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the SIX ザ・シックス

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『the SIX ザ・シックス』著者:井上夢人

定価:1,600円(本体)+税 3月5日発売

特殊な力を具えた
六人の子供たち

翌日の出来事を予知してしまう少女(「あした絵」)、
悪行を企む者の叫びが聞こえる少年(「鬼の声」)、
昆虫を強く呼び寄せる体質の幼児(「虫あそび」)など、
普通ではない特殊な能力を具えるがために、周囲から気味悪がられ、
疎まれる六人の子供たち。絶望しそうな状況のなか、彼らに関心を示し、
真摯に理解しようとする大人が現れる。
一つひとつの出会いが、子供たちのそれぞれに特異な日常に変化の兆しをもたらして──。
3月5日に発売された井上夢人さんの最新刊『the SIX ザ・シックス』は、
全六話からなる、井上さんが得意とされる超能力ものの連作短篇集です。
ところが、そもそものはじまりは意外にも全く別のところにあったのだとか……。
刊行にあたって、じっくりとお話をうかがいました。

物語の魔術師、井上夢人、待望の新作!
井上さんがどのようなことを考えて、このお話を作ったのか、
著者自身の口から語っていただきます。
(このインタビューは「青春と読書」3月号に掲載されているものです)

差別や迫害がダイレクトに出やすい
子供のほうが、書きたいことが伝わる

──井上さんの新作『the SIX ザ・シックス』は連作短篇集のスタイルですが、最初からこういうスタイルにしようという構想があったのでしょうか。

いや、全く思っていませんでした。第一話(「あした絵」)だけ発表時期が離れていますが、あれは運転の練習をしようと思って書いた単発の作品だったんですよ(笑)。免許を取るのが五十歳を過ぎてからで、遅かったんです、僕。短篇の依頼が来て、ちょうどいいなと思って、甲府あたりまで車で流して、慣れるまで走り回ったんですよ。疲れると美術館の駐車場に車を置いて歩いた。公園だとか、川沿いの道とか、行った場所を全部入れた。車の練習ありきで書いたのが第一話なんです。しばらくしてから、あの続きで何かできないでしょうかと言われて考えたのが、この連作なんです。

──車の練習ありきで書かれた作品だったとは(笑)。

だから、第二話(「鬼の声」)以降は固有名詞の使い方が違ってるんですね。実在の地名や構造物が出てきているのは第一話だけじゃないかな。電車も本当に時刻表通りに来るのか待ってて、大丈夫だと確認して書きました。第二話以降はほとんどが作った地名なんです。

──登場する超能力者は、四歳の女児から高校生まで幅はありますが、未成年という点は共通していますね。

最初は超能力者を社会的弱者というくくりで描こうという考えがあったんです。子供、ハンディキャップを持った人たち、老人……とか考えてたんだけど、子供のほうが連作としてのつながりをはっきりと意識して読んでもらえるんじゃないかと気がついて、二話目を書くときに、全部子供の話にしようと決めました。それに、短篇だと長篇のようなディテールの書き込みができない。エピソードを積み上げて人物像を浮かび上がらせるようなことは、文字数的に無理です。その点子供の立場だと、差別されていたり、迫害を受けている状況をわりとダイレクトに出しやすく、書きたいことを小説としていい形で伝えられるという思いもありました。

──連作の結末は何話目で思いついたのでしょうか。

ぼんやりとは二話目で考えていました。僕は長篇でもラストが見えないと書けないんです。細かいところは決めてなかったんだけど、井上ひさしさんの『十二人の手紙』ってラストが気持ちいいでしょう、ああいうまとまってくれるラストに辿り着けたらいいなあと。

戦争や殺し合いにならないための
仕組みを書けないものだろうか

──超能力のある子供自身ではなく、それを見守る第三者の視点で統一していますね。

超能力みたいなものって、本人にとっては邪魔か、当たり前のものでしかないわけです。それを驚きをもって見たり、ちゃんと評価できるのは第三者の目だろうと思うんですね。でも離れすぎるとインチキだという決めつけで終わってしまうから、すぐ傍にくっついているような人物を置いて、彼なり彼女なりから見た超能力を持つ子供を書いたわけです。本人の視点から書いたのではすごく暗い話になりかねない。能力は他人から見れば「ギフト」かもしれないけど、本人にとってはハンディキャップでしかない。殆どの人間には超能力など気持ち悪いとかいやだとかいう感じにしか受け取れない。第四話(「虫あそび」)のみさきの、虫が集まってくる能力なんて生理的にもうダメじゃないですか(笑)。でも、みさきにとっては普通のことで、別に気持ち悪くはない。むしろお友達なんです。それを嫌悪感として捉える第三者の視点が必要だったんです。本人の視点からちょっとズレたところにある、大多数の平均的感覚を持った人の視点ということですね。

