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担当編集のテマエミソ新刊案内

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サポートさん

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『サポートさん』日向蓬

定価:1,500円(本体)+税 8月5日発売

短編集『サポートさん』刊行記念インタビュー
「女だってサポートされたい!」

 他人のフォローしてばかりの人と、フォローされていることに全く気が付かない人。両者のあやういやりとりが描いたのが新刊『サポートさん』。その微妙な認識のズレが爆発につながったり、意外にいい方向に転がったり、さまざまな展開を見せて、8編を飽きさせず読ませてくれます。
「サポートさん」と「鈍感さん」の関係に対するこの細やかな観察は、日向さんご自身の経験からくるのでしょうか? 作品について、またご自身の「サポートさん」体験について、いろいろお話を聞いてみました。


◆悪い男は「ワル」だけじゃない。「悪気のない男」だって充分悪い。

そもそも、この作品を書くきっかけは何だったんでしょうか?

――もともとは、悪い男を書いてみたいと思っていたんです。皆が想像するようないわゆる「ワル」じゃなくて、もっといろんなタイプのダメな男がいるのではないかとずっと気になっていて。また、男の目線を借りて女を見たかったというのもあります。この頃、わりと自虐モードだったので、自分に対する突っ込みがそういう形で出たのかもしれないですね。

確かに、収録作の一編「同じ穴」では、6人の女と付き合う男が、それぞれの女に対して鋭く突っ込みを入れまくってますよね(笑)。しかもそれだけモテて遊んでいるのに全然楽しそうじゃないところに、実は彼のダメさが現れているという……。それは読んでのお楽しみとして。彼の他にも、学歴にプライドをもっている虚栄心の強いお坊ちゃんたちとか、優しいだけに臨界点を超えてちょっと恐ろしい精神状態になっている男性とか、いろいろ登場しますよね。

――本来は悪い人じゃなくても、行為の結果として「悪い人」になってしまうことってあると思うんです。「悪い人」の定義はいろいろですが、実は「悪気のない人」が一番やっかいなんじゃないかと。

確かに! 「総領の甚六」では、家でも会社でも家父長意識がついにじみ出てしまう男が描かれていました。

――本当に悪気がなくて、突っ込みどころ満載(笑)。当初は、自分が見えていない男たちの話だけになる予定だったんですが、やっぱり人間関係のアンバランスな面白さは男と女がいてこそと思い、女性視点の短編も入れたんです。ダメな男と一緒にいて自分もダメになったり、むしろおだてて相手をうまく使える人だったり、女性側の接し方もいろいろですよね。

それが「ワタルくん」に出てきた、結婚で傷つき今は一人になってひっそり生きている正子や、「一途な女」に出てくる、一家を切り盛りする逞しい妻・朱美というわけですね。でもちょっと異色な、子供が主人公の「オブラート」もありました。これは読後感が他とはちょっと違う、ストレートな明るさがあるように思います。

――今後は読後感のよいものをもっと書いていきたいと思っています。一番最後に書いた作品だったので、それが強く出たのかもしれません。

◆女の方こそ、もっとサポートしてほしいと思ってる

この短編集には、他人を戸惑わせているのに気づかない「鈍感さん」がいろいろ登場しますが、これは日向さんご自身のお勤めの経験が関係しているのでしょうか? 確か日向さんは”まさに「サポートさん」的な立場で働いてらしたんですよね。

――そうですね。私は“手に職”志向があったので、当初はタイピストとして働き始めました。それっていつの時代を思われるかもしれせんが、業界によっては最近まで使われていたんですよ。後年はシステムサポートをしていました。東京に出てきてからは、人事系システムの仕事などをしていました。東京に出て初めて気づいたこともいっぱいありました。大阪の方がファンデーションが二皮分濃い(笑)。私はこれを取るのに、東京に出てきてから2年はかかりました。あと、東京の方が人との距離がありますね。大阪の人は、良くも悪くも濃いというか。「飴ちゃんあげる」とか「あんた、これ、何々しとき!」とか、とにかく放っておいてくれないんですよね。私は波風を立てるのを極度に恐れる人間なので、仕事の場でなかなかイヤとは言えず困ることがよくありました。

「いい人」になってしまうんですね。

――そうなんです。本当に性格がいいわけじゃないのに(笑)。「受け入れても切りがない、主張しても切りがない」のを痛感しました。ただ「一番信用できないのは自分」だとも学びましたね。ある夏の暑い日、取引先のおじさんが冷たいおしぼりで顔や手を気持ち良さそうに拭くのを見て、「ええなあ、おっさんは」と思わず言ってしまったみたいなんです。でも自分では全然気づかなくて、周りがびっくりしていて。自分が何をしでかすかって、実は分からないんですよね。

そうですね(笑)。人によるかもしれませんが、日向さんはそういうタイプですか?

――完全に計画性なし、行き当たりばったりです(笑)。「ワタルくん」に出てくる正子みたいに、世の中の移り変わりが激しくてびっくりしているところはありますね。正子の時代は、女性が働き続けることがデフォルトじゃなく結婚退職が当たり前でしたから、離婚して生活のために働くなんて、そんな女性からすれば想像もできなかったでしょうね。私自身を振り返っても「手に職、一生モノの技術を」と思ってタイピストの資格を取ったのに、今や全然役に立たない。

「一生モノ」って日向さんのキーワードっぽいですよね。

――そうかもしれないです! ダイヤでもバッグでもなく、廃れない一生モノの何かに、きっと憧れがいあるんだと思います。そういう無形のものを手に入れることが一番難しいのかもしれません。社内結婚をしたかつての同僚たちを見てても、大変なのは明らかに妻の方。本当は女の人の方がサポートされたいんですよね。でもそれを望めるようになるのは、もう少し未来のことなのかもしれませんが。男性の皆さん、どうかサポートをしてくださいね!

担当より
日々不条理に直面している大人だったら、この短編集を読むと「いるいる! こういう人」「ああ、こういうことってあるよなあ~」と感じるところが多いはず。
特に表題作の「サポートさん」には、すぐに逆ギレしたり、自分のミスで周りが被害を蒙ることになっても謝りもしなかったり、という神経の図太い人たちが沢山出てきます。常に受身に回らざるをえない主人公の彼のような「サポートさん」は、この一編、必読です。これを読んで、早くガス抜きしておきましょう(ガス抜きにならないかも?)。
そして、神経が太く鈍い人に救われることがあるのも人生の面白いところ。「ワタルくん」は、最後にはじんわりと温かさが胸に広がる、担当お気に入りの一編です。
でも一番のお気に入りは巻末の「オブラート」。言いたいことをはっきり言わない大人にイライラしつつも、自分自身も秘めた願いがある10歳の小学生。これまでの自分から一歩踏み出すことになるその願いの行方を、ぜひ見届けてください。
苦さと切れ味のよさをベースに、温かさと清涼感を加えた読みごこち。まさに大人の味の短編集です。

(編集H)


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