2014年に始まり、連載期間は7年にもおよんだ 大貫亜美さんのエッセイ『たぬきが見ていた』。今年25周年を迎えたPUFFYとしての活動はもちろんのこと、 多岐にわたる趣味や娘さんのことなど、 時に笑えて時にグッとくる盛りだくさんな一冊となりました。「書く」ことを通して、感じたこと、見えてきたことを語っていただきました。

初出 「小説すばる」2021年6月号

聞き手・構成┃タカザワケンジ

撮影┃織田桂子 ヘア&メイク┃中山友恵

書けば書くほど記憶が呼び起こされる。 エッセイを書くのには良いタイミングでした。

─『たぬきが見ていた』は大貫さん個人のエッセイ集としては初。本誌に7年にわたって連載されたものの中から選りすぐりがセレクトされました。本にするにあたって読み返されてどうでした?

大貫 「面白っ」て思いました(笑)。拙いところももちろんありますけど、面白いこと書いてるなって、他人事みたいに感じました。

─毎月の連載はどんなふうに書かれていたんですか。

大貫 この日が締切りですと言われてから、何を書こうかなって考えるんですけど、書くことを決めるまでが長い。いっぱしに机に座ったまま何もしない日とかもあったりして。思いつかない時は担当編集者さんに相談しました。編集者さんが「こういうことが知りたいです」と言ってくださるので、それを中心に。これを書こうと決めてからは早いです。

─さーっと書けてしまうものですか。

大貫 話の取っかかりというか、導入部分だけを決めて書き出すんですが、書いているうちにどんどん長くなっちゃって。最初に書こうと思っていたことではなくなっても、その話で引っ張れるなら、そのまま進む感じでしたね。

─書きながら考える。即興的ですね。それで着地点が見えてくるものですか。

大貫 自然と着地してるんです。入れたかった話もうまいこと入って落ち着くみたいな。

『たぬきが見ていた』書影

大貫亜美『たぬきが見ていた』(集英社)

─大貫さんは作詞もされていますけど、作詞とエッセイは違いますか。

大貫 そうですね……、今回のエッセイに関してはすごく作詞に似ていると思いますね。書きたいことをいくつかあげて、それを組み合わせて最後に落ち着かせる、という方法が。歌詞を書く時も、こんな曲にしようと最初に考えるんです。たとえば、女の子っぽい曲にしようという時は、女の子っぽいワードをばーっと挙げていく。そのワードを組み合わせて作っていきます。エッセイも同じような感じですね。

──刺繡や縫い物、釣りやバイク、読書やゲームなど趣味の話が多いですね。

大貫 ぜんぶ中途半端な状態ですけどね。向上すればいいなと思いながらも、それぞれを極めきらず、並行してやっているから趣味が増えていくんです。プロになれるぐらい夢中になるわけではないけれど、このまま行くぞ! みたいな感じで楽しんでます。

─単行本のカバーは大貫さんご自身の刺繡ですね。カバーをご自身の刺繡でというのはどなたが?

大貫 私が言い出したんです。ちょっと後悔しましたけど(笑)。というのは、こんなにたくさん一枚の布に刺繡したことがなかったんですよ。子供の幼稚園のスモックのポッケにお花を縫ったりとかはしていたんですけど、ちゃんと人様に見せるようなものはやったことなくて。

─下描きしてから一針一針?

大貫 刺繡って下描きしても縫っちゃうから結局見えなくなるんです。アウトラインしかわからなくて、ずっと、こうかな? でもパンダの毛の流れはこうだからな、とか悩みながら進めました。

─刺繡や縫い物はお母さんの影響だそうですね。趣味の原点。

大貫 そうですね。小さい頃は趣味と思わずにやってたんですが、大人になって仕事するようになり、仕事以外の好きなことを趣味って言うようになりました。

─釣りのために小型船舶免許を取られたというエピソードも書かれています。

大貫 ブラックバスを釣るのが流行った時に、バス釣りに適したボートを操縦したくて取ったんですよ。バイクも中型二輪(現・普通自動二輪)の免許を持っているんですが、免許を取ることが意外と好きなのかもしれない。

─趣味をやめたりはしないんですね。

大貫 やめる理由がないんですよね。たとえば、釣りをやりたいなっていう人がいたら、一緒に行こうよってなりますし、娘にこれを縫わなきゃいけないという時は、じゃあ、娘と一緒にやろうとなる。けっこう活躍の場があるんです。

─連載を始めた頃は、編集者から「暗い趣味」について書いてほしいと言われたそうですね。大貫さんがデビュー当時、マネージャーに「趣味は暗いこと全般だね」と言われたエピソードが発端で、暗いと言われようとご自身の趣味にポジティブな大貫さんの姿を表現してほしいと。

大貫 そうでしたね。趣味は、暗いと言われるものでも、自分の気持ちを豊かにすると思います。釣りだとみんなで行くので、実は社交的になれて、人間関係も広がります。

─極めなくてもいい。

大貫 そう、極めなくても大丈夫。でも極めたほうがいい(笑)。仕事につながるきっかけになるかもしれないですし。いいことしかないので、暗いと言われようと自信を持って突き進んでほしいですね(笑)。

エッセイだから書けた家族のこと

─エッセイではPUFFYの活動について書く一方で、「娘小狸」こと娘さんのお話や、ご両親のことなども書いています。私生活をここまで明かしたことはこれまでなかったですよね。

