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担当編集のテマエミソ新刊案内

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生成不純文学

  • 紙の本

読者の想像の斜め上を行く、古栗ワールドの真骨頂!!

定価:1,500円(本体)+税 2月24日発売

 ようやく木下古栗さんの書籍を刊行することができた!――これが偽りのない、担当者の心の声です。個人的な想いを吐露することは如何なものかと我ながら逡巡しつつ……。
 デビュー以来、業界内外のコアなファンに支えられ、現在三冊の単行本が刊行されていますが、単行本未収録作品を求めて文芸誌のバックナンバーを漁る読者もいるといいます。文学界でダントツのカリスマ性を持つ作家と言っても過言ではなでしょう。

 柴崎友香さん、津村記久子さん、岸本佐知子さん、豊崎由美さんほか、多くの作家、書評家、書店員さんがその稀有な才能を称えてします。
 今回の新刊に寄せて、こんな感想を頂きました。「どうしたらそんな風になっちゃうの!? という奇天烈な作品のオンパレード!! え? え? と戸惑いながらも夢中で読み耽りました。もしかして、こんな奇妙な人たちが周りに居たりして!? と思わず見回してしまいました。読み終わった後は、あなたも立派なフルクリスト! いままで味わった事のない小説です!!」(丸善 名古屋本店 竹腰香里さん)

 本作は全四編からなる短篇集です。うち一作は未発表作品で、ファンの方にとってはこのうえないプレゼントではないかと思います。そして初読のかたは心して読んでいただきたいと思います。従来の小説の概念をぶち壊す破壊力と、中毒性を持っています!

(編集M・F)

【収録作品】
 虹色ノート/人間性の宝石 茂林健二郎/泡沫の遺伝子/生成不純文学



絵・木下古栗
木下古栗(きのした・ふるくり)
1981年、埼玉県生まれ。2006年に「無限にしもべ」で第49回群像新人文学賞を受賞。著書に『ポジティヴシンキングの末裔』『いい女vsいい女』『金を払うから素手で殴らせてくれないか?』『グローバライズ』がある。





空振りに見えるが本当は特大アーチだ

 ついに文学の正体見たり。
 思えば長い道のりだった。戦後派が体験と妄想をブレンドした「状況証拠」と「自白」でかたどろうとして逃し、第三の新人がフェイントをかけて捕獲しようとしたが失敗し、内向の世代が言葉を尽くして説得したのに逃げられ、ポストモダン文学がゲームで完敗し続けたあの文学が、歴代の文学者が想像力の限りを尽くして探求してきた文学の正体が、下ネタばかりを書いていると言われるマニアックな現代作家のもっとも新しい一冊の中で書かれてしまった。なんとあっけない幕切れだったろう。
 とにかく粒ぞろい。巻頭作は、宇宙→オフィスビル→ベンチ→ベンチの裏に貼り付けられたノート→野糞という具合に、高いところから低いところへ、大きなものから小さきものへと読者の視界を見事に導き、しかもその小さなものが大便=「野糞」という無視できぬものであるという逆転の発想による秀作。野糞に色彩を持ち込むことで「虹」をかけようとする、大地と天空に跨(またが)る壮大な話である。続く二作目は有名脳科学者に名前だけなんとなく似てる人物による言論活動に焦点を当てる。次第に寒気がしてくるほど、この人物の胡散臭(う さんくさ)さ、薄っぺらさ、律儀さは、文学作品を読む我々そのものの姿といかに似ていることか。読者の肖像ともいうべき佳品。続く三作目は、内容はほぼゴミについてだが、単なるゴミではなくリサイクルゴミとその捨て方の逡巡(しゅんじゅん)の話である。終わらなさ、永遠に繰り返される気配と不意の中断は、ほとんど著者の小説のドヤ顔というべき名品。最後を飾る表題作は著者一流の文章術が光る傑作だ。この作品で著者がやってのけたのは、文学の生け捕り。この時代、文学も弱っているのだろうか、あっさり著者の素手に捕らえられてしまう。そして著者はそこに止(とど)まらなかった。地に足をつけぬ、重力とは無縁の筆力で、はるか彼方の宇宙空間へと特大アーチを放ったのだ、文学を葬るために、歴代文学者の幽霊と共に。

福永信●小説家
「青春と読書」3月号より転載



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