。戒名も決めた。病院から逃げ出すこともあるかもしれないから、病室には服とコートを吊るしておけ。
そして最後に書き記す。
生命力とは偉大なものだ。それを得るのはそれほどむつかしいことではない。ただ、悟ったと呟けばいいのだ――。
『さすらいの皇帝ペンギン』に戻る。
三十郎は南極で風雪に耐えるペンギンにこう囁くのだ。
「生き抜けよ。お前は生きているだけで価値がある」
この一文で、冒頭の謎が解けた。ような気がした。