大貫 ないですね。自分の子供が生まれた時から順に写真を撮って、インスタに投稿している人とかいるじゃないですか。そういうことをしたい気持ちはあったんですが、日記は書かない人間ですし、育児日記も三日で飽きて。なので、今回エッセイに娘のことを書いたことで昇華されたところがありました。娘がお母さんになった時に読んでくれたらいいなってどこかで思いながら書いていました。

─この七年間で、書き始めた頃は小学生だった娘さんが高校を卒業された。

大貫 いやだ、泣けちゃう(笑)。娘が最近バイトしようかなと言い出したので、お店で働くんだったら毎日通っちゃうよって言ってるんですけど。

─愛がすごいですね。

大貫 でも一方通行なんですよ。向こうはすごく嫌がっているので(笑)。

─思春期の娘さんを見て、ご自身も自分が子供の頃はどうだったかとか思い出されて書いていますよね。エッセイを書くにはすごくいいタイミングだったんじゃないかと。

大貫 たしかにそうですね。ちょうど自分と娘を比較して思い出せる時期でしたね。書けば書くほど記憶が呼び起こされて、覚えているものだな、と思いました。娘がもっと小さい時だったらエッセイを書く余裕がなかっただろうし、もっと上になると、娘もひとり立ちするだろうから、自分が子供だった頃のことを思い出して比較する必要もなくなるだろうし。いまならまだ、自分が18歳の時は学校から真っ直ぐ家に帰ってたぞ、とか本人にも言ってあげられる年代でもあるので、良かったと思います。

─ホテルマンだったお父さんのエピソードも楽しいですね。グッときたのは大貫さんが出産された時のこと。大貫さんはお父さんが男の子の孫が欲しかったのではないかと思い「女の子でごめんね~」とおっしゃった。すると、「いや、女の子で良かったよ。女の子はずっとお前のそばにいてくれるからな」と答えられたと。

大貫 うちのお父さんって、本当に何にも考えてないようなタイプの人なので、まさかそんなことを言われるとは思わず、ほー、ほーって驚きました。娘が成長したいま振り返ると、なおさら、ほほーって思います。実際、娘で良かったですし。

─家族のことって、ふだんはわかってないことがたくさんあるような気がします。ちょっとした一言で、ああ、こういうふうに考えてくれていたのかと。

大貫 そうなんですよね。自分の子供の頃のことを思い出すことで「お母さんはあの時こんな気持ちだったんだ」ということが最近よくわかるんです。そういう意味でもエッセイを書いて良かった。

女性として心と身体が変化する微妙な年齢ってあるじゃないですか。自分の親はこの年頃の時にどうしてたんだろうと考えますね。母からイライラされたこともないですし、そういう話を聞いたことがないので。

エッセイに書くことで、「娘には言わないけれど知っておいてほしいこと」がいずれわかってもらえるんじゃないかなと思っています。いろいろ言いたいことはあるけど、なかなか直接は言えないから。

生まれ変わったら声優になりたい

──趣味の話に戻りますが、ヘア&メイク中はずっと『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の話をされていたとか。

大貫 二回目、三回目も観に行く予定です。一回目は感動しながらも、綾波レイ役の林原めぐみさんの声が気になって、ストーリーに集中しきれてない時があって。私はずっとボイストレーニングをやっているんですけど、ボイトレでいうミックスボイスっていう部類なのかなと思ったんですよ。裏声じゃないけど、低くて通ってて……。でも、いくら分析しても謎すぎて、林原さんにLINEしたんです。

─ご本人に(笑)。

大貫 友達なんです。「あの声ってどうやって出してるんですか」って質問したら、「こういう本が出ました」とお返事が。『林原めぐみのぜんぶキャラから教わった』という本です。「この本に綾波の声についても書いてます。送りましょうか?」って言ってくださったんですけど、すぐにネットで買ったので「いまポチりました」と返しました。声優さんの世界って本当に面白いんですよ。生まれ変わったらモデルになってモテモテが理想ってずっと言ってたんですけど、最近は声優に生まれ変わりたいって思ってます。

─声優もいいですけど、小説家はどうですか。『たぬきが見ていた』のエピソードや描写を読んでいると、小説もお書きになりそうな気がしたんですけど。来世まで待たずとも。

大貫 ないですね(笑)。小説は、ぜんぶ自分で、ありもしないことを一から書くじゃないですか。何をどうしたら、そんなありもしないことを起承転結できるのかがよくわからないんですよ。

─フィクションだから、エッセイよりも人に気を遣わずに自由に書けるかもしれないですよ。

大貫 うーん、そうですかね。でも、そもそも私と由美ちゃんがインタビューを受ける時って、「PUFFYの発言は八割ウソなんだよ」っていうスタンスなんです。本当のことは言ってるんですけど、八割ウソという前提で発言しているので、PUFFYの歴史そのものが小説みたいなものなんです。ラッキーが続き過ぎてちょっとウソっぽいですし。

─なるほど。存在そのものが小説みたいですね、たしかに。

大貫 だから、あらためてウソをついていいよって言われると、「え! どうしよう」ってなっちゃう。でもここでは、文学賞の受賞パーティでお会いしましょう、と言っておいたほうがいいですか(笑)。