『ここに消えない会話がある』山崎ナオコーラ
定価:1,100円(本体)+税 7月24日発売
(1)■「職場」を舞台にしたワケ――「働くって、尊いですよね。」
今回の「ここに消えない会話がある」では、会社以外のシーンがほとんど出てきませんね。本当に、言葉どおりの「職場」小説ですが、そもそも、なぜ「職場」を舞台にしたのでしょうか。
登場人物も25歳から27歳と、ごく近い年齢の若者たちですが、ナオコーラさんがお勤めになっていたときの感覚や、働きながら考えていたことが生きていると思われますか。
ただ、そういうことを主張する小説にはなっていませんよね。
群像劇として、うまくバランスがとれたんですね。
なるほど。だから、「職場」の雰囲気を淡々と映し出すと同時に、そこで働く若者たちの心の動きにこれだけリアリティを持たせられたんですね。
それは、会社勤めをされていたころからの実感ですか?
それは、小説を書くことがお金を稼ぐための手段ではないということでしょうか?
すごくストイックですね。世の中には、仕事は完全にお金のためで、自分の人生は違うところにある、という分け方をしている人もいますよね。人生の豊かさや楽しみは、仕事以外で充実させるというような……。
日々の生活も労働も全て芸術、その感覚はこの作品に出ていますね。しかも、その仕事が社会的にすごく意義のあることとか、その人でなければできない仕事というわけではなくても、「自分は絶対に校正でミスをしない」とか、その人なりのプライドを持って働いています。