【エッセイ1編をまるごとご紹介!】

 

娘小狸のお誕生日

 東京は3月なのに雪が降りました。その日はちょうど用事があって表参道にいたんです。そしてお寺の境内を見ると桜がちらほら。しかし空を見上げると雪。3月なのに雪って……。みんな衣替えし始めてる時やん。凍えながら用事を済ませて思いました。「韓国に帰りたい」と……。

 2018年3月。

 実はわたしには前歯のよく似た娘がおりまして、名は娘小狸と申します。もちろん正式な名前ではございません。わたしが「大貫」という名字のため、小学生の頃、学校の机に貼られたお名前シールの「大」の真ん中にいつの間にか「、」が描かれ、「大貫がたぬきになった〜!」という出来事があったからか、わたしはなんとなくたぬきに愛着があり、娘が小さい頃は豆狸と称してSNSなどでお話に出させていただいておりました。この連載もそれがあってこその『たぬきが見ていた』なのです。そんな豆狸は成長していつしか小狸になり、見ず知らずの子供にもとても優しく、酔った大人にも寛容な心の持ち主に育ちました。そして娘小狸は今年の3月で15歳になったのです。毎年頭を悩ませる一人娘のお誕生日。誰と過ごしたいかな、どんなお誕生日会をしたいかな、どんなプレゼントが欲しいかな……などなど2月あたりからわたしは焦りだすのです。小さい頃はクラスのお友達とそのご家族、みんなまとめてマザー牧場からのイチゴ狩りバスツアー(お弁当とおやつ付き)を敢行。スノーボードをやり始めた年からはスノボ仲間とスノボ旅行からの宿泊先でのパーティー。毎回、来てくれたお友達にお返しを用意して、バスの道中では子供たちが飽きないようになぞなぞ大会を催し、パーティーではビンゴや娘小狸クイズを考え、イベントサークルでも作ろうかなと思うぐらいの企画力を発揮いたしておりました。そんな派手なパーティーを数回過ごした娘小狸はK-POPにハマり、憧れの地は雪山から韓国もしくは新大久保に変わりました。そこで母は考えあぐね、娘小狸が大好きな親戚・友達を集め、目隠しをして新大久保のチキン屋さんにサプライズで連れて行くことを計画。わたしの友達に全面協力してもらい、その時娘小狸が好きだったK-POPアイドルのお面を作り、到着と同時に目隠しを取るとそこには娘小狸の好きな人しかいない空間で全員が指ハートを作ってお祝いしてくれる、という夢のような光景が広がっていたのです。娘小狸はとても喜んでくれました。今までのお誕生日で一番嬉しかった、と言ってくれました。それが去年のお誕生日です。そんな去年を超えなければいけない今年の誕生日……もうネタは尽きたかのように思われたところに、実現したら嬉しくてウレションしちゃうんじゃないかなわたしだったら絶対しちゃうな! というフラッシュアイデアが生まれました。

 一応念のため、今年の誕生日の過ごし方リクエストを聞いてみたところ、今年は仲良しのお友達一家とお食事がしたいというこぢんまりリクエストを受け、年頃なのかしら……と若干出鼻をくじかれた感じになりました。がしかし! わたしのフラッシュアイデアは実現の兆しが見えてきたのです。

 まずは娘小狸のお誕生日の前日。鶴の恩返しよろしく自室にこもり、バースデーカードと共に一枚のカードを作成するわたし。そこにタイミング悪く登場する娘小狸を追い払って完成。それを綺麗な紙で包んでリボンをかけて、翌日娘小狸の好きな中華料理店でお友達一家を招いてのパーティーを開催しました。と言っても派手な演出は一切なし。強いて挙げればお誕生日のケーキの代わりに中国ではおめでたいことの象徴として食べるといわれている桃まんが出てきたぐらいです。この桃まん、本来なら直径30㎝ ほどのでっかい桃まんの中に小さい桃まんが入っていて、主役がお客さんに一つずつ配ると幸せをおすそ分け♡みたいなことになるとお店の方に伺ったことがあります(桃まんの様子の詳細はパフィーの「パフィピポ山」という曲のMVをご覧いただけると、大きな桃まんと小さな桃まんの関係性がわかります。是非どうぞ)。しかし今回は小さい桃まんが人数分載った大皿にろうそくが立っていて、なんとなくお願い事をさせてからろうそくを吹き消し、チビ桃まんをゲストに配ったらいよいよプレゼントタイムです。

 ありがたいことに皆さんからプレゼントをいただいて喜びを隠しきれない娘小狸を見て、子育てにはこういう喜びもあるんだなぁとしみじみ思いました。直接的ではないものの、自分が大切に育てているものを好いてくれる人が他にいてくれて、生まれたことを喜んでくれるなんて。そんなことを考えていたら、ついにわたしの番がやってきました。娘小狸がウレションするほど喜んでくれる確信があったわたしは、そのプレゼントの中身を見る瞬間を形に取っておきたかったので、まずは携帯を出してムービーを回してからプレゼントを渡しました。娘小狸は薄っぺらいくせにご丁寧にリボンまでかけられた物を、これまた丁寧に開けてくれて(こういうとこ好き!)、昨夜チラッと覗いちゃった鶴が織っていたであろうものを少し不思議そうに眺めながら、書かれているハングルを読んで「え、え、うそ、え、ええええええええ!!!」と手で口元を押さえてコーフンし始めました! 「まま!! これ!! ほんとに!? いいの? 行けるの??」と聞くので、ムービーを撮っている身としてこっくり頷くと、文字どおりパァァァッと顔が明るくなり、ウレションレベルで喜んでくれました。多分してたな、ウレション。一体何をあげたのかというと、わたしと娘小狸は2年ほど前から韓国の音楽シーンにどっぷりハマり、毎日K-POPを聴いては新しい情報を仕入れ、一緒になってどの曲が良かっただの誰がカッコ良かっただのと語り合っているのですが、その中でも娘小狸の一番のお気に入りがペンタゴンというアイドルグループのメインボーカル担当のジンホ(ジノ)で、彼のことは本当に毎日何かしら写真を見せてくれたり今何してるのかを教えてくれるので、わたしもジンホのことにめっちゃ詳しくなってます。そんなジンホを何のきっかけで好きになったかというと、毎月1回ジンホが、定期発行される雑誌のように、SNSに更新する「マガジンホ」という動画(このダジャレ感、嫌いじゃない)を、K-POPを掘っている時に偶然見つけ、初めて彼の歌を聴いて「こんなに歌の上手い人がいるなんて!」と感動してそれ以来ずっと好きだというのです。そうなんです。このジンホという若者はべらぼうに歌が上手くて、このマガジンホでは毎月ジンホのチョイスでいろいろな人のカバーをして、ピアノで弾き語ったりゲストを迎えたりして素敵な歌声を聴かせてくれるのです。ピアノが弾けるってのもポイント。ルックスも可愛らしくて、背が小さいので何をやっても可愛く見えるのも娘小狸にはたまらないらしい。まぁ、わからなくはないが今やK-POPアイドルってみんな背が高くてかっこいいんだけどな。そんな母の思いとは裏腹に、ジンホに恋する娘小狸は毎月マガジンホの更新をそれはそれは楽しみにしているんですが、この度韓国にて、そのジンホのソロライブが開催されるということで、もちろん韓国での開催なので行けるわけもなく羨ましがるだけの娘小狸に、母お手製のマガジンホのロゴ入りライブチケットと航空券がプレゼントされました。

 何度も何度もチケットを見ては目がキラキラしていく娘小狸。ジンホのソロライブ。こっそり予約した航空券とホテル。全てがバタバタの中の出来事だったので達成感と充実感が半端なかったです。旅慣れてるとはいえいつも誰かしらの手を借りて旅に出ていたということもありましたが、今回は行ける確証のある日程かどうかということもさることながら、まずライブのチケットが手に入らないとホテルも航空券も取るわけにいかず自分の仕事の調整などもあり、行ける算段がついたのが結構ギリギリでした。そこからの動きはまるでワンマン社長のワガママに素早く対応する秘書の如く迅速で、サプライズだったのでこっそり手配する中でも一番楽しく過ごせるように気を配らないといけないと思い、シミュレーションの毎日でした。そしてジンホのライブに行けるとわかってからの娘小狸はめちゃくちゃご機嫌で、見ていて清々しかったです。

 ライブは3月17日。K-POPにハマった母娘の二人旅が始まります。

(2018年5月号)

 

【つづきは書籍にてお楽しみください】