井戸川射子さんの小説「印象」は、“好意”の複雑さを寓話的に、小池水音さんの小説「あのころの僕は」は、“記憶”のゆらぎを繊細に描く。
平野啓一郎さん、綿矢りささん、中村文則さんのドストエフスキーにまつわる講演、斎藤真理子さん、温又柔さんの対談は、昨今の世界情勢を見つめるための羅針盤に!

【小説】
井戸川射子「印象」
好意の始まりは、漏れ出る光に気づくだけで良い。短い髪と長い髪、魚と海藻、真珠採りと宝石拾い、大きな山と小さな山……それぞれの間に生じる「好意」、その手触りと複雑さをそのまま言葉で表そうと試みた、著者の新しい地平を拓く一作。

【小説】
小池水音「あのころの僕は」
いつかきっと、いろんなことがわかるようになる。大きな喪失を経験した5歳の僕に、大人の誰かがそう言った。不確かな記憶の奥底にある、確かなもの――自分を形作るそれらを僕は、いま、手繰り寄せようとする。

【特集:ドストエフスキー『悪霊』の150年】
代表作『悪霊』の出版から150年となる2023年夏、アジアで初めて国際ドストエフスキー学会が開催され、最終日には中村文則、綿矢りさ、平野啓一郎の三氏が講演し語り合った。その模様と亀山郁夫氏による大会開催の軌跡(エッセイ)を掲載する。


講演/中村文則「衝撃と宿題」
18歳でドストエフスキーに出会い最も大きな衝撃と救いを得た。その予言書的な側面と、現代作家として受け取った宿題とは。ロシアとウクライナが戦争状態の今、ドストエフスキーが生きていたら何を思うか。

講演/綿矢りさ「笑ってはいけないドスト」
『カラマーゾフの兄弟』は賑やかなお騒がせ一家の話ではなかった! ホラーとコメディの境についての考察から始まる、読書の原点に返ったような先入観なしの読解は、研究者に大きな刺激を与えた。

講演/平野啓一郎「〈影響〉の構造化と愛」
ドストエフスキー作品における〈影響〉関係をダイナミックに構造化し、読み解く。宗教、思想、歴史、登場人物、時間……複数の次元において、〈影響〉を与える/受けるの関係と連鎖が緻密に張り巡らされていた。

質疑応答/亀山郁夫×中村文則×綿矢りさ×平野啓一郎「講演を終えて」
太宰との共通点、『白痴』で描かれたMe Too精神、死までの時間についての考察……白熱する語りの中に、今のこの時代に息づくドストエフスキーの文学が浮かびあがる。

エッセイ/亀山郁夫「狂熱の、「美しい」五日間――第18回国際ドストエフスキー学会名古屋大会の軌跡」
2019年のボストン大会で次回会場に名乗りを上げたものの、国際情勢に翻弄され二度の延期を重ねることに。悲願の開催の舞台裏を描く。

【対談】
斎藤真理子×温又柔「韓国文学と日本語文学のあいだで――「さえずり」に耳をすませる」
斎藤さんが訳した韓国の文学作品に心つかまれてきた温さん。小説内の「人たち」は、いったいどのように生まれ来るのか。昨年九月にUNITÉで開催されたお二人のトークイベントを載録する。

【第48回すばる文学賞】
みずみずしく意欲的な力作・秀作をお待ちしています。募集要項は http://subaru.shueisha.co.jp/bungakusho/  をご覧ください!

連載小説、対談、エッセイ、コラム等、豊富な内容で毎月6日発売です。