──超能力ものといいますと、どうしても異端者の孤立を描いた話が多いですが、それを社会の役に立てるという発想が目新しいと感じました。

超能力でなくても構わないんだけど、人それぞれが持っている力をちゃんと引きだしてくれる人、見ててくれる人、認めてくれる人がいてこそ、みんなちゃんと社会的に機能するというか、社会の中で一緒に暮らすことが出来るわけですね。けれども、排除されてしまう才能や能力、性癖というのは、超能力に限らず結構あります。そういう場面を僕らは見てるし、油断すると自分たちも排除するマジョリティ側に回っていたりする。自分側と相手側に分けてしまう見方は本能的に持っているし、それはおそらくどうしようもない。どうしようもないんだけど、その「排除」を進めちゃうと果ては殺し合いや戦争になってしまう。そうならないために、受け入れる姿勢や仕組みが要るんです。そういうマイノリティと社会について直接的には書いてないですけど、小説の流れの中で考えていけるといいなあというのが発想の原点にありましたね。

──井上さんにとって超能力とは何でしょうか。

超能力ものって、思い返せば結構書いていますね。『オルファクトグラム』のように嗅覚がやたら敏感なのとかも超能力と考えると。どうして僕の小説に超能力が出てくるのかを考えてみると、「極端」だからですね、たぶん。人間が普通にやっていることを拡張してデフォルメしたところに超能力がある。それをもっともらしく作り上げられれば、デフォルメされた世界を描きやすくなる。そして、登場人物たちに極限状況を作りやすくなる。安易な方法と言われてしまうかな(笑)。でも、市井の人間たちが苦しみ悩みながら生きていく姿を書くのが王道の小説であるならば、僕にはデフォルメさせて人を描く方向の小説が、何となく合っている気がする。あまり自己分析は得意じゃないですけど(笑)。

岡嶋二人の頃に書けなかったものを
一人になって沢山書くようになった

──読者としても超能力ものはお好きですか。

小説にしても映画にしても、超能力ものは好きですよ。スティーヴン・キングは面白くてよく読みました。なかでも『ファイアスターター』『クリスティーン』などを読んで、こういうやり方があったのかと岡嶋二人の頃に思って、この種のエンターテインメントを書きたいなと。ただ、岡嶋の器では書けなかったんですよね。だから、一人になってから沢山書くようになった。

──登場する超能力者でお気に入りは。

子供の連作として続けようと思ったきっかけの、第一話の遥香は結構自分でも気に入ってますね。あとは、さっきも出てきた第四話のみさきかな。他の話の子たちはみんな悩んだりしてるけど、彼女はまだ純真で、平気で虫を呼んじゃう(笑)。それぞれ出たとこ勝負で作った能力だったので話が進むにつれてだんだん派手になってますが、性格や能力の配分は、結構バランスがいいんじゃなかろうかと思っています。

──超能力者を六人に決めたのはどの時点でしょうか。

五人目を書いた時かな。最初は七人で、タイトルも「チョーズン・セブン」が語呂としてウルトラマンみたいでいい気がしたんだけど、一冊ぶんという量的な考えもあって(笑)、七人ではなく六人にしました。
ただタイトルとしては「チョーズン・シックス」だとわかりにくいかもしれない。ひとりよがりになるのは避けたいと決めあぐねていたところに、「the」が対象を限定する言葉なので、つまり「選ばれた」みたいな意味があると教えられたんです。ザ・ワン(=選ばれし者)という言い方があるでしょう。あれと同じような感じで『the SIX ザ・シックス』。それに、「ザ・シックス」だと「シックスセンス(第六感)」を連想させるとも聞いて、自分ではそんなこと意識してなかったけど、ああなるほどなと。しっくりきましたね。

──一つの短篇が、そのようにして今回の『the SIX ザ・シックス』にまとまったのですね。続篇を書けそうな印象もある終わり方ですが、そのご予定はありますか。

普通はここから新しい展開があるのかもしれないけど、大体僕の小説はそういうところで終わるんですね。前に集英社で『the TEAM ザ・チーム』というのを出した時も、いろんな人から続きを書いてくれと言われたんだけど、じゃあ考えた人が書けばいいじゃないかと(笑)。シリーズ前提ではなく、一つの小説として『the SIX ザ・シックス』を読んでいただけたら嬉しいですね。

聞き手・構成=千街晶之/撮影=chihiro.

いのうえ・ゆめひと 作家。1950年福岡県生まれ。徳山諄一氏と岡嶋二人を結成し、82年『焦茶色のパステル』で第28回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。89年にコンビを解散してソロとなり、92年『ダレカガナカニイル…』を発表。著書に『チョコレートゲーム』(日本推理作家協会賞)『99%の誘拐』(吉川英治文学新人賞)『the TEAM ザ・チーム』等。


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