内容紹介

青春は気まずさでできた密室だ——。

青春は気まずさでできた密室だ——。
今、最注目の若手ミステリー作家が贈る珠玉の短編集。
始発の電車で、放課後のファミレスで、観覧車のゴンドラの中で。不器用な高校生たちの関係が、小さな謎と会話を通じて、少しずつ変わってゆく——。
ワンシチュエーション(場面転換なし)&リアルタイム進行でまっすぐあなたにお届けする、五つの“青春密室劇”。書き下ろしエピローグ付き。

「早朝始発の殺風景」
早朝始発の列車でなぜか出会った同級生(あまり仲はよくない)の思惑はどこにある——?
男女の高校生がガラガラの車内で探り合いの会話を交わす。

「メロンソーダ・ファクトリー」
女子高生三人はいつものファミレスにいた。いつもの放課後、いつものメロンソーダ。
ただひとつだけいつも通りでないのは、詩子が珍しく真田の意見に反対したこと。

「夢の国には観覧車がない」
高校生活の集大成、引退記念でやってきた幕張ソレイユランド。気になる後輩もいっしょだ。なのに、なぜ、男二人で観覧車に乗っているんだろう——。

「捨て猫と兄妹喧嘩」
半年ぶりに会ったというのに、兄貴の挨拶は軽かった。いかにも社交辞令って感じのやりとり。でも、違う。相談したいのは、こんなことじゃないんだ。

「三月四日、午後二時半の密室」
煤木戸さんは、よりによって今日という日に学校を欠席した。
そうでもなければ、いくらクラス委員だとしても家にまでお邪魔しなかっただろう。
密室の中のなれない会話は思わぬ方にころがっていき——。

「エピローグ」
登場人物総出演。読んでのお楽しみ。

早朝始発の殺風景

早朝始発の殺風景青崎有吾
2019年1月4日(金曜)
208P
四六判ハードカバー
ISBN:978-4-08-771174-5
定価:本体1450円+税

著者プロフィール 著者メッセージ

青崎有吾(あおさき・ゆうご)
1991年神奈川県生まれ。明治大学文学部卒業。2012年『体育館の殺人』で鮎川哲也賞を受賞し、デビュー。著書に『水族館の殺人』『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』『図書館の殺人』『ノッキンオン・ロックドドア』の他、「アンデッドガール・マーダーファルス」シリーズがある。

「密室劇」が大好きなので、全部密室劇の短編集を書きました。大変でした。彼らの小さな物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。 青崎有吾

試し読み

早朝始発の殺風景

 プラットホームには朝が満ちていた。

 朝の雰囲気とはしたたかなもので、その柔らかな光に照らされれば、どんなに退屈な景色でも静謐で平穏で爽快に様変わりしてしまう。ここ横槍線・鶉谷駅も例外ではなく、薄汚れた椅子から錆びた自販機、防犯カメラのぶらさがった柱から雨漏りのひどいトタン屋根に至るまで、すべてが朝に吞み込まれていた。

読む

応援コメント(随時更新)

青崎さんは学園物が本当に上手い!
リア充な高校生活を堪能したのに違いない。(嫉妬)

名前以外は、何処にでもありそうな場所、居てそうな男子女子高生なんだけど、こんな日常の中にも、ささやかな事件は起こり続ける。

そしてワンシチュエーションながら、緻密に本格推理の形式に則り、見事に論理的に問題は解決されて行くのであった。

まるで何事も無かったかの様に。

エピローグのオールスターキャストは最高だぁ。
下の名前を知り合った後の二人の物語が読みたいなぁ。

ああ、青春!

大垣書店 豊中緑丘店・井上哲也さん

期せずして一緒に行動しなくちゃいけなくなったクラスメイト。
ずっと仲良しでいられると思っている友達。
今まで特に気にしていなかった後輩。

同じ距離感のまま、毎日が過ぎるなんて嘘なんじゃないかと思います。時に学生時代は。
一日学校を休んだだけで、クラスの雰囲気が自分によそよそしく感じる時があるように。
肌感で、気配で、言葉の切れ端で。
なんとなくいつもと違う距離を感じてしまう——。
急に近くなるときもあれば、これまた急に遥か遠くになることも。

そのときにいつも漂う「気まずさ」が、この作品にはつまっています。
あの感じ、あの緊張をこんなにリアルに書けるのは、さすがは青崎さん。
本当に素晴らしいです。

短編五編の登場人物全員の肩に手を置いて、訳知り顔で言いたいです。
「わかるよ」
と。(そして、新たな気まずさが生まれる……)

ミステリー好きの方にも太鼓判の短編集となっております。
ぜひ、ご一読を。

集英社 編集担当・S

書評

武田綾乃さん書評

気まずさと少しだけ仲良くなれる

普段は遠目で眺めているだけの、二人きりになるとちょっぴり気まずいあの子。共通の話題も思いつかなくて、だけど距離を縮めたくて、じりじりした気持ちになる。学生生活の、誰かと仲良くなるための最初の一歩。もしくは、仲の良い友人たちとの間で起こるちょっとした不和。つい先ほどまで息をするのと同じくらい無意識に続いていた会話がふつりと途切れ、隣にいることが当たり前だったはずの関係がぎくしゃくし始める、不意打ちのような一瞬。この作品は、そんな日常の中に転がるふとした瞬間を爽やかに切り取った青春ミステリ短編集だ。

第一話に登場する少女、殺風景さんはこの物語の象徴的な存在だろう。制服姿で始発電車に乗り込んだ『僕』は、そこでばったりと大して親しくもないクラスメイトに出会う。なぜ彼女はこんな時間に学校へ向かう電車に乗っているのか。疑問を追いかけながらページを読み進めるうちに、読者は別の違和感を覚える。即ち、どうして主人公はこの電車に乗っているのか、という謎だ。秘密を持った者同士の緊張感とどこか甘酸っぱさの混じった探り合いが進むにつれて、読者は二人の抱える謎の答えを知ることとなる。

青崎有吾さんの作品の魅力といえばやはり、ロジカルな謎解きと、魅力的なキャラクター達の織り成す軽快な会話だろう。本作でもその持ち味は遺憾なく発揮されている。少年少女たちの等身大の会話を楽しんでいるうちに、気付けば謎に引き込まれる。謎を追いかけているうちに、気付けば彼らを好きになる。

「青春ってきっと、気まずさでできた密室なんだ」。

第五話に登場する煤木戸(すすきど)さんの台詞だ。その言葉だけで、彼女という人間をうっすらと理解できる。青春は振り返る分には美しいが、渦中にいる間は息苦しい。だが、その苦しさもまた眩(まばゆ)いものであったと、過ぎ去ってから気付くのだ。

五つの物語の中で、それぞれの青春が明るいタッチで丁寧に紡がれる。物語のエピローグは、最後まで読んだ読者に与えられたご褒美に違いない。

(「青春と読書」2月号より転載)

大森望さん書評

“気まずい二人”の青春本格ミステリ

大学在学中に鮎川哲也賞を受賞してから六年。青崎有吾は、毎回趣向を凝らした新作を発表、青春本格ミステリの若きエースとして君臨している。八冊目の著書となる『早朝始発の殺風景』もその例に洩れない。高校生の日常の一シーン(三十分前後)だけを切りとり、二人(または三人)の会話から、意外な真実を徹底的にロジカルに導き出す、全五話+エピローグの連作集。

たとえば表題作は、始発電車に乗ったら、意外にも同じクラスの“普段あまり話さないほうの”女の子が車内にいた——というシチュエーション。三谷幸喜の対談集のタイトルを借りれば、まさに“気まずい二人”。「加藤木くん」と名前を呼ばれた語り手は、「……おはよう、殺風景」と仕方なく挨拶を返す。まさか、タイトルの“殺風景”がJKの苗字だったとは——という読者の驚きを乗せたまま電車(千葉市郊外の架空の私鉄・横槍線)は走りつづけ、たがいに“相手はなぜ始発電車に乗っているのか”を些細な手がかりと会話から探る推理合戦がスタートする。

続く「メロンソーダ・ファクトリー」では、学園祭のクラスTシャツのデザインを決める相談のためファミレスに集まった三人のJKの会話から、思いがけない事実が浮かび上がる。「夢の国には観覧車がない」は、架空の遊園地、幕張ソレイユランドの観覧車に乗る男子高校生二名(先輩と後輩)が、一周する間にある秘密を発見する……という具合。“日常の謎”というより、もはやこれは“人間の謎”か。人間関係のキーワードは“気まずさ”。ある登場人物いわく、「青春ってきっと、気まずさでできた密室なんだ。狭くてどこにも逃げ場のない密室」。

各話それぞれの“気まずい”やりとりで披露される華麗なロジックは、“平成のエラリー・クイーン”の異名を持つ青崎有吾の面目躍如。リアルな会話と冴えたディテールもすばらしい。

(「青春と読書」2月号より転載)

米澤穂信×青崎有吾 対談

青春とミステリの、特別な関係

米澤穂信さん二年ぶりの新刊『本と鍵の季節』は、図書委員の男子高校生コンビが謎に挑む、爽やかでちょっとほろ苦い図書室ミステリ。一月刊の青崎有吾さん『早朝始発の殺風景』は、始発電車や遊園地の観覧車などさまざまな状況で推理劇がくり広げられる連作短編集です。デビュー作以来、ともに本格ミステリの実力派として名を馳せてきたお二人。それぞれの新作にこめた思いとは? 意外な初対面のエピソードから、"青春とミステリ"の関わりまで、たっぷり語り合っていただきました。

聞き手・構成=朝宮運河

対談を読む

早朝始発の殺風景

早朝始発の殺風景青崎有吾
定価:1,450円(本体)+税
発売日:2019年1月4日(金曜)発売

青春は気まずさでできた密室だ——。
今、最注目の若手ミステリー作家が贈る珠玉の短編集。始発の電車で、放課後のファミレスで、観覧車のゴンドラの中で。不器用な高校生たちの関係が、小さな謎と会話を通じて、少しずつ変わってゆく——。

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