プロフィール
-
福田 和代 (ふくだ・かずよ)
一九六七年神戸市生まれ。神戸大学工学部卒業後、システムエンジニアとなる。二〇〇七年、航空謀略サスペンス『ヴィズ・ゼロ』でデビュー。大藪春彦賞候補となったクライシス小説『ハイ・アラート』、テレビドラマ化され話題となった『怪物』など、緻密な取材に裏付けされた、骨太でリーダビリティ溢れる作品を次々に上梓。「航空自衛隊航空中央音楽隊ノート」シリーズ、『緑衣のメトセラ』、『星星の火』、『黄金の代償』、『堕天使たちの夜会』など著書多数。
担当編集より
愚直で必死な姿はいつまでも応援したくなる
サイエンス×忍者と申しましても、先行の某傑作的な科学忍法は登場しません。
眠らない少女が、持てる力をすべて使い尽くして、戦い、生き、もがく。
その葛藤は私たちと同じ。愚直で必死です。
読み進めるうちにどんどん主人公の史奈を応援したくなること間違いなし。
……などと、私が言葉を重ねますよりも、小説すばる連載時より応援し続けてくださった北大路公子さんの書評をご高覧いただきたく存じます。
作品を読む前にはすぐにでも読みたくなり、読んだ後にはより一層作品が愛しくなる、そんな素敵な解説です。では、どうぞ!
【書評】評者:北大路公子(ライター、エッセイスト)
忍者の末裔の少女、
生きる喜びと戦い
わずか七日間の物語である。
滋賀の山間に暮らす〈梟〉と呼ばれる人々。忍者の末裔とされる彼らの村が、ある夜、何者かに襲撃される。一人死亡、残り十二人の住民は全員行方不明。村の掟に従って風穴に隠れていた十六歳の史奈だけが、たった一人で取り残される。悲しみながらも、彼女は決意する。自分が仲間を探し出すのだと。
冒険譚のような始まりの本書には、わくわくする仕掛けが随所にちりばめられている。「眠らない」という〈梟〉の特殊な性質。一族に受け継がれる高い身体能力。神社を使った秘密のネットワーク。「カクレ」や「シラカミ」といった意味ありげな符牒。それらすべてが史奈の強力な武器となり、物語を推し進めていくのだ。わくわくしないはずがない。
だが、本書の魅力はそれだけではない。当初、史奈にとっての世界は二つにきっぱり分かたれていた。「梟」と「外」、「里」と「下界」、「味方」と「敵」。それは幼い頃から教え込まれてきた考え方であり、その考えが一族の存在と血を守ってきたといってもいい。史奈自身も「梟」の「里」で「味方」とともに生きていくのだと信じていたのだ。
そんな彼女の目に、外の世界はどう映るのか。暴力的な環境の変化は、どんな歪みをもたらすのか。読者の心配をよそに、彼女はすべてを受け入れる。「外」の者との友情や愛情、隠してきた能力への科学的アプローチといった相反する価値観が、史奈という聡明な少女の中で無理なく一つに融合されていくのである。どちらか一方が正義なのではない。善悪や正邪を判断する必要もない。異なる存在をただ認めるだけで、生きる喜びが広がることもあるのだと、本書は史奈の姿を通して見せてくれるのだ。
わずか七日間の物語と書いたが、眠らない〈梟〉にとっては、人生自体が長い長い一日のようなものなのかもしれない。悠久を見渡し、変化を包み込むような一冊である。
北大路公子(きたおおじ・きみこ)●ライター、エッセイスト
(「青春と読書」3月号より転載)
新着コンテンツ
-
お知らせ2024年04月17日お知らせ2024年04月17日
小説すばる5月号、好評発売中です!
注目は赤神諒さんと宇佐美まことさんの2大新連載! 本多孝好さん初の警察小説の短期集中連載も必読。
-
連載2024年04月15日連載2024年04月15日
【ネガティブ読書案内】
第29回 インベカヲリ★さん
「常識に汚染されそうになった時」
-
お知らせ2024年04月10日お知らせ2024年04月10日
『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』が2024年本屋大賞翻訳小説部門第1位を受賞!
『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』(ファン・ボルム 著 牧野美加 訳)が2024年本屋大賞翻訳小説部門第1位に決定しました!
-
お知らせ2024年04月06日お知らせ2024年04月06日
すばる5月号、好評発売中です!
注目は松田青子さんの新連載と山内マリコさんの連作小説! キム・ソヨンさん×文月悠光さん、桜庭一樹さん×かが屋のお二人の対談も必読!
-
新刊案内2024年04月05日新刊案内2024年04月05日
22歳の扉
青羽悠
小説すばる新人賞、史上最年少受賞から8年! 二十代前半の「不変」と「今」が詰まった圧倒的青春小説!
-
お知らせ2024年04月01日お知らせ2024年04月01日
第9回渡辺淳一文学賞が塩田武士さんの『存在のすべてを』に決定!
本年度、第9回渡辺淳一文学賞は塩田武士さんの『存在のすべてを』に決定しました。