堀川次郎は高校二年の図書委員。
利用者のほとんどいない放課後の図書室で、同じく図書委員の松倉詩門(しもん)と当番を務めている。背が高く顔もいい松倉は目立つ存在で、快活でよく笑う一方、ほどよく皮肉屋ないいやつだ。
そんなある日、図書委員を引退した先輩女子が訪ねてきた。亡くなった祖父が遺した開かずの金庫、その鍵の番号を探り当ててほしいというのだが……。
放課後の図書室に持ち込まれる謎に、男子高校生ふたりが挑む全六編。
爽やかでほんのりビターな米澤穂信の図書室ミステリ、開幕!
堀川次郎は高校二年の図書委員。
利用者のほとんどいない放課後の図書室で、同じく図書委員の松倉詩門(しもん)と当番を務めている。背が高く顔もいい松倉は目立つ存在で、快活でよく笑う一方、ほどよく皮肉屋ないいやつだ。
そんなある日、図書委員を引退した先輩女子が訪ねてきた。亡くなった祖父が遺した開かずの金庫、その鍵の番号を探り当ててほしいというのだが……。
放課後の図書室に持ち込まれる謎に、男子高校生ふたりが挑む全六編。
爽やかでほんのりビターな米澤穂信の図書室ミステリ、開幕!
913
図書室は寂しくなった。
三年生の図書委員は互いに顔見知りで仲がよく、放課後になると図書室は図書委員会の遊び場になっていた。他愛ない雑談やちょっとしたゲームでいつも盛り上がり、閉室まで笑い声が途絶えることはなく、それだけに六月に入って受験準備のため先輩たちが委員会を退くと図書室は火が消えたようになってしまった。...
人間の奥行を美しく描く
島本理生×米澤穂信 対談
2018年12月にそれぞれの新刊『あなたの愛人の名前は』(島本)、『本と鍵の季節』(米澤)が発売された大人気作家二人の対談が実現。
同じ年にデビューしたお二人は、活躍する場が違うけれど、清潔な世界観や登場人物への優しいまなざしで読者を魅了し続けている。
今回の語らいで、ジャンルが違うからこその創作の秘密が垣間見え……。
聞き手・構成=タカザワケンジ/撮影=露木聡子
青春とミステリの、特別な関係
米澤穂信×青崎有吾 対談
米澤穂信さん二年ぶりの新刊『本と鍵の季節』は、図書委員の男子高校生コンビが謎に挑む、爽やかでちょっとほろ苦い図書室ミステリ。一月刊の青崎有吾さん『早朝始発の殺風景』は、始発電車や遊園地の観覧車などさまざまな状況で推理劇がくり広げられる連作短編集です。デビュー作以来、ともに本格ミステリの実力派として名を馳せてきたお二人。それぞれの新作にこめた思いとは? 意外な初対面のエピソードから、〝青春とミステリ〟の関わりまで、たっぷり語り合っていただきました。
聞き手・構成=朝宮運河/撮影=chihiro.
気軽に読める短篇が並んでいるようでいて、通読するからこそ味わえる感慨がある。米澤穂信の新作『本と鍵の季節』はそんな類のミステリ作品集である。
主人公は男子高校生。高校二年の堀川次郎は図書委員。いたって普通の男子。相棒は同じく図書委員の松倉詩門で、背が高く顔もよく、やや皮肉屋。いつも図書室で暇を持て余ます彼らが、いくつもの謎に遭遇していく。
第1話「913」では先輩の女子から「開かずの金庫」の番号を当ててほしいと頼まれる。というのも2人は以前、江戸川乱歩の短篇に出てくる暗号を解いてみせたことがあったからだ。第2話の「ロックオンロッカー」では、美容院に行った彼らが店に漂う不穏な空気を感じ取り、その事情を推理していく。第3話「金曜に彼は何をしたのか」で相談を持ち込むのは後輩男子。テスト問題を盗んだ疑いがかけられた兄のアリバイを見つけてほしいという。第4話の「ない本」で図書室に来たのは見知らぬ上級生男子だ。自殺した級友が最後に読んでいた本を探しているという。
ここまではどれも、2人が本や鍵にまつわる謎に対し異なるアプローチで推理力を発揮、時に食い違い、時に補完し合って事件を解明していく内容だ。と説明すると、米澤作品読者なら、「なんだかおかしい」と思うかもしれない。そう、主人公2人になんの屈託もないなんて ……!米澤青春ミステリといえば主人公の内面の屈折とほろ苦さも魅力ではないのか、と(確かに第4話の謎はほろ苦いが)。
ご安心を(?)。第5話「昔話を聞かせておくれよ」と第6話「友よ知るなかれ」は、謎に向き合うなかで、彼らの意外な苦悩が見えてくる。なかなか一筋縄ではいかない展開ではあるが、そこから2人の友情も浮かび上がり、読後感には爽やかさも残される。
印象に残るのは、誰かが嘘をついているパターンが多い点、また、真相が明らかになっても彼らが人を裁こうとしない点。それを読者に印象づけてから最後の2話を持ってきた巧さを、読者は噛みしめることになるはずだ。
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「おもしろかった!」と興奮の声が続々!
そして、次回も、謎解きは図書室から始まるのである。